174 向こうも予定外
事件から一時間程度しか経過していないが、被害状況は分かりはじめていた。呆れながらボスがため息をつく。
「行方不明者、合計で四十名……」
「おおよその概算だ。正確な人数やリアルネームは積極的に調べなくていい。とにかく今は、彼らの行き先——さらわれたと断定するが、その行方が最優先だ。見つけたか?」
話しながら、そして歩きながら、彼ら警備会社スタッフは各所の防犯カメラ映像に潜っていた。上塗りされた映像は、事件発生直前三分間のリピート映像でしかない。
敵も急いでいたのだろう。雑な隠蔽だった。
彼らを率いるボスである九郎は、今回の事件の筋書きにとある推測を立てていた。
「今回の拉致は敵にとっても予想外だったはずだ。防犯カメラ偽装の爪の甘さ、空港のドローンにベタベタとつけた指紋、予定外の人間を同時に拉致した現状。これは相当焦って手を出したようにしか思えない」
「予定外の人間、ですか」
「そうだ。ナンバリングした下から七名がそれだ」
被害者の内、九郎がディンクロンとして得た知識とコネでもって判明したプレイヤーというのが三十名。
それ以外の、部外者四名は脳波感受をつけていないことまで分かっている。さらに屈強な体をした男性が三名、所在不明の音信不通だ。彼らは素性も名前も知れている阿国が雇った警備員達だった。
その全員が、脳波感受型コントローラを埋めていない。
飛行機の搭乗審査と実際の搭乗記録の差から弾き出した四人は、ラウンジでの被害者だった。例外無く手荷物検査と身体金属検査を受けている。手荷物にフルダイブ系機器のコード類は見られず、身体への金属の埋め込みも確認されていない。
「正しいんですか、この名簿」
「暫定だ。確定版は空港からの情報提供後だ」
「まだなんですか?」
「音沙汰はない」
「うわー……」
ディンクロンとして情報を得た三十名のプレイヤーというのも、その全てがネット上での情報だった。
正しいかどうかなど確証は薄い。しかし、阿国や無事だった見送り出席者が証言しているため、ほぼ間違いないとデータベースに詳細を載せていた。




