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139 特別は相互か否か

 まわりが知らない自分を知っている、誰か。金井の言葉が波紋のように染みていく。

「みんなが知らない……」

 それはなんと優越感のある響きだろうか。

 家族が知らない自分を知る友人、友人が知らない自分を知る家族、さらにそれを上回る、誰にも代わりが出来ない誰か。みずきはガルドとして、それがなんという存在か言葉に出来る。

「相棒」

 榎本にしか見せていない自分がいて、それは家族にも友人達にも内緒だった。大量の嘘で塗り固めたみずきを知っているのも、家に上げたのも、女だったことを白状したのも、その全てをコンプリートしているのは榎本一人だ。

 完全に動きを止め、まばたきすら忘れてカップを見つめながらみずきが呟いた。

「他に呼び方なんてない……複雑な感情なんて……」

 ふと疑問が湧き出る。榎本の方は、ガルドがそういう存在なのだろうか。

 家族や同僚、ロンド・ベルベットの仲間でも知らない榎本を、自分は知っているのだろうか。

「……佐野さん? もしかして、なにか悩んでる?」

「え?」

 プレートの肉を残り二切れまで減らした金井が、心ここにあらずといったガルドを見つめていた。

「ね、困ったときは頼るに限るよ。だって僕は佐野さんを全力で応援したいし、そのためだったら例え火の中水の中ってね!」

「応援のために怪我も省みないのは、どうだろう」

「ものの例えだよっ! でもね、誰かの支えになりたいから頑張れるんだよ。自分のためだけに火事の中に突っ込むようなリスキーなこと出来ないって。誰かの為ってのはやっぱスゴいやる気でるね」

 笑いながらそう例えを出し、ドリンクバーのコーラを一気にストローで吸う。瞬く間に空になるグラスにまた驚かされつつ、金井の親切さに感謝した。そして相談事を楽しみに待っている表情の彼には申し訳ないが、先程の「特別な誰か」の話でガルドの気持ちは固まった。

 パジャマ子はああ言っていたが、榎本本人の気持ちは直接聞かないと誰にも分からないのだ。


「え、解決した?」

「さっきの、『特別』のあたりで納得できた。相手の気持ちは相手に聞かないと分からない。でも、自分にとっては優越感のある特別な間柄だと思っている」

「あぁ〜彼氏かぁ〜……」

 そうふてくされたような声を出してパスタの最後の一口を食べ終える金井に、みずきは申し訳なく思った。相手は合っているが、彼氏というのは嘘だ。

「さっきの一言のお陰だから。ありがとう」

「僕、恋愛相談って性格的に柄じゃないんだけど、でも佐野さんの役に立てたのなら嬉しいな。うんうん。疑いたくなくても、愛を疑い始めちゃったんだね」

 愛ではなく友情だったのだが、そこはなにもコメントしないでおく。

「目に見えないものだし、僕自身は経験が無いからどんな味がするのかも分かんないよ? でもそれが人生で特別なもので、暖かくて、でもトゲだらけで酸っぱいものだっていうのは聞いたことがある」

 温度や質感、味覚で感情を表現する。そのフレーズはどれも歌詞やポエムなどでよく聞くものばかりで、ありきたりな言葉だった。

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