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168 第三者の目

元は番外短編として別にカウントしていましたが、本編に関わる部分なので第三者視点一人称として混ぜ込みました。

 いつもよりざわついているとは思っていた。

 一際目立つ女性が颯爽と現れるのを見て、なおさら今日は「ざわざわしてる」と思った。



これは、その時ファーストクラスラウンジで何が起きたのかを見ていたラウンジ常連客の話。



 マイル修行をして必死に手に入れたカードでもって、僕は五十代にしてこのラウンジの永久使用権を手に入れている。海外出張などほとんどしない仕事をしている僕にとって、ここまでの道のりは予想以上に困難だった。観光もそこそこにひたすら飛行機に乗りまくり、移動時間はもちろん仕事にあてたものだ。

 こうして手に入れた金持ちの楽園だけれども、なんでもかんでも上手くいくわけじゃないようだ。

 格式高い空間のはずなのに、たまにこうして騒がしい様子になることがある。それはこうした大型連休(バカンス)の最中であったり、年末年始のような民族大移動であったりする。僕にとってはただの休日でしかない——恋人も家族もいない自分のせいだけれど——全くもって不快だ。

 年老いた長野の母や、横浜に住んでいる仲睦まじい弟一家はそれぞれのんびり連休を過ごしているだろう。中でも甥っ子は立派なオタクに成長し、連休はずっと家にいるのが想像できる。

 僕もそうだ。旅行には興味がない。のんびり趣味の読書や動画鑑賞を楽しむために、このラウンジは設備も眺めも最高だから来ているだけだ。あと少々の飛行機に対する愛。

 その中でも今日は、随分と騒がしいマダムがいた。

 一挙一動は素晴らしい。思わず見惚れるその所作(しょさ)には、僕と同じ仕事人間だけが持つハイクオリティな匂いが混じっている。うちの秘書が綺麗に年をとったらああなるだろう。

 真面目で完璧主義で、なおかつ女であることを誇りながら仕事をするタイプの美しい信念が伝わってくる。すばらしい。僕の理想形に近い。

 妻にするならああいう強気なのがいい。

 しなだってきてべたべたしてくるようなあの女とは違う。そこまで考えて、あの下品で至上最悪な元カノを思い出してしまって気分が急降下した。ああ、最悪だ。

 そんな美しいマダムだが、しかしよくよく観察していると、結構うるさい。魅力半減だ。

 ピーチクパーチク喋っている彼女は、どうやら数人部下を連れているらしい。アイコンタクトでのみ伝わるその関係性を見破れたのは、遥か昔にやっていた野球のお陰だ。グラウンドに立つ仲間達と合わせる目線のようなものを、女性は数名に向かって発信していた。

 相手はきっとスーツのあの男性達だ。

 ふとその男達の様子に違和感を覚えた。カタギじゃないぞ、あれは。

 警察勤めで忙しくしている従兄弟に似た、肩をしゃきんとさせた動きがどうも引っ掛かる。よく見てみると左の腰を庇っていて、そこに大事な大事なものでもホルスターに入れてるんじゃないかなと思うくらい違和感があった。

 うむ、これは潜入捜査なのかもしれない。

 となると俄然興味が沸いた。僕はこうみえて噂とか都市伝説とかが好きだ。こういうシチュエーションも大好物。観察を続行する。

 女性がカツカツヒールを言わせながら近づいていったのは、いかにも「庶民が場違いにもハイクラスの飛行機とっちゃいました」みたいな男達の元だった。

 おお、犯罪者なのかな。それとも逆に助っ人の傭兵集団みたいなやつかな。思わずニヤニヤしながら見つめていたことにはっと気付き、慌てて顔を引き締めた。

 庶民は、どこからどう見ても普通のサラリーマンにしか見えない。僕より年下くらいだろう。ひょろいやつからちょいマッチョまで選り取りみどりだけれども、そんなことよりとんでもないものを見た。

 女の子だ。

 弟の息子よりちょっと年上くらいの、すらりとした長身のティーンエイジャー。

 謎のスパイ・マダム——だと僕が思っている女性——がなにか喋り、男達が彼女を庇うようにポジショニングしている。特にあのチャラいストリート系のやつが背中にすっぽりと隠した。まるで小説に出てくる騎士の真似事をしているかのようだ。

 後方にいる僕からは、男に隠された少女の背中がよく見える。細いし髪はさらさらで、清楚ないいとこのお嬢さんだ。男達に大事にされる理由がわかる。

 そんでもって、マダムが他を押し退けてあの子をぎゅっと抱き締める理由も、そうしたときの男達の悔しそうな顔にも同調する。

 どうやら彼らは親しい間柄のようだ。マナーはなってないが、あの子だけは静かにしている。ますますいい子だ。逆にあの騒がしい民族衣装の男はなんなのだろうか。騒がしマダムと揃うとまるで井戸端会議だ。僕はげっそりとしながら、カレーを取りに席を離れた。

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