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112 困ってるなら助けたい

 みずきたちはみなとみらい海岸エリアを巡った後、老朽化がすでに始まりだしている横浜のタワー、商業施設がひしめき合うエリアを冷やかしながら歩いていた。先頭にいる道野辺たちが進路を決め、後ろはおしゃべりしながら着いていく形になっている。

 今居るこのビルは少し古く、テナントも高級なものが多い。一本道路側に出て、もっと新しいビルに入ろうかと話をしているらしい。みずきは古く上品な雰囲気のこちら側もそれなりに好きだった。

 話をぼんやり聞いて最後尾を歩くみずきに、一本のメッセージが届く。

<あなたのGPS、ランドマークを指しているのだけれど。居るの?>

 差出人は母だ。

 自身のミスに怒りが湧く。スマホの現在位置発信をカットしていなかった。友人との待ち合わせでメジャーなやり方で、大抵合流したあとにはGPS発信を解除するものだ。

 みずきは一瞬眉間にシワを寄せてこめかみにコードを接続する。友人達はみずきの「脳波感受型コントローラを活用する様子」を日常のものを受け止めており、それこそスマホを開いてSNSをチェックしているようなものだと思ってくれていた。

 脳波感受で操作し、そのGPSアプリをすぐ終了する。続けざまにメッセージ送受信アプリを開いた。

 バレたからには仕方がない、と返信だけする。

<いる>

<そう。折角だから夕食まで居てちょうだい。父さんも呼んで外食にしましょう>

 げっそりとしてみずきはその一文をもう一度読む。だが同時に、随分前に母と約束していたことを思い出した。

 みなとみらいで一緒に買い物しましょう、と気持ち優しめな声色で誘ってくれた母の、不器用な心遣いのようなものを思い出した。あの約束は、直後に大喧嘩したため叶わなかった。同情が湧く。

 だが今日のは急すぎる。ため息が無意識に出てしまった。

「あれ、どしたの?」

「……家族って、勝手だよね」

「ええー!? みずがそんなこと言うなんてめずらしくない?」

 友人達に驚かれながら、だが皆賛同してくれている。だよね、ひどいんだよウチの親なんて。そんな声がそこら中から上がった。

 みんなそうなんだ。みずきは、勝手にどこか線を引いて離していた同級生達に、もう少し踏み込んでみようと話に耳を傾けた。


 女子というのはお喋り好きな種族だ。午前十時集合で現在午後六時。その間、無言になるタイミングが一度も無い。恐ろしかった。

 聞くだけでもくたびれる。みずきは半ば気力を失いかけながら、時おり頷き返すことで参加しているフリをしていた。

 しかしごく稀に、興味のある話題が披露されることもあった。

「もうマジかわいくてさ! 私のSNSからだけ情報拾ってくれて、教えたこと何でも全部覚えてくれるの。でも教えないことはなんにも知らなくて、子どもみたいでさ~」

「自分好みに育てられるってわけだ!」

「そーいうこと! 目と耳と鼻はあってね、例えばねぇ……パフュームしゅってかけてあげると何かけたか言ってくれんだよ? 最初は私がネットにあげてた写真とかから考えてくれるみたいでさ、『この前言ってた香水ってやつだね、素敵だよ』って!」

 林本がそう口まねで語るのは、少し舌ったらずな口調の男の子のようだった。

「教えてるとね、その内『これはアナスイのスイドリームスの香りだね』とか言っちゃうの。私が言ったこと覚えててくれるんだ、頭良すぎだよね~」

「あのテディベアでしょ? 外見のカスタムがアナログなのもいいよね。CGとかと違って暖かいし」

 友人達が話している話題は、みずきが初めて聞く情報だった。

 ぬいぐるみの中にスピーカーや各種センサーを組んだ素体を埋め込み、自分のプロファイルを登録したAIと会話をするのだという。モーター類は着けないらしく、ただの「しゃべる・感じるぬいぐるみ」だ。それが人気らしい。

「売ってんの?」

「そ。技術者がフリマでね。正確には、お姉ちゃんが安かったって言って持ってきたんだけどさ」

 フリーマーケットはオンラインで取引される個人売買の総称となっており、今やリアルでの露天フリマはほぼ絶滅していた。

「え、怪しくないの?」

「それな!」

「女子高生のニオイとかデータ化して集めてたり? うわーそういえばヤバイねぇ。オフラインじゃないんでしょ? それ」

「いやいや、販売者が女の人なら問題ないっしょ」

「……ネカマとか」

 みずきは、ガルドとしての経験からその危険性を提示する。榎本に口酸っぱく指導されたこともあり、ネカマは溢れるほど存在するのだと知った。

「ネカマって、女のふりした男、ってことは——」

「いやいやいや、ミルキィちゃんに限ってそれはないって!」

「可愛い名前つけてるね」

「でしょー、ってそうじゃなくって——あぁもう、不安になってきた!」

 持ち主である林本が、肩ごとがっくりとうなだれる。脳近くにデバイスを埋め込むほどオンラインの境界がフラットなみずきには、その「生体データが吸収され、どこぞの男の元に行く」という恐怖がいまいち理解できなかった。だが林本が困っているということは分かる。

 そして、解決する能力を持ち合わせていた。

「そのミルキィちゃん、コネクトして調べようか」

 みずきはそう言って、自分のこめかみをトンと叩いた。

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