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192 青年たちと彼らと、そして

 謎の「視界を奪う」物質の存在と、空港正規品であるはずのドローンがハッキングを受けたこと。優しき青年がばら蒔いた情報はプレイヤー達の耳に入った。結果、ある一定の人数は空港から脱出出来たのだが、うんともすんとも連絡の途絶えたメンバーが数名から数十名いるようであった。

 正確な人数は、あの事件から時間が経った今でもよくわかっていない。フロキリの城下町イベント広場に集まる中で一番事件に詳しいのは、謎の物質をディンクロンへ届けた際に話を直接聞いた学生三人組だった。

 雑多に集まったプレイヤー達はフレンド機能を使い、網の目のように組まれたネットワークで繋がっていた。ところがところどころブツ切れに途切れていて、統制する存在がいないために空中にぶらりぶら下がっている。受け身で情報を待つだけの彼らは、三人組以上の現状を得られない。

 まずそもそもの「拉致」ということが果たして本当に起きた事件なのか、彼らには確かめようがなかった。確かに連絡はとれないが、それだけなのかもしれないのだ。

「阿国とディンクロンさんの話、本当なのかな」

「ぷっとんさんが消えたのは間違いないらしいけど、他のメンバーはリアルの名前も分からないってよ。航空会社に問い合わせても、乗ってるかどうか調べるのは『本名が分からないと話にならない』って。確かにな。調べようがない」

「何が起きたのかさっぱりだよ」

「あの黒いのに張り付かれたまま、連絡がとれてない奴ら……そいつらがロンベルと同じように拉致られたってことだろ? ディンクロンさんによると、三十人くらい」

 結晶で出来た城の前に広がる広場の騒ぎを他人事のように見つめながら、三人の青年がそう考察を始める。

「そーなるな。一瞬で目が見えなくなったアレの効果で……でも他の一般客はちっとも騒がなかっただろ?」

 彼らは周囲を思い出す。最初の取り乱した時でさえ「学生が悪ふざけしてる」としか思われなかった。急に目隠しをされたというのに、周囲はそのような状況だとは気付かないのだ。こめかみが粘土で黒くなっていても、髪に隠れてよく見えない。

「騒ぎにさせずに拉致、か……あのドローン頭良すぎ」

「ドローンを操ってる黒幕が、だろ? 忽然と被害者が消えてたせいで事件そのものが立ち消えになったらしいじゃん。意味ねーっつーの」

「一般エリアの付き添いメンバーは?」

「……わかんないな。飛行機乗ったら電話できないし」

 彼らは狙われたとはいえ一般人である。

 広場に集まっている沢山のプレイヤー達が目に入る。彼らは何をするのだろうか。何か行動するのだろうか。

 彼ら三人は、不信感を持ってそこに居た。

「警察って言ったって、一体なにやってんだよ。テレビもネットもこれっぽっちも取り上げないし、みんな他力本願だし、なんなんだよ。ほんとにこのまま極秘裏にしてて、解決なんてできんのかよ。何もしないでいいのかよ」

 仲間二人も頷き、壇上に立つアイアメインをちらりと見てからため息をついた。



 一方渦中の被害者達は、とにかく会話しかすることがない。

 暗闇で今なお楽観的にお喋りを続けている。その様子を阿国は優しげに、ディンクロンは半分呆れながら見つめていた。

 彼らのログは勢い良く流れてゆく。

<ジャスティン アクション・開ける・アイテムボックス=失敗>

<メロ 発言 =ねぇねぇ、ルスツなんてどう?>

<夜叉彦 アクション・頷く>

<夜叉彦 発言 =寒くなかったら大賛成だけど、冬だろー?>

<マグナ アクション・顎 アクション・手>

<マグナ 発言 =そうだな。ウィンタースポーツが得意ならば楽しいだろう。榎本とガルドくらいか?>

 永遠と続くこの会話と行動のログ表記に、ディンクロンはそこそこ疲れてきていた。阿国の応急処置ではこのログ閲覧が限界であり、望むような音声データというのは手に入れられない。

 箱庭と表現した隔離エリアへ放り込む行為も、正確には「フロキリに接続されたローカルネットに放置されていた彼らをもう一度フロキリ内に誘導している」だけである。

 それ自体は難しいことではない。拉致を現在進行形で行っている敵は、阿国の乱暴だがしっかりとした偽装工作によってこのことに気付いていないようであった。

「海で通信を維持するなど、通信会社の中継基地が無い現状で一体どうやれば可能なんだ。衛星が可能な装備か? 空か、海の中か、海の上か。どちらにしろ急がなければならない。いつこのログ閲覧が気付かれてもおかしくないぞ」

「わかっておりますの。これ以上回線を調べるなんて、スズメバチの巣を素手でつっつくようなものですのよ。成果が上がるわけがない!」

 阿国がそう言って空を見上げた。小型飛行機から降り、広大な大地のような鉄の地面に立つ。

 大きすぎるそれは、しかし人工物だ。

 潮風とオイルの匂いが彼女を包む。船酔い止めの薬を貰おうと、早速英語で近場の船員に話しかけた。

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