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110 恋バナ・スタバ・フィーバー

 週末や放課後の大会対策戦闘訓練は順調に進み、家族関係も父がとりなしてくれるお陰で平穏なものになった。みずきは今、先日の動乱が遠い昔のように感じるほど、周辺も気持ちも落ち着きはらっている。

 落ち着いた内装と静かなBGMが心地よい空間で、少し騒がしい一団が話に花を咲かせていた。

「確かに春だけど……まだこんな寒いのに、なんでフラペチーノ?」

「こんな寒いのに限定のカスタム出すスタバが悪いんだよ! 我慢できないじゃん!」

 榎本の元から自宅に戻ってから、瞬く間に季節が過ぎた。

 学年が切り替わる関係で休みが増加した三月。クラス替えを惜しむ友人達と予定を合わせ、横浜のみなとみらいエリアにショッピングに来ていた。

 相変わらずこのエリアは異国情緒に溢れており、空が高い。高校のある場所から少し離れているが、彼女達にとっては新宿や池袋と比較すると「お手軽に遊べるスポット」であった。

 交遊関係の広いハデ目な林本が声をかけた結果、女子ばかりがみずきを含め六人ほど集まった。みずきがあまり話しかけない者も含んだが、さして気にはならない。

「しかも桜味って、これまた変わった味頼むよね」

「美味しいよ! ほら一口」

 クラスメイトの宮野がずいと佐久間に勧めるそのドリンクは、シャーベットとジュースの合間といった冷たさの、ピンク色をした甘いドリンクだった。

 隣でみずきは、ホイップクリームをたっぷり乗せたキャラメル風味のものを飲んでいた。もちろんホットで、甘くしたコーヒーを注文したのは随分と久しぶりだった。

「おいしいけど、頭痛がすごい」

「だからちょっとずつしか飲めないんだ~。みずも一口どう?」

「……ありがと」

 差し出された深い緑のストローに、ぱくりと吸い付く。口いっぱいに、なんともいえない独特の風味と強烈な甘味が広がってくる。

「ん、おいし」

 みずきはまた一つ、嘘をついた。

「でしょ? 冷たくっても、飲む価値ありでしょ!」

「お返し。あったかいよ」

 美味だろうが冷たいそればかり飲んでいた宮野に、自分のホットキャラメルマキアートを渡す。満面の笑みで喜んだ宮野は、一口飲むと「沁みるわぁー」と渋いコメントをした。

 落ち着いた店内で各々の注文した飲み物を片手に話すのは、基本的には学校と芸能人の話題だ。しかし次第に恋愛トークに移り変わってゆく。

 恋愛そっちのけでゲームに打ち込んでいるみずきにとって、あまり興味の無い話題であった。しかしテレビすら見ないみずきが完全にアウェーである芸能人の話題よりは分かる内容に、頷きで参加する。

 話題の進み方は進捗確認に似ていた。

 宮野がバレンタイン前に捨て、その後告白で手に入れた新しい彼は後輩だった。バスケットボールに向いた高身長の持ち主で、ライバルも多い。彼女の悩みは目下そのライバル達の追い払い方である。

 佐久間の片想い相手へのアプローチも順調で、SNSだけでなくリアルで会話ができるようになったらしい。

 林本は本命とギクシャクしており、唾をつけておいた「つなぎ」の先輩に乗り換えようかと検討中らしい。宮野がそこを「私は捨てた結果全てが上手くいって満足してる」という話題で道連れにしようとしている。みずきは止めなかった。

「え、私? 中学時代の彼と続いててぇ、でも高校はあっち、川名の方行ったから……」

「ええー!? みっちーインテリと付き合ってんだ!」

 みずき達の通う高校も偏差値は高いが、それを上回る川名高に通う恋人がいると聞き林本が驚く。

 みっちーと呼ばれた道野辺は、照れながら真紫色をした飲み物に口をつけた。その液体が何なのか気になるが、みずきには尋ねる勇気がなかった。

「ねぇねぇ、みずは? 最近どーよ!」

「あ、うん」

 ぼおっとしながら話を聞いていたみずきは、話を振られ一瞬停止する。いつも通りの嘘をいつも通りに話した。

「毎週会ってるよ、向こうで」

「ひゅう! らぶらぶぅ!」

「いいなぁ、年上でアメリカ勤務! かっこいー!」

 周りの誤解のままにしていただけだが、リアルで会った今は少し罪悪感があった。彼はよくモテる。ナンパな気質も相まって、三十代の女性と付き合ってはフラれを繰り返しているのだ。

 自分などの偽装工作に利用させるのは申し訳なかった。

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