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167 吠える

 自分の姿に気付かないまま、ガルドは両手で頭を抱えた。その腕はアバターのそれよりずっと細く、しかし人間にしてはシワも毛も無いつるりとした皮膚をしている。

 3Dスキャンによる「みずき」の外見データで出来た彼女は、そのことに気付かないままマットブラックに表現された髪の毛をガシガシとかいた。その触り心地はいつもより軽やかで重みの欠片もない。

 ガルドの頭は混乱と怒りで、それどころではなかった。

 周囲の誰が同じ状況かは分からない。今思い返しても、ガルドの記憶は平穏そのもので途切れている。

 しかし、何者かに何かされなければこんな状況にはならないだろう。意図があるはずだ。この場所が脳波感受で接する電子的ななにかであることを、ガルドは確信をもって実感している。

 この場所は、何者かに用意されたものだ。

「誰だ……」

 考える。

 直前のオレンジカウチは関係ない。彼にはこんなことは出来ないはずだ。空港での迅速な警備の動きを見るに、警備レベルというのはしっかりしているはずである。

「ここは、お前達が作った世界か?」

 フルダイブ機のような機材にくくりつけられ、ただの黒いワールドに放り込まれたのだろう。しかしウェブと繋がっているとは思えない。繋がっていたらその「向こう」を感じることができるはずだ。

 脳波感受に手慣れているガルドは、いつもの(オンライン)の気配を感じない状況にも恐怖していた。

 誰もいない世界に閉じ込められた、という恐怖を全身で受け止める。

「——あ、ぅうっ」

 それは、オフラインの機械と有線した経験があればなんとなく分かるものだ。気配の無い個室のような世界に入り込んだことがあれば、オンラインで繋がっている世界の多様な世界を再認識できる。

 人はいない。感じない。

 だが確実に、ガルドをモニタしている何かがいるはずである。

 マジックミラーのようなものか、ここを録画しそれを物理的に下ろして見るという手法でもって、ガルドを監視している人物。

「お前は、お前達は……顔ぐらい見せろっ! 何が目的だっ!」

 ゆっくりと、徐々に加速してきた苛烈な怒りが表面に現れた。少女の顔のまま、歯を剥き出しにして全身を震わせながら叫ぶ。

「ぐらあァッ!」

 少女は吠えた。

 絞りきったその激情のままの叫びは、しかしむなしく闇夜に吸い込まれていった。

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