133 風呂上がりの小上がりにて
からだがぽかぽかとしていて、晴れやかな上に夢心地だ。全身の筋肉が力を込めることを放棄しているようだった。それくらいみずきはリラックスしきっている。小上がりになっている休憩用の座敷には、女性客が思いの外多かった。
「ぷはー!」
向かいに座る彼女が景気よくビールを飲む。アルコールを飲んだことのないみずきにも美味しいのだと伝わる良い飲みっぷりだ。ピンク色の女性用館内着を来たアラフォーの女性が目の前でジョッキを手にしている。
先程までイベント参加中だったパジャマ子だ。
「そして続けざまのつまみっ!……ふひゃー!」
タコの唐揚げをはしでひょいひょいと口に入れては、男性陣の飲み方を見慣れているみずきが頬を引きつらせる勢いでジョッキをあけていく。同じようにみずきもコーラのジョッキをごくりと飲んだ。
露天風呂は想像以上だった。圧倒的な爽快感と解放感、全身の力が抜けるような心地よさが至福をみずきに与えてくれた。これはもう一度来ても良いだろう、と評価する。
初めて存在を知った瓶のコーヒー牛乳を堪能し、リラクゼーションエリアで映画を見ながら過ごした。麗らかな午後のひとときは格別だった。
その折にふと思い立ち、パジャマ子にメッセージを送ったのである。「徒歩五分の温泉施設に入っているので、終わったら連絡欲しい。パシフィコに迎えに行く」という内容。集合時間にはこの施設を出るつもりだった。
逆に彼女が温泉施設に来た。
みずきは二度、湯船に浸かることになった。またそれも最高の気分である。
「どうでしたか、コンサート」
「もうね、サイコーだった! 似たやつは関西でもやるんだけど、あのメンバーが揃うのはこの会場だけなんだよ~。それだけでも来てよかった。ありがとね、ガルド」
「自分こそ、わざわざ来てもらって……ありがとうございます。温泉まで」
「ああ~それはもう風呂大好きだから! 汗もかいてたしちょうどよかったよね」
満面の笑みでタコの唐揚げをツマミにビールを飲むパジャマ子に、みずきは嬉しくなった。まわりにはあまり居ない「優しいお姉さん」といった存在の彼女に喜んでもらえている。新鮮なことばかりで思わず頬がゆるんだ。
「ふふ、ガルドちゃんとお風呂一緒に入ったの、あいつらに自慢しちゃおーっと」
そう言って向かい合っていたパジャマ子が、スマホを片手に机を迂回して寄ってくる。
「じゃじゃーん、ぱしゃりー!」
みずきの顔横に自身の顔をピタリとつけ、自撮りを一枚撮影する。液晶に写ったみずきの顔は、咄嗟のことにポーズ一つとれないでいる油断しきった表情だった。
「ふふふ、記念ね!」
女性が使うにしてはハイスペックで武骨なスマホを持つパジャマ子は、机の上に置いていたガルドのスマホにコツンとぶつける。
受信側にコード入力などが必要ない接触型の無線通信で画像を受け取る。上機嫌でビールを仰ぐ彼女に引きずられるように、笑みを浮かべて画像受信許可をタッチした。




