188 状況に比べてお気楽
「ふろっぴー……」
「はっはっは、言うと思った。その例え古すぎるってよ、メロ。俺でもフロッピー見たこと無いし」
「あちゃー!」
「カエルの名前みたいだ」
ガルドの無垢で素直な反応がオッサン達には珍しい。社会人の彼らが新入社員として接する二十代の若者より四つは年下の彼女は、未知の領域を多く持つ純粋培養の「次世代ネットネイティブ」であった。
「けろっぴみたいな?」
「それも古いぞ、お袋世代で流行ったキャラだろ」
「おお、世代交代の波を感じるぞ!」
「はは、ジャスティン最年長だもんなぁ」
「ねーガルド、MDって知ってる?」
メロが試しに旧世代の音楽保存ディスクの名称を上げた。彼ですら親の思い出のコレクションを見たことがある程度で、ガルドの世代が単語すら知らないことは重々承知だった。
「えむでぃー……」
「だよな! ダビングってのも無いよな!」
ディスクなどに焼き込む動詞を出す榎本も、その行為自体は経験がない。
「ダイビング?」
「おお、まさか八ミリビデオも知らんか!」
「ビデオカセットは資料館で見た」
「資料館っ!?」
「うそだろ……そんな古いのか……」
「きゅるきゅる音がするらしい」
「ああ、巻き戻すときだろ。え、らしいってことは……」
「聞いたことは無い」
「な、なんだってぇー」
「そうだよなぁ」
「確かに娘のビデオ、SDカードだったかも」
「俺の息子もSDの入るカメラで撮ったぞ。手ぶれが酷くて家内に怒られたものだ!」
「SDは知ってる……旧型の簡易保存チップだな」
「事実だけどぉ、まだ生きてるじゃんかぁ……俺が学生の頃は何でもSDだったんだよ、写真とか映像とかアプリとかさー」
「静電気に弱すぎる」
「ぅぐはあっ!」
「夜叉彦ぉー!」
「そういえばスロットルも今のPCには無いな」
「ぐっは! まだだ、まだ使えるって! ほら、往年の名作ゲーム機とかセーブデータはSDだろ、携帯機とか」
「フルダイブの映像データ、SDの安いやつで何個入る?」
「五分モノだと、一個もはいんねーなぁ」
「うわああ! 知ってた! SDが化石なのわかってるから!」
「形は、可愛いと思う」
「ガルド……!」
<ガルド様……!>
「阿国、居たのか」
<ハッ! ガルド様の飴と鞭に思わず!>
暗闇で仲間達の声とポップアップを眺めながら、ガルドは地面かどうか分からないどこかに寝転んだ。手足を大の字に投げ、ぼんやりと天井だと思われる方向を見る。
真っ暗で吸い込まれそうだが、目を閉じているのとは違う黒さだった。




