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14 ばったり出くわすこともある

「あ、そろそろだな。悪りぃ、落ちるぞ」

「えーっ!?」

 離脱発言に、若い片手剣士のヒューマン種がブーイングする。軽い大型モンスターの討伐クエストが終わったところで、ガルドも同じく「ああ」とだけ言った。

「えっ、ガルドまで! 嘘ーなんでー? 同時なんてさ」

「察しろよ。ガルド、遅れんなよ?」

「ああ」

 榎本がハンマーをクルリと回して背に戻し、ログアウトのメニューを開く。脇に立っている剣士はガルドたちを交互に見た後、ハッとした表情で悲鳴をあげた。

「うわーん! オフで会うのか! ずるいー仲間はずれー」

「前線メンバー限定のな。残念だったな!」

 からかうように言い残した榎本が氷漬けになり、粉砕されて消える。

「おつ」

 ガルドも「お疲れ様でした」を省略した挨拶でログアウトボタンを押した。同じく搔き消え、剣士が一人残される。

「……お、俺だってロンド・ベルベットなのに~」

 虚しい叫びが雪原に響いた。


 ギルド:ロンド・ベルベットは自由な組織だ。頻繁にプレイヤーの出入りがあり、人数だけで言えば大規模な、日本サーバー有数の巨大ギルドだった。

 今回外国遠征に行くのはガルドを含めた腕の立つ六人だけだ。全体と比較し「前線メンバー」とされていて、今回のオフ会はその前線メンバー限定だとメロが決めていた。

 ガルドは今まで避けてきたが、ロンド・ベルベットは比較的オフで集まるギルドだ。六人が東京に集結する、と言い回ればあっという間に百人規模の会になるだろう。こういう時に集まるメンバーは固定されており、ゲーム内では大規模戦闘(レイド)のみ参加してくる。たまたま居合わせた剣士はその一人だった。

 リアルでもオンラインでも、どんちゃん騒ぎが好きな奴は掃いて捨てるほどいる。彼らは「ゲームが上手くなりたい・絶対負けたくない」などとは全く考えてない。楽しければ良い。そういう人種なのだろう、とガルドは共感できなくとも理解はしていた。

 自分たちとは違うが、彼らもロンベルのメンバーだ。

 暖簾分けのように「分離」させる案もあった。だがギルドの理念に反する。互いが互いを尊重しあい、貶め合わず、フラットにあり続けること。これだけは譲れない。ギルマスが守り抜いた理念は、ギルマスが引退した今も続いている。

 今回集まるメンバーは、ガルドが家族より長い時間を過ごしている戦友だ。ログインできない時も密に連絡を取っている。作戦、装備、敵の情報などをチャットでやりとりし、お互いの癖なども熟知している。趣味、世間話、悩み相談もする仲だ。

 だからこそオフで会うのが恐ろしかった。

 年齢の違い、性別の違いを知ってもなお、今の関係に戻れるだろうか。いつも通り冗談を言いながら夜中まで一緒に遊び、会話できるのか。もしかしたら、とガルドはゾッとする。絶縁の可能性はゼロでは無い。

 互いを尊敬し合うギルドの理念にガルドの性別は関係ない。ネカマという「嘘」は悪いことに違いないだろう、とガルドは苦々しく反省する。

 打ち明けずに来た三年は罪だった。ツケがきた。出会った当時から打ち明けていれば、こんなに今苦悩することはなかっただろう。直前だからこそ「行きたくない」と絶望した。

 だがドタキャンはできない。決意したからには、もう逃げない。

 それでも、と思っているとガルドのこめかみが軽くなった。脳波感受がオフになる。身体が縮み十七の少女になる感覚に、みずきは寸前の決意を鈍らされていた。



 「みずきさん」

 自宅の階段を降りたところで、みずきは母親とばったりはちあった。

 オフ会は夜七時開始で、寄り道せず向かえばちょうどいい時間だ。みずきにとって初めてのオフ会。そして初めての朝帰りにするつもりだった。せっかく北は北海道、南は九州から来ている。終電に一人だけ帰るつもりは全くなかった。

 それでも問題は無い、どうせ親など帰ってこない、いても外出そのものに気付かない。そう楽観視していた。計画の算段にそもそも入れていない。

「こんな時間に外出ですか?」

 今まさに帰ってきたのだろう様子で、スーツにPコート姿のまま眉をひそめて立っている。みずきは母のその表情を「不審、怪しみ」だと感じとった。こちらも同じく眉をしかめる。

「まだ六時だけど」

「何時ごろ戻るの?」

 みずきはげっそりとし、返答を何パターンか考える。

 親には子供の監督責任がある。みずきは理屈として分かっていた。実際は子どもも嘘をつき、実際監督などできていない。母親のその「都合のいい時だけの親っぽさ」が疎ましかった。

「しばらくしたら戻る」

 時間はぼかして返事をする。

「みずきさん!」

 逃げるように玄関に向かい靴を履く。後方の母親が鋭い声で声をかけるが、振り返ることなくそのまま外に飛び出した。気にならないと言えば嘘だが、みずきにとってはこれからの方が重要だった。

「しばらくって、いつなの」

 重い金属が嵌まる音に、母親の声がざらりと被った。

片手剣士に次回の登場予定はありません。モブです。

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