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143 それが嘘ではないだけで十分

 ソファで寝かし続けたことも非常に申し訳なかった。きっと腰が痛かったに違いない。

「悪かった」

「なに謝ってんだよ。俺は楽しかったぜ。もっと長くてもよかったな、せっかく豆乳鍋スープ買ったのにやってないだろ」

 雪を掻き分ける足を止め、からかうような表情でこちらを振り向きそう告げた。料理があまり得意ではない男が頭をひねって選んだ鍋の素。しかし食べられることなく今も、榎本宅の冷蔵庫に仕舞われている。

 同時に購入したキムチ鍋は大変美味で、ガルドはメジャーな味だけではない鍋の奥深さをギルドメンバーに珍しく力説した。豚肉に合う鍋ランキング一位はキムチだと、そして一緒に豆もやしを入れると最高だと静かに語った。

「次の冬が楽しみだ」

「その前に賞味期限だな。また来いよ、ハワイのあとにでも」

「もう夏だ」

 ゴールデンウィーク明けはあっというまに暑くなる。フロキリは永遠の冬だが、日本は四季があっというまにやって来て天候を大きく変える。灼熱地獄のカウントダウンは近づいていた。

「冷房ガンガンにかけて鍋、とかな!」

「……悪くない」

「はは、いいな。まさかお前と宅飲み——鍋パ(鍋パーティー)出来るなんて去年までは考えもしなかったぜ? 誘ってもオフに一切来ないから……」

 そこで途切れ、しばし無言になった。豪雪と暴風が暴れまわる白い世界を、二人でひたすら掻き分け進む。

 少しの徒歩を挟み、エリアが徐々に開けてきた。雪だらけだった視界が若干晴れて茶色が混ざるようになる。冬季の草原のような、枯れ草混じりの白まだらだ。非戦闘エリアに入った証の、牧歌的なBGMへ切り替わる。

「……職場にも、家族にも、メロ達にも言ってないんだよ」

「ん?」

「俺が結婚まで考えた女が居て、それとは同棲二十日目に別れたって話」

 榎本が歩きながら突然そう切り出した。視線を下に下ろし照れ臭そうに言う。その言葉に若干の違和感を感じ、ガルドはその部分を指摘した。

「二十日の下りは初耳だ」

「そうだったか?」

 吹っ切れたような潔い顔で笑う榎本に、ガルドは不安が杞憂だったのだと頭から払い、ゆっくりと微笑んだ。

 雪がやんだ。街に入る。

 周りが知らない榎本を自分は知っている。回りが知らない自分を榎本は知っている。

 相棒として彼は間違いなく、得難い唯一だった。 

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