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116 爆破乙女と君臨する猫

 小さな口から流れるボイスを聞く限り、まるでネットアイドルのような高い乙女そのものだ。榎本が力説していた「ぷっとんネカマ説」は、ガルドにはにわかには信じがたかった。

 近付くと、柱の影に居た話し相手が見える。シルバーの猫尻尾がちらりと見え、ガルドはすぐにそれが誰だか理解した。

「ディンクロンも」

「……久しいな、ガルド」

 大柄の男性ケットシーという日本サーバーでは珍しいアバターの、ギルド・チートマイスターのギルドマスターが返事をする。

 猫の青年という異色なスタイルに加え、生声と混じっているはずのキャラボイスがやけに渋く美しい。重低音で心臓ダイレクトに響くその声には、ガルドも羨望を持っている。

「おお、ディンクロンじゃないか! 何ヵ月ぶりだろうな、随分留守だったが」

「ジャスティンか。五ヶ月ほど留守にしていた」

「アタシが誘わなかったら今ごろホコリ被ってるよぉ、ダイブ機!」

「五ヶ月とはまた忙しいな、相変わらず」

 ジャスティンがやれやれと首を振りながらディンクロンを労う。

 彼は非常に忙しく、基本的にギルドはぷっとんが運営しているようなものだった。彼女の誘いがなければ今日も見送るような語り口から、彼が本当に趣味でフルダイブ機を購入したのか怪しく感じる。

 高額な本体価格と電気代、場所を取るそのサイズからいって、フルダイブ機は軽い趣味ではない。よっぽどディンクロンが金持ちだということなのだろう。ガルドは感心した。

「……ああ」

 無口で表情が固い。そんなところが自分とよく似ているらしい。ぷっとんやギルドメンバーに比較されることが多いガルドは、ディンクロンをまじまじと見つめる。

 久しぶりに見た彼は、相変わらず猫科の小さな口を真一文字に引き絞って仁王立ちしていた。ヒゲがぴくぴくと揺れている。オールバックに整えた頭部は艶やかな銀色だ。体は白ベースの毛並みに所々銀が混じり、アルビノのアメショが存在したらこうなのだろうといったような紋様を描いている。肩周りに筋肉を集めたような逆三角形のボディが、猫というよりまさに豹に近い。

 長い猫しっぽを振り子のように一度振り、ディンクロンは隣のピンク頭に目配せした。

「えへへ、久しぶりだしぃ、他のメンバーさんにも会いたいな~……ね、ちょっとお茶しない? そっちのホームに招待してよぉ」

 愛らしい唇に小さな指を当て、もじもじしながらぷっとんが質問する。自分の口で「きゅるん♪」とSE(効果音)をつけ、目をぱちくりさせた。

 ギルドメンバーしか入れないマイギルドホームは、基本的には「部外者出入り禁止」がルールだ。

「ぬぅ、俺たちでは答えられん質問だな。酒場ではだめか」

「ぶー! けち! 他の奴等に聞かれちゃヤなのぉ!」

 ジャスティンの返しにぷっとんがぷんぷんと怒る。

 ガルドは素直にぷっとんのこの動作が可愛いと思っていた。女子高生である自分の周りには、意外と居そうで居ないタイプだ。自分が知らないだけで居るのかもしれないが、友人にはいない。

 女を全て敵に回してでも男にモテたい、肉食的なタイプのしぐさだった。

「……逆に招待すればいいだろう」

 側に立つチーマイのギルマスが、わがままを言う彼女に対してそう断言する。

「え、いいの? ディンクロンがいいなら歓迎だよ!」

「ほう、チーマイのホームか! スクショで見たぞ、風船屋敷だろう!」

「そうだよ。アタシのこだわり、ヒメ可愛いふわふわルーム!」

 チートマイスターの主導権はすでにディンクロンを離れているらしい。彼は首をかしげて少し呆れた顔をしているが、文句は言わなかった。

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