185 託す相手は信用無し
くらりとした。
「お、おい……まじかよ」
「ガルドの親父さんが、ディンクロンの部下?」
「そしたらディンクロンって、ガルドの父親より年上ってことだよな。あれ、若社長なの?」
口々に声がするが、視界には誰の顔も見えない。ロンド・ベルベットが閉じ込められたのはそういう世界である。
それでも仲間たちの困惑した表情が目に浮かんだ。
<ワタクシより十は上ですの>
「えっ!?」
「阿国、お前確か『アバターガルドと並んでちょうどいいくらいの年』だって自称してたよな」
「五十より十は上って、え、結構いってんじゃーん!」
メロの爆笑が響き渡る。アバターの外見年齢は二十そこそこの若者だった。敵陣へ走っていく際の、あの子どものようなウキウキとした様子はストレスの反動なのだろう。
「一人だけ若いみたいな顔してたくせに……」
「……ガルド、大丈夫か?」
「そうだったな! おいガルド、大丈夫かぁ!? あまり思い詰めるなよ!?」
ジャスティンの爆音のような問いかけは、色々なことが起こり疲弊した心を勇気づけてくれた。ガルドは小さく返事をし、その勇気と元気をアピールする。
「ああ!」
ガルドの普段の話し口とはかけ離れてた返事に、周囲は突然慌てた声になった。
「だ、大丈夫だって! アバターの姿とかは教えてないんだろ? なあディンクロン」
<ああ>
「そうだよ、プレイヤーネームだって女の子アバターでもおかしくない名前だよな。お父さんきっと行方不明になったことに不安がって、ガルドのその、パワー系なボディまでは見ないと思うよ!」
女でガルドという名前は変だとガルド自身は思っている。それでも、夜叉彦の優しい言葉は嬉しかった。
「ググらなければいいがなあ!」
ジャスティンの一言が一瞬で空気を凍らせる。
ガルドはエゴサーチをしたことがない。だがその評価には大体予想がついた。あの図体のでかいアバター画像と、武者の形相で敵を斬り駆け抜ける男の動画が見られることだろう。
ゲームをプレイすることは喧嘩騒動の折りに母経由からバレていた。そこは良い。だが「男アバターで世界大会レベルの腕前にまでのしあがったストイックなハードゲーマー」であることは隠し通したかった。
<お任せください、ガルド様ぁ!>
ポップアップが達筆な乙女毛筆書体に変化して現れた。
<ワタクシがこちら側で、全力で! 義父様に流れる情報を操作しますの!>
「逐一ガルドの無事な様子を口頭で伝えるのがいいだろうな」
「おやっさんを安心させてやれ、それが出来るのはお前さんだけだ!」
<おほほほ、お任せですの! ワタクシが義父様を支えますのっ>
阿国が佐野をあらぬ単語で表記したことには、もう誰も触れなかった。念の為、真面目なマグナが全体的な意味で釘を指す。
「やりすぎるなよ、阿国」
<わきまえてますの。でもご挨拶は済ませましたのよ>
<いつものノリだったからな。ドン引きされてたぞ>
「あぁーもぉー言わんこっちゃない!」
「……とりあえず、ばれないように頼む」
<かしこまりましたのっ!>
暗闇でお互いの顔を見ることは叶わないが、ギルドメンバー全員の気持ちは揃っていた。
隠し通すのは不可能だ。
ガルドは一人、渋い顔でため息をついた。
今後、アルファポリス版から展開を変えて別のエンディングへ向けて進み始めます。感想欄でいただいていた内容を踏まえ現在新プロット作成中ですので、読者の皆さんのご意見ドシドシお待ちしてます!




