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18 酒場の再会

「おお、なんてことだ……気付かなかった。気付かなかったぞ!」

 普段の調子で、ジャスティンが驚いた。背が高いためみずきには若干違和感があったが、そのけたたましさと暑苦しさは変わらない。ほっと胸を撫で下ろしながらもう一度謝罪した。

「悪かった」

「リアルでもその口調なのか。動きも変わらんなぁ、身長は俺より低くなったが。まるっきりガルドだなあ!」

「そういうジャスも」

「だはは! ロンド・ベルベットで性格をロールプレイしている奴などいないだろうな! いやぁ、ナリに違和感はあるが普段通りだ」

 ジャスティンは楽しそうに笑う。

「だが、女なのに、男のふりをしていた。嘘ばかりついて」

 みずきは騙し続けてきたことに罪悪感を抱いていた。隠し続けてきたこと、リアルで会う段階になるまで言い出せなかったこと。しかし嫌われるのは嫌だった。都合のいいことだと理解しているため、謝罪してもなお喉の奥で硬いトゲのように引っかかっている。

「良くいるだろう、そんなの」

 あっけらかんとジャスティンが言った。

「……そうか」

 良くいるのだと言われ、みずきはやっとネナベやネカマが存在を許されないほど悪いことではないのだと気付いた。

 罪悪感と嘘をつくことへの嫌悪感から、みずき自身の中だけで膨らませてしまった悩みだったらしい。確かにネカマやネナベなど沢山いる。身近にも多いだろうが、彼らを犯罪者などと存在だと思ったことはない。

「性別より年齢の方が驚いたぞ。年の割に落ち着きすぎやしないか? ゲームセンスは若い方がいいらしいが、判断力が十代のそれと違うな」

「自分ではわからない」

「だろうなぁ。ソロだった頃は俺と同い年だと思ってたぞ。榎本とウマが合うから、想像よりずっと若いやつだと気付けたがな。あいつは若い! と言っても三十代か?」

「榎本はあれで四十だ」

「おお、そうだったな! がはは!」

 ジャスティンは年齢を話題にあげて豪快に笑う。ガルドはそれが誇らしくもあり、悲しくもあった。ジャスティンの実年齢はわからない。だが、その容姿からおそらくみずきの父と同年代だ。父程の歳と思われていたらしい。それが女子高生のみずきには、自身の性別詐称よりもずっとショックだった。



「夜叉彦、てめぇ! ぶつかってくんな!」

「加速アイテムなんぞぉー、使ってんじゃぁ、ねぇっ! てね!」

 居酒屋のメインモニタとHMDヘッドマウントディスプレイを使って、三人はゲームに興じていた。宇宙空間をテーマにしたレースゲーム「スクランブルスピード」の最新作、スクスピⅥである。

 HMDでプレイしている夜叉彦と榎本は居酒屋の中央テーブルに移動し、モニタで無言のまま操作しているマグナは壁際に椅子を持って行ってプレイしている。メロは後方のソファでゆったりとビールを飲みながら鑑賞しており、時折「そこショートカット~」などと茶々を入れた。

「無言でやってるけど、マグナ大丈夫? 酔ってない?」

「……ああ」

「うわぁ無口なマグナ怖い~! 目ぇ座ってる!」

 メロが笑いながら悲鳴をあげ、マグナはそれを無視しゲームに没頭している。他二人を二周追い抜いてトップを走り、まるでタイムアタックのようなプレイをしている。

 そんな中、唐突に大きな声が店内に響いた。

「ここか! 確かに不思議と懐かしいな。見ろ、インテリアまでまさに俺たち向けだぞ! お、ガルド。ほれ、うさぎの足だ!」

「……グロい」

「そうか? ふさふさだな、本物の剥製か。どら、触ってみるか?」

「グロい」

「ほれ!」

「やめろ」

 ゲームプレイに没頭する三人は気付かない。様子を見ていたメロだけが、新しく入ってきた彼らの様子に気が付いた。

 一人はあからさまだ。大きな声、デリカシーのない会話内容、出ている腹。アバターより高身長で毛が少ないが、間違いなく遅刻魔ジャスティンだ。メロとはなんども顔を合わせてきたため、間違いようが無い。

 しかし、その隣で立っている女の子は誰だろうか。メロは目をパチクリさせてじっと見つめた。遠目でも分かるほど、ジャスティンには全く不釣り合いな美少女だ。

 初冬に降る粉雪のような肌にほのかな赤みのあるほおが愛らしい。サラサラの黒髪ボブが歩くたびにふわりと揺れ、華奢な首すじがちらりと見えた。さらに首とアゴまで隠してしまうほどゆったりしたタートルネックの白リブニットワンピースで、すらりと伸びる足を黒のスキニーがぴったりと包んでいる。

 かつりかつりと女子力の塊のような足音をさせながら、榎本たちがゲームをしているテーブルへと向かってきた。足元は黒エナメルのヒールブーツで、ハイレベルな容姿とファッションに読者モデルだと言われても疑問なく頷いてしまいそうだ。

 メロは少女から目が離せなくなった。

「奥でゲームやっとるな……む、あれは!」

「スクスピか」

「こんなところでまでゲームしてるとなると、あいつらだな! 一位のMGとかいうやつ、マグナだろう。わかりやすすぎないか?」

「ああ」

「なんだあの機体、まんまマクロスじゃないか!」

「ん」

「どれ……」

 ここまで話を盗み聞きしたメロは、既に気付き始めていた。だが認めたくなかった。女性であることはわかっていたが、あんなに若いとは想定外だ。あの年齢相応なのか、美魔女で本当は三十代なのか。しかしメロの娘とそう大差ないようにも見え、とにかく確かめなければと席を立って側に寄った。

「ガ、ルド……だよね?」

 メロの口から、意図せずポロリと名前(プレイヤーネーム)がこぼれ落ちる。その声はチェンジャーの変換が最低限に設定されたメロのものとほぼ同じで、少女はすぐに名前で返事をした。

「メロ」

「おお、メロか! すまんな、遅れたぞ!」

「それは予想できてたからいいけど、それよりガルド、ちょっと……なんで……」

 感情表現がいつも大きいはずのメロが溜めた困惑の言葉に、少女の顔色がさっと変わる。すうっと血の気が引いていき、長いまつ毛の奥で瞳孔がキュッと縮んだ。怖がっているらしい。

 溜めたのち、メロはちょっと元気に叫ぶ。

「なんでそんな可愛いの!?」

 遅刻した二人はきょとんと顔を見合わせ、ジャスティンが大きな声で笑い出した。

アバターを設定する際、声を電子上で変換するボイスチェンジャーをかけられます。メロはそのチェンジャーを最低レベルにし、ほぼ生声でプレイしています。ガルドはほぼ完全にチェンジしていますが、ベースの女子声がどうしても混ざっています。

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