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127 チャーハン作るよ

 勧められていた経済学部への進学は選択肢から消滅した。「四年掛けて研究したいと思う学問」ではない。そういうのは野心のある金勘定の好きなタイプがすべきだ。例えば元ギルマス・ベルベットのようなタイプが合っている。大成功を納めた彼女の活躍を思い出しながら、経済への道はすっぱりと切り落とした。

 世界と一言で言っても、みずきの望む世界の最奥はやはりVRの世界だった。

 そのまま趣味の世界である。あの世界にどっぷりと浸かり、最先端に触れ、誰よりも上手く適応したいと思っていた。

 それがみずきにとっての「学問」だった。

 問題はフルダイブのハードかソフトかによって変わるということ。そして父が語った、日本における何らかの思惑が引っかかる。

 みずきの脳からは日本という選択肢も外れかかっていた。


 新学年の初日は帰宅が早い。

 昼食を自宅で準備しながら、みずきはモノアイ型のプレーヤーでオンラインの海をサーフィンしていた。普段ならば料理中はコンセントに差した無線機に接続して音楽を聞いている。視界を占領されると鍋や包丁がよく見えず、流石に危険だ。

 しかし今日はその自分ルールを破る。みずきには早急に調べなければならないことがあった。

 玉ねぎを刻む。 

 まな板に広がる白い欠片のその視野上に、サーチエンジンとブラウザAIがダブっていた。

「フルダイブ、開発会社。提携、人材育成機関」

 情報を膨大な網の向こうから探し出すための、キーワードになるものを口頭で入力した。感受での打ち込みは料理に集中するためわざと避けている。

 ベーコンを刻む。

<検索結果 は 三件>

<京都 専門学校>

<神戸 専門学校>

<東京 専門学校>

 これからかりっと焼けば香ばしいであろう欠片に被るように、透け感のあるモスグリーンの無機質な文字が瞬時に浮かんだ。内容にみずきは納得しつつ、調理に専念する。

 玉ねぎはレンジに、ベーコンはフライパンへ投入する。加熱している間に冷凍庫からミックスベジタブルを取り出した。それもレンジでさらっと加熱してしまう。

 みずきは、料理に関してはズボラだ。

「フルダイブ、開発、研究」

<検索結果 は 四万 八千件>

<開発中止 訴え>

<危険 開発>

<アメリカ 研究機関>

 菜箸で焦げないようにたまに混ぜつつ、冷蔵庫から昨晩の余りご飯を取り出した。検索結果をちらりと見ては、同様に『操作されているであろう情報』から何か拾えないかと工面してゆく。

「フルダイブ、研究。ノット危険」

<検索結果 は 百 五件>

<注意 子どもが興味を示したら 研究機関の注意喚起>

<アメリカ 研究組織>

 検索内容から除外するキーワードに危険を入れても、変わらず注意するよう言ってくる反対派の情報が現れた。フルダイブゲームの情報というのは、まず提供されるソフト名を知り、その公式からファンサイトへ誘導されるケースが大多数である。こうして安易に「フルダイブのゲームってどんなのだろう」と探したところでページが出てこないよう、裏から操作されているらしい。

 父の言うことは正しかった。コントロールされたネット情報で探し出すのは、一介の一般人であるみずきにはやはり限界のようだった。

 軽く加熱した玉ねぎをフライパンに投入し、冷凍ミックスベジタブルも一緒に炒める。溶き卵を流し入れ、その上にどさりとタッパ型に固まった白米を乗せた。

「……full diving VR system……U.S.A , development……」

 卵の縁に火が通り始めた。全体が固まる前にと慌てて冷やご飯を菜箸で卵に絡めていく。しかし固い。放り投げるように箸をシンクに置き、吊るしてあるフライ返しでざくざく切った。

<検索結果 ゼロ件>

 んなバカな。思わず独り言を言いそうになり、すんでのところで思いとどまる。

「altaba.com」

 サーチエンジンをサーチエンジンで検索する。アメリカの大手検索サービスならば上手く行くだろうか。みずきは少々粗っぽく白米を具材と混ぜながら炒め、冷蔵庫から焼肉のたれ(醤油味)を取り出した。

 手首が痛い。みずきの細い腕では、多めのチャーハンを乗せたフライパンは負担だった。

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