148 警戒態勢
海外旅行には荷物検査や出国審査の手続きが必須だ。わざわざ見送りにきてくれたプレイヤー達には悪いが、ギルド:ロンド・ベルベットはそろそろ行かなければならない。
空港がやたらと混雑していることもあり、審査の予定を早めることとなった。ロンド・ベルベットの六人はファーストクラス専用のものを、それ以外のメンバーは通常のものに入って行くことになる。
その変更は離れている阿国にも伝わった。
六人と警備担当の阿国は脳波感受にコネクトしたスマホで会話をしながら行動していた。榎本の合流、影武者の離脱と入れ替わり、危険人物の襲来などは逐一共有された。
つい先程予定を早める決定が流れたそこに、さらに一本の新規メッセージが音を立てて現れた。
<残念なお知らせですの>
阿国から送信された一文が、愛らしい筆文字フォントで現れる。不穏な空気を持ったその言葉に、メッセージを見ることが出来る六人は悪い予感の的中を知った。見送りに来てくれているプレイヤー達に悟られないよう、表情を変えずにマグナがその文章に返信を入れる。
<誰が来た>
<オレンジカウチ、断定ですの。海外輸入の公式バッジをリュックに、わざとぶつかった警備が独特の口調で罵られたと報告>
その名前を見たガルドは、隣に立つ榎本よりも緊迫感を一段階薄めた。
オレンジカウチは阿国より安全なプレイヤーだ。ガルドがそう思うような、ある意味ありふれた相手であった。被害を受けたという自覚はない。
危険プレイヤー入りしている理由がただただ不思議だった。
<あいつか>
<おいおい、頼むぜ!>
<指示は出しましたの。ルート上に警備が少なくて、追わせてますの>
<少ない? なんでだ>
<アイツ、わざと遠回りしてやがりますの。フロアを何度も無駄に上がり下がりして、やっとワタクシのフロアに来ましたの>
阿国がいるのは、ガルド達がいる審査エリア前ではなくもう一つ下のフロアだ。そこから上がってくるルートは限られてくる。
<先回り頼むぜ?>
<布陣は完璧ですの>
<阿国、ありがとう>
<もったいなきお言葉! ガルド様はワタクシが守りますのっ!>
数コンマの早業でピンク色に変更したその返信に、ガルドは過去を忘れて感謝した。行き過ぎたアプローチさえなければ、阿国はとても優しい気配り上手だとさえ思っているのだ。
持っている消費アイテムを勝手に調べ不足分を送りつけたり、ログインする時間を勝手に調べ結晶の王座前に三つ指ついて正座待機したり、ガルドが稀に負けた相手を裏で闇討ちしたりしなければ、基本的に良いプレイヤーなのだ。
中でも最も恐ろしかったのは「住所を暴く」という暴挙である。
度を越えたアピールにガルドは恐れを抱いた。距離を置いた結果、阿国の暴走はその後なぜか収まったという経緯がある。ガルドの行動によっては再熱する可能性があった。
「油断するなよガルド、こいつは阿国だぞ」
リアル側の口でそう釘を指す榎本に、こくりと小さく頷いた。




