158 ピンクのヒールは隠しきれない趣味の色
「おお、いたいたー」
寄り添うようにガルドを囲んでいた一団に、女がそう声をかけてくる。
上品であるはずの上位ラウンジで、連休という時期的なこともあり想像よりも騒がしいのだが、さらに一際大きな女性の声だった。年長のメロやジャスティンより一回り年上の、そろそろ定年かと思わせるような壮年の女性である。
お祖母ちゃん子だったガルドは再度顔に力をいれた。今度は目尻だ。
ただでさえ仲間達の言葉と直前の事件に混乱しているところに、祖母ほどの年の女性だ。感動と悲しみと懐かしい思い出が意図せず押し寄せ、ガルドの涙腺を攻撃する。
「やっほー」
しかし口調が若い。程よく涙が引っ込んだ。
「ええと……どなたで?」
「え、わかんない?」
ぽかんとした表情の女性は、ミルキーホワイトが上品なワンピースと、仕立ての良い揃いのジャケットを一寸の隙もなく着こなしていた。頬のシワがきれいに刻まれており、美しく年を重ねた女性ならではの優雅さをまとっている。
それ故、砕けた若々しい口調が目立つ。
「……関係者か?」
榎本が鋭い視線を浴びせ、直前のことを気にしてか、ガルドをすっぽりと背中側に隠した。大きな体躯に、不安無くガルドは一歩下がり様子を見守る。
「うんうん、警戒するのは正しい反応。でも私のことが初見でわからないとは、随分悲しいじゃない?」
「マイペースなバアさんだな」
自身もギルド最年長で五十代であることを棚に上げ、ジャスティンがデリカシーの無い一言を発した。
「ちょっと! そーいうとこがゲテモノオヤジだって言ってんのぉ!」
「……ああ、ぷっとんか?」
洞察力が良いマグナが、その話し方とジャスティンへ切り返した内容で気付いた。幼女の姿をしたアバターとは似ても似つかない。ガルド以外のメンバーが愕然とする。
「え、女?」
「えっ、ネカマかと思ってたのに……」
「夜叉彦……アンタまで……」
「ええっ、俺だけじゃないよ、みんなそう思ってたって!」
「だって、なあ?」
「ツインテールとかピンクの夢可愛い系な装備とか、絶対『女を楽しんでる男』だと……」
名指しされた夜叉彦を筆頭に、榎本とジャスティンが揃ってネカマ説の信憑性を高める要因を上げていく。しかしガルドは、信じていた通りの女らしいぷっとんに嬉しくなった。
ぐぬぬと顔に力を入れて声をかける。思いもよらぬ彼女の正体にまた目尻が熱くなった。




