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118 もしくは全てまんだらけに売ってくれ

 出てくるお茶請けは、男達が好むものを無視したスイーツばかりだった。

 パステルカラーのマカロン各種に、グレープフルーツのゼリーやミルクプリン、そして中央のシュークリームで出来たタワーがチョコレートソースをまとって君臨している。手をつけるのはメロとぷっとんだけだ。

「ね、ちょっと質問なんだけどさ~」

 ぷっとんがそう話し始めるのを、ロンド・ベルベットギルドメンバーは雑談の延長戦として聞き始めた。

「もしも、フルダイブにログインして……出てこれなくなったら、どう思う?」

 突然の話題に、仲間達は目を丸くする。

「え、それって昔流行ったラノベみたいじゃない?」

「いや、原典はゲームだったはずだぞ」

「そうなのか。いやでも、中高生向けの読み物でよく聞くシチュエーションだよな。あれだろ、デスゲームストーリーってやつ」

 ゲームが没入度合いにおいて今より浅かった時代、「もしもっと入り込めるゲームシステムが開発されて、システム不備や女神的な何かで出られなくなったら」というストーリーが持て囃された時代があった。ガルドが生まれる前のサブカルにおけるプチブーム。それが発展を遂げ、「ゲーム内で死んだら本当に死ぬ」という物語へと変貌していった。

 その辺りの、いわゆるデスゲームものならばガルドにも読んだ経験がある。他にも「死んだらプレイしていたゲーム世界の住人に生まれ変わっていた」というブームも発生し、それらが現在まで読み物として継承されていた。

「そういうのを鵜呑みにした政府が、何か法律作ってたなぁ!」

「あれでしょ、二重ログインでアラート鳴って追い出される仕様。あれ初期設定にした緊急連絡先にプレイヤーの端末の場所教えたりしてさ、怪しいよね」

 五年前に市場展開がスタートしたばかりのフルダイブVR機器は、そうした法整備が他のベンチャー技術と比較するとかなり整っている。不思議そうな表情を浮かべる仲間達の中でただ一人、ガルドにはその影の立役者が何者なのか想像がついた。

 父が教えてくれた「フルダイブを広めたくない人間」と同一人物だろう。目を閉じ雑談を聞き手に回り、その事は口に出さなかった。

「みんなって緊急連絡先ってどうしてるの? 実家?」

 ぷっとんが不思議と踏み込んだことを質問してくる。ロンド・ベルベット全員が疑問には思うものの、指摘せずそのまま答え始めた。

「俺、あいつ()の端末にしてるなー」

「ウチもだよ。配偶者ってこういうとき便利だよね~」

「そっか、メロも夜叉彦も既婚だったね!」

「俺もだぞ!」

「あージャスもか。ちょっと印象薄かったかも」

「なにぃ!?」

「だってジャスはノロケたりしないし、どっちかっていうと亭主関白気味じゃんねー」

「それでか……」

  メロが普段通りの声色でそう補足を入れた。男同士ということもあり、各家庭の方針にはケチをつけないというのがロンド・ベルベットの基本方針だ。夜叉彦はパートを頑張る妻を肯定しているが、ジャスの昔かたぎな家内という考え方も否定はしない。

「俺のは家の固定回線にしとるぞ」

「え、緊急になってなくない? それ」

 ジャスティンの珍しいチョイスに、ぷっとんがフォークでシュークリームを切り割りながら驚いた。

「そんなもん知らん。審査は通ったからな、いいんじゃないか?」

「通っちゃったの……調査AIなにしてんだろ」

「ほお、AI任せなんだな」

 マグナはその呟きを聞き逃さなかった。青ざめ苦笑いを浮かべたフェアリエン種の女に、頭脳派のマグナは目を細める。気付いたことはあるものの、とやかく言うほどのものでもない。マグナはスルーを決め自分の例をあげた。

「俺は職場にしている」

「おお、また珍しい……」

「俺の後始末をあいつにさせるつもりはない。それに、会社の後輩どもと約束しているからな」

「履歴とブクマとクラウドと薄い本、残らず全部燃やせって?」

「あいつらが死んだときは、俺が焼くことになっている」

 ガルドは、マカロンを半分に分解しては別のもの同士で合体させる遊びをしながら、マグナを感心した目で見つめた。死後の対策を話し合える友人がいるというのは羨ましい。

「やめてやれ、ガルド。純粋な目で見てやるな」

 榎本がそう助言する意味も理解できないほど、ガルドはまだ若かった。

 小さなソファに腰掛けながら新たな学びを実感する。学校の椅子とは大違いのピンク色だが、ここが学校よりも自分の人生に影響する世界(フロキリ)なのだと、心から頷いた。

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