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134 FeFe3+2O4

 一方、寒さを全く感じないものの湯気とは無縁の雪の世界。

「……はしゃぎすぎだろう」

「ウム?」

「いや、ウチ()とガルドだ。いや、ガルドは被害者というか……ほら」

 ジャスティンと二人でMP回復率上昇の装備を鍛えていたマグナは、送られてきた画像に呆れながら和やかな気分だった。曲がりなりにも愛する女が、自分の大事な仲間と仲良さげにしているのは喜ばしい。

 館内着なのだろう、スパでよく見る揃いの服を着た二人が写っていた。片方が満面の笑みでビール片手に、もう一人はビックリした表情で何者かの唐揚げらしきものを食べている。いつもポーカーフェイスのガルドがこうも驚いているのは、随分気を許してラフになっているからだろう。

 強靭な戦士のようなガルドの懐にこうも短時間に入り込める彼女は、知っての通り大物だった。長い付き合いだからこその純粋な尊敬の思いが、この恋人達の間をきつく繋いでいる。

「二人とも良い顔してるじゃないか!」

「そうだな。あいつは今後気にかけてくれるだろうし、あっちはあいつを頼る相手と認識しただろう。良い傾向だ。この世界で、ガルドは年齢不相応に頼られ過ぎている――あいつが四十なら相応なんだが」

 雪が静かに降りしきる白い平原で、冷たさを全く感じない雪を頬に浴びる。マグナは、ガルドが頼る相手に考えを巡らせた。あいつには良き姉貴分が長らく居ない。ギルマスが引退してからは、姉御肌のプレイヤーそのものがギルドに居ないのだ。

 頼る年長を探すが、自分達ギルドメンバーと他ギルドのギルマスやサブマスといった上位プレイヤー達しか浮かばなかった。自分達を慕うファンプレイヤーの集合体である鈴音舞踏や、お祭り好きでノリばかり良い自ギルドのレイド班は少々特殊だ。慕い仕え追従こそするものの、彼女を導く存在ではない。

 今横浜にいる自分の恋人ならば、年上の女として良き相談相手になるだろう。榎本が()同士の相方だとして、同棲しているあの恋人は良い姉貴分になる。期待を込めて空を見上げた。

 軽銀色をしたロボ装備が、冷たく軽い接触音を立てる。

 隣の能天気ひげもじゃ男は、同様に空を見上げながら頭の中は全く違う内容で立っていた。  

「温泉かぁ、いいなあ! ハワイから戻ったらだが、慰労会は一泊二日で温泉地なんてどうだ? 他ギルドも集めて、そうだな……草津はどうだっ!」

 確かに良い慰労になるだろう、とマグナは笑った。ジャスティンは慰労などよりとにかく極楽気分が優先だろうが。そういえば前回の後も企画したが、結局叶わなかったのが悔いとして強く残っている。

「温泉なら我が九州を薦めたいところだがな」

「フム、焼酎が上手けりゃどこでもいいぞ」

「そうか。いくつか候補を挙げておこう。それもまた、あいつらのモチベーションになるだろうからな」

「楽しみだな! ハワイに温泉、こっちでも雪山登山に寒中水泳、スワンボートタイムアタックもある。イベントは目白押しだなあ!」

 テラコッタ色のカールヘアを揺らしながら、タワーシールドを担いでジャスティンが駆けていく。フロキリで出来るイベントの殆どは娯楽性の欠けたものばかりだが、それでも期待せずにはいられない。自身の歴代オンラインタイトルで最もウマの合う仲間と出会えたフロキリのイベントならば、どんな些細なものでも楽しくなるはずだ。受動的な意味合いだけでなく、マグナには自分から楽しみにいける自信があった。

「フッ、たまにはいいだろう。向こうでもビーチに行くんだろう?」

「もちろんだ! 泳ぐかはわからんがな。ホテルのプールでもいいさ、とにかく楽しければいい!」

 ジャスティンが陽気にそう宣言した。マグナもその明るさに引きずられる。リアルとは違う友人関係と、そこで現れる素の自分が愉快に笑う。だからこそオンラインゲームというのは止められない。

 この世界は美しく、いつ消えるか解らない儚さも内包している。笑いながら敵モンスターに突っ込んでいったジャスティンを追いながら、マグナは喜びの中に小さく痛みを抱えて歩き出した。

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