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113 母と一緒に

 感知する、というのはとても便利な感覚器官だ。目を大幅に越える処理能力でもって、それこそ「違和感」という名前のエラーが感知できるようになる。

「みず~ありがと~! 明日の学校、ミルキィちゃん連れてくね!」

「AIインストールに使った書類とかディスクとか、捨ててなかったら一式欲しい」

「おっけい、全部持ってく! 安心だぁ。みずなら私、命預けてもいい!」

「はやし~? 預かるみずが大変でしょうが~」

「えへへ、でもほんとありがとねぇ!」

「役に立てるなら、うれしいから」

 はにかみつつみずきが言う。

「あら」

 日も暮れ始め、買い物客の流れは桜木町駅へと流れていた。同様に駅へ向かって商業施設を歩いていた一団の前方から、コート姿のキャリアウーマンが歩いてくる。

 その容姿はどことなく、日本人離れした鼻立ちをしていた。身長もすらりと高く、シルバーの華奢な腕時計をした手が髪を耳に掛ける動作には同性も目を奪われる。

 しかしみずきは見慣れている。

「……はぁ」

 せめて指定した店の前に居て欲しかった、という言葉を飲み込みながらみずきが反応する。手を軽く振り、こちら側が気付いていることと居場所を伝えた。

「まあ、お友だち?」

「おー、みずのお母さん?」

「こんちはー!」

「いつも遊んでくれてありがとうね」

 そういってにっこりと外行きの笑みを浮かべ挨拶する母を、調子の良い人だとみずきは内心毒ついた。

「じゃ」

「うん、明日ね~!」

「あれの件、よろしくね! お礼するからっ」

「気にしないで」

 手を振り陽気にはしゃぎながら駅へ向かう仲間達を見て、みずきはまた少し疎外感を感じた。自分はやはり、どこか彼女達と違うのだ。

「意外だったわ」

 同様に友人達を見つめる母が、静かに呟く。

「あなた、随分今時の子達と付き合いがあるのね」

 静かな流し目でそう話しかける母は、感心しているといった声で続けた。

「あんなゲームに何時間も費やしているから、少し心配しましたけど。どうやら普通に馴染めているようね」

 馴染むという言葉は、みずき自身が何度も挑んでは悩み、分厚い猫でなんとかとりなした類いのことだった。

 そうか、馴染めているんだ。そうほっとしつつ、みずきはガルドとしての自分を思う。あちらが楽しくて仕方ない、だがこちらの友人達と居るのも悪くない。辛いわけではないのだ。しかしリアルの女子高生として円滑な友人関係を築いている理由は、ただ一点。

「学校にいる時間は長いから」

 それだけだった。普通に比べて少し優先順位が違う。リアルより向こうを優先させるのは悪いことだろうか。

「そうね——恋愛も、学校にいる人とできないの? ネットで恋なんて薄っぺらいでしょう」

 母には理解できないだろう。あの世界を薄いなどと評する人には、あの濃密な戦いの日々が宝物だというみずきの、ガルドの気持ちなどわからないだろう。

 恋愛なんてものより、自分より強いプレイヤーから一本取りたい。誰よりも早く攻撃をいなし、仲間をカバーリングし、支援を受けて強敵を倒すのだ。

 薄いわけ、ないだろう。

 友人達と過ごした時間が思いの外楽しかったみずきは、急速に機嫌が降下していった。

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