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157 仲間の声とラウンジ

 騒動があったエリアをそっと、何も知らない振りをして通りすぎる。実際は客同士の喧嘩だと思われたらしく、それほど大きな混乱は見られなかった。

 通常運転の丁寧な審査を終えると、ファーストクラス専用のラウンジに直通で通される。荷物を預け身軽になったガルドが一転シックな雰囲気へと様相を変えたフロアを進んでいると、ひと足先に入っていた仲間たちが客を掻き分け近付いてきた。

 向こうからはガルドがよく見える。大人か上等な家族連ればかりのその空間で、ガルドの年頃が一人で来るのはやはり目立った。

「ガルドー、だいじょうぶだった?」

 そう不安げに声をかけたメロのゆらりと揺れるボリュームをたたえた茶髪は、見慣れたあの鮮やかな青ではない。腕に装着している市販のカラフルなバングルが、ちゃららと軽やかな音色を奏でている。

 いつものメロがそこにいた。それだけで、いつのまにか固まっていたらしい顔の口元だけがぴくりと動き始めた。しかし口角は望む方とは逆に、下がっていく。意図せずなにかしらの感情をこらえるような、食い縛るような顔になった。

 これはまずい。ガルドは必死に頬の筋肉を上へ上へと引き締めた。

「連絡、来たぞ。騒いではいるが、薬物の疑いで空港内の警備部に連行された。怪我人ゼロ、目撃者がちりじりに散っていて、被害報告も阿国の警備からのみ」

 マグナの事務的な報告が今はシンプルでありがたかった。感情の入れ込む隙がないその言葉に、混乱して理解が追い付いていなかった状況が正しく把握できる。そして、阿国の迅速な行動も嬉しかった。

「……そうか」

「被害()()()が直々に犯人を縛り上げたらしい。大丈夫だ、むしろあいつはいい仕事をした」

「ガルド、無事でよかった~」

「うむ!」

「だな。よかったよかった」

 口々に安堵を伝えてくれた仲間たちに、ガルドは申し訳ない気持ちを抱いた。

 そう思わせてしまった、根本的な原因を思い出す。

「だいじょうぶ……奴はこっちには気付かなかった。それにボートウィグもいた。でも、そもそも、」

「ガルド」

 割るように榎本が口を開く。

「奴がお前を狙ったのは、お前のせいじゃない」

 いつになく真顔でガルドの両肩を掴みながら話す榎本に、またガルドの心が掻き乱された。

「そうだぞ、奴がお前を標的にしたのは、お前の優しさに甘えて付け入っているからだ。お前程優しくない俺たちには見向きもしないのがその証拠だ」

「あいつ、無個性なのに目立ちたがり屋だったよな。おおかた動画に映って炎上してさ~、とにかく有名になりたい、とかじゃない?」

「ベルベットを狙ったやつらはそうだったな!」

「そうそう、そうだよ。ガルドが悪いなんてこと言い出したら、あいつなんか諸悪の権化じゃん。今日は一人だったけど、あのときは続々と来たんだよ~? 何人だか結局教えてくれなかったし!」

「ベルベットは逆に奴等を早めに誘いだし、どこかに釘付けにしたんだ。その場所は俺たちも知らされなかった……」

「ヤツは想像以上にヤバかったけど、なんにしろ無事で何よりだね」

 次々と聞こえる仲間たちの言葉に胸が熱くなる。阿国が護衛を買って出てくれたという話を聞いてから、ガルドがずっと抱えてきた見えない鎖がやっと紐解かれていった。

「お前はそのままでいろ」

 そう言いきった榎本に、皆頷きながらガルドに笑いかけた。

「アイツみたいなのが居たって、ガルドが気に病むことも、その優しいところを止めることもないさ」

「そうだぞ、お前が居るから奴は今までフロキリの世界で()()()いられたわけだ。奴にとっては救いだったはずだな!」

「もしかしたら狙われたの、夜叉彦だったかもしれないしね~」

「え?」

「女性ファンを統制してるMISIAのお陰で、暴走せずに今までこれてるけど」

 メロが話題を明るく変えてゆく。

「正論だな。厄介なプレイヤーや粘着系の量で言えば、四年目のガルドより一年目のお前の方が増加率は高い」

「え、そうかな。みんないい子達だってば」

「あ”ぁ?」

「あれが?」

「……MISIAが凄い、夜叉彦は罪作り」

「ちょお、ガルドまで!」

 その奇妙な悲鳴と榎本のチンピラのような顔芸が、痛みさえ感じたガルドをそっと優しく引き上げる。沈んでいた空港の景色が、少しずつ前感じた開放的な世界へと変わってきていた。

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