181 反撃スタンバイ
九郎が言う入れという指示は、文字通り彼が繋いでいる支援機体にゲストログインしろという意味を持っている。ジェラルミンケース自体がPCであり、数センチ開いた口から庭用ホースのような太さのコードが何本も生えていた。事務所で使用しているものと同じ型式のそれは、ボスオリジナルの脳波コントローラ用に先端がジャック凸コネクタになっている。
しかし彼女のこめかみはつるりとしていた。
「ええ、お邪魔しますの」
そういうと協力者は、いつのまにかエリアにやって来ていた影の薄い老婆に「ヘッドフォンを」と注文した。
「かしこまりました」
部下一団はその老婆の存在にやっと気付いてぎょっとしつつ、協力者の部下か何かなのだと理解した。
セレブのような口調の女性から考えるに、傍に佇み静かに答える様子はまさに「婆や」であった。
年配が持つには大きすぎるデイバッグから、黒と紫の妖しげなヘッドフォンが現れる。それをするりとロングの黒ワンレンヘアをかき分けて耳に当てた協力者は、そのヘッドフォンに九郎のコードをぶすりと指した。
ヘッドフォンの形はダミーだ。
耳の部分あるはずの音を吐き出す機構は存在しない。脳波感受の恩恵でディスプレイが無意味な者だけが使用できる、ヘッドマウントノンディスプレイプレーヤーだった。
「……いただきましたの。貴方の権限、このまま借りますわ。この情階でしたら……うふふふっ、丸裸ですわぁ!」
彼女の笑い方は、上品さの欠片も無い敵意と武者震いで満ちていた。
短くてすみません。23日の分は通常の倍の字数で投稿します。




