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160 高速道をひた走る

 アクセルを強く踏み込む。

 目視確認もそこそこに車線変更をひたすら繰り返し、完全に違法な速度で愛車を走らせた。ステアリングを握る手がかさつき、動きが鈍くなっているのがわかる。

 しかし連休の混雑で道は塞がっていた。舌打ちする。目元のシワが頬の動きに合わせ、深く刻まれた。苛立ちが酷い。男は車のドアポケットから、常備している肌色のシールを取り出し左腕に貼り付けた。禁煙用のニコチンパッドだ。プラシーボだろう、不思議と手の力が程よく抜ける。

「いっそのことフライト中止に……」

 そう独り言を呟いた。そうはならないことも、女からの通信で知り得た。向かう先の空港で何が起きているのか、情報を収集している。高速をひた走る車の中で、こめかみの脳波感受型コントローラの穴にコードを差し込んで報告を聞き、空港の地図を思い浮かべて趣味レーションをする。口より早く送受信できる脳波感受の恩恵で、あっというまに向こうの状況を把握できた。

<殴り込んだが、返り討ち——あほだろう>

<思うけど、それは護衛のお陰でしょ。しかも私が手配した部下じゃないし。騒ぎってほどにもならなくて、空港はもう平常運転>

<しかし仮にも暴行の現行犯だろう>

<だから暴行までいかなかったんだってば。だって被害者不在なの。絞めようと伸ばした奴の手、届かなかったんだもん>

 男は「その歳で『もん』とか言うな」と言ってやりたかったが、それを言うと彼女がひどく機嫌を損ねるのも知っていた。黙ったまま話を進める。

<……フライトはどうだ、延期か>

<何事もなく通常通り。それにロンド・ベルベットのメンバーは無事審査を抜けた。全く、前もベルベットの時に特攻騒ぎあったらしいじゃない。こんな感じだったわけ?>

<そのような情報は無いが、そうだな。未遂に終わっただけかも知れん。フロキリでこれか。他の人気タイトルの壮行式は一体どれ程血まみれなんだろうな>

 男は、脳波感受技術で打ち込む文章の際にだけ少々饒舌になる癖があった。

<やめてよ。さすがに警備も警察もそんな無能じゃないはず——でも身内の恥に変わりないわね。榎本とマグナが阿国に働きかけてなかったら、今ごろどうなってたか>

<影武者か。実際に実行するとは思わなかった。確かにガルド一人居ない壮行式というのは逆に怪しまれただろう。標的はそうなると相棒の榎本か新人の夜叉彦になったかもしれない>

<私、ちょっとネットストーカーを甘く見てたかも。女だから痴漢とかは怖いっていう気持ち分かるけど、男が男キャラのストーカーになっても大したことないんじゃないかって思ってた>

 通話相手の女が話す内容に、男も同意する。

 二人は、ネット上での執着が常人の予想を超えた行動力を持つのだと知った。殺人を犯そうなどとは思っていないのかもしれない。しかし結果それに近いことが起こり、そして運良く、本当にまぐれのような幸運でそれを未然に防げた。その事実に安堵する。

 写真で見たガルドは、まごうことなき少女だった。そして未成年の彼女は、その事実が隠されているにも関わらず、ログイン率の低い男が把握するだけでもおよそ四人の熱狂的なファンに追われている。その四人は互いに喰い争い、情報の勝負を繰り広げていた。

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