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138 大盛りファミレス

 金井という名前の彼を、自分が座る席に招く。

「おじゃまします……いいの?」

「ああ」

 学校で唯一ガルドとしての一面を知る人物だ。みずき(リアル側)としてのボーダーを越えてまで相談とまではいかないものの、意見を聞くのも一つの手だろう。

 鎖骨が骨と皮で浮き出ているのを見て、みずきはボートウィグにも抱いた心配をまた復活させる。痩せすぎの体型は、突然ばたりと倒れるのではないかと心配にさせた。

 しかし机を移動してきた彼の前には、目玉焼きの乗ったハンバーグとミートパスタという約二人前の料理が並んだ。思わず料理と彼とを交互に見る。見た目と食欲は比例しないらしい。関心しながら様子を眺めた。

 「目の前でガッツリ食べちゃってごめんよ? よかったら奢るよ! デザートとか食べない? 女の子って甘いの好きだよねー、僕はあまり食べないけど」

 本人にも自覚があるらしい早口のおしゃべりが、みずきには逆に心地よい。口を挟まなくてもスムーズに会話のテンポが続くというのは、無口な人間にとっては有り難い流れだった。

「だいじょうぶ——あと、内緒にしてくれて助かってる」

 ゆったりカモミールの暖かいお茶を口元に運びながら、みずきは礼を言った。随分前の話題だが、ガリガリオタクの金井相手にはその話題しか無い。

 照れを隠さずに金井が必死に頷き返し、聞いてもいない理由をプレゼンし始めた。

「ううん、気にしないで! 僕ね、佐野さんを応援したいんだ。だから出来ることならなんでもするよ。内緒にしてって言われたことは絶対言わないし、聞かない方がいいことは何にも聞かないよ」

 言い切った金井は、ハンバーグを大きくナイフで切り取り口に放り込んだ。そのまま贅肉になれ、と念じる。新陳代謝が高すぎるのも悩みものだ。

「うん、ほら、去年の冬辺りにさ、佐野さんやたら部活休んでたじゃない? みんな気にはしてたんだけど、いつもよりイキイキしてたから『そっとしとこう』ってことになったんだよ。よっぽど聞こうか悩んだんだけど。例えばゲームでイベントとかある時期だとかさ、いろいろあるじゃない、僕たち(オタク)ってさぁ」

 思わぬ周囲の気配りに、みずきはまた一つ自分の鈍さを呪った。

「——それは」

 榎本だけでなく、クラスメイト達にもそんな気配りをさせていたことに気付かないとは。恥ずかしいとさえ思った。困惑に気付かぬまま、金井のマシンガントークが続く。

「学校の噂ではね、彼氏との時間を捻出してゴキゲン説が濃厚だったよ。でも僕知っちゃってたから! 一人だけ知ってるのってスッゴい優越感だね、佐野さんの特別になれるっていうのは嬉しいよ」

「学校でこの事知ってるの、金井だけだから」

 みずきとしては「黙ってろ」という忠告のつもりだったが、金井はそれが特別の再認識と受け取ったらしい。満面の笑みで強く頷いてくる。

「うん! 絶対言わないから、安心して! あの宮野さん達でさえ知らない佐野さんを知ってる僕、っていうのが大事だよね」

 ミートパスタをスプーンとフォークで大量に巻き込んで口に運ぶ彼を見ながら、みずきはその言葉をもう一度喉奥まで咀嚼した。

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