175 社員総出
部下の一人、背中に大きな荷物を抱えた男が報告を始める。
「映像さらってますが、相手の狙いは隠すというより潰すことにあるみたいです。直したやつ、濃淡と色が辛うじて判別できるようになりました。あとはAIに任せましょう」
「よし、お前はその解析内容を監視しつつ聞き込みだ」
「え、聞き込みまだなんですか?」
「人間にではない。一般人が持つ電子機器にだ」
「そっちですか。えっと、ただの株式会社がやるにはちょっと度が過ぎるような……」
「背中のやつを持ってこさせた意味が分かっただろう。やれ」
「はい!」
脳波感受を持つ部下の中でも、攻勢に出る機能の外付け装置をバックパックのように背負った部下へ、ボスが鋭く命じた。
大きい機材なだけはある。非合法なハッキング支援プログラムと送受信装置を極限まで詰めており、そのパワーは段違いだった。冷却装置を入れていないため、すぐ高温になるのが欠点だ。
「ボス、ファーストクラスラウンジの映像はダメです。バックアップまでベットリ汚染されてますね。ここが本命なんでしょうか?」
「そうだ。アイツらが狙われていたのは前から把握済みだった。だからこそ布袋が直接張り付いて、アイツの部下まで居た。それがこのザマだ!」
「ボス……」
珍しく荒々しいボス九郎の様子に、佐野仁は驚きながら熱意に燃えた。
あの冷静沈着なエリートをこうも激昂させる犯人が憎い。今だ数年の付き合いだが、自分の大事な上司である。尊敬する彼に、自分でどこまでできるか不安だったが、全力でもって助力したいと願った。
細身の体格で頼りなさそうな部下・三橋が、急かされるように方法を一つ挙げる。
「位置情報送信システムは奴等が潰しているでしょうし、映像の情報が無いとどうにもなりませんよ。あとは音声解析でしょうか。一般搭乗エリアの映像解析と平行して、マイクの音声を拾ってみるとか」
「よしやれ。速攻でだ」
「あ、はい……佐野さん、手伝ってくださいよ……」
「いや僕は映像解析に……」
「うう、大柳さーん」
「そんなキャパ使う作業イヤ。支援は在宅のメンバーに頼みなさい」
「よーし……非番のみんな、頼むぞぅ?」
ふざけているように見えるが、三人は既にそれぞれ作業に取りかかっている。膨大な録音された音声データを洗い出す作業に着手しながら、三橋は応援を求めた。
返事は、三橋達脳波感受型コントローラ持ちにはその脳に、ノーマルである佐野は耳にかけたインカムへと届いた。
<しゃーねーなぁ、とりあえず時間で絞ってくれや。ドローンの飛行速度と重ねてやれ。そんだけの人数だぁ。目撃された飛行タイプ以外に空港で使われてる荷物運搬用とかどーだ。あとはそうだなぁ……清掃用とか、デッカイやつの移動速度も加えてくれや>
その間延びしながら正確な内容に、ボス九郎がまた一つ仮説を弾き出した。
「他の運搬ロボットか……」
空港職員や警察関係者が必死に探しているにも関わらず、どの飛行機を使って飛び立ったのかまだ不明だった。ほぼしらみ潰しに探したはずであるが、まだ何の音沙汰も無い。
事件のあった時刻に飛び立った便全てを調査するよう既に指示が出ており、恐らくこの事件が解決するまで、出国する全ての飛行機が入念なチェックをされることだろう。
そこまでしても、見つからない。
「空港外へのルート上も警察が張っている。飛行機の中もチェックしている。見落としているとしたら、全く別のルートしかない」
例えば機内食運搬のルート、飛行場維持のための電工のスタッフ。他にもきりがないほど出てきそうだった。
「とにかく、やれることからやるぞ」
焦りが視野を狭くする。ボス九郎は、懐からニコチンのパッチシールを取り出して腕に貼った。




