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108/429

108 それは所詮、娯楽でしかないのだと

「どうだ?」

「絶好調だね! 会場で度肝を抜けると思うよ~」

「フッ……逆にならないことを祈ろう」

「びっくりするような戦法が繰り出されるのも、若干楽しみではあるけど」

 戦闘エリアからギルドホームに戻ったメンバーは、映像ログを見ながら反省会を開いていた。その場には、相手をしていた鈴音とロンベルレイド班の即席チームもいる。

「はぁー、楽しかった……」

「先輩、どうでした? 閣下に両断されて!」

 映像には、ガルドがトドメを二回刺したタンクの最後が映っている。彼女を先輩と呼んだボートウィグが、あからさまに羨ましそうな表情を浮かべながら聞いた。

 彼女は満面の笑みを浮かべ、鈴音の後輩ボートウィグに語りだす。

「最高だね! 癖になっちゃうのわかるよ。こう、斬るときにさ。私のボディをじっと見つめてからズバァァーっていくじゃない?」

「そうそう! その熱視線が……あ、そこですそこ!」

 映像を一時停止し、スローに切り替えてガルドの(ざん)を見いる二人。揃ってため息を一つ。

「いいわぁ……でも、自分視点の方がいいね」

「僕、ストックしてますよ! 今日の撮りたてホヤホヤもあります!」

「やるわね。でも私だってメロさんの『ハイテンション台詞集』集めてるから!」

「メロさんいっぱい喋るからいいなぁー。あ、閣下ですけどね、斬った瞬間小声で『しぅっ』ていうじゃないですか。息吸う音なのかな。あれセクシーですよね!」

「え、マニアックだし気付かなかったんだけど」

「もっ・たい・ない!」

「あんたがコア過ぎるんだよ」

 鈴音舞踏の二人が話すのをこっそり聞きながら、ガルドはぴったり口を締めようを決めた。


「ほどほどになさいね、みずきさん」

「……ん」

「母さん、許可はしましたけど。本当は辞めて欲しいと思ってますからね?」

「わかってる」

「海外の件も、母さんは反対です。父さんが良いと言ってしまったからもう何も言いませんけど。まだチケットとっていないんでしょう?」

「もうとってる」

「……やめれないの?」

「行くから」

「みずきさん!」

 部屋に入り浸って週末を送っていたガルドだが、空腹に耐えかね階下に降りざるを得ないときもある。夕食の時間帯にリビングに入ると、眉間にシワを寄せた母がソファで新聞を読んでいた。深く腰かけない彼女が背筋をぴしっとしてこちらを見ている。居心地が悪い。

 続けて何事かを母が言うのを、ガルドは聞かずにその場で立ってやり過ごした。

 電子社会になった今も紙の新聞は廃れることがない。その匂いと安っぽい触り心地が嫌いでないガルドも、ああしてソファで読むことがある。もちろん姿勢は深く腰掛け、時おり肘当てに頭を乗せて横になって読むことさえあった。

 後であれを読もうと目で新聞を追い、それをくしゃりと握る母の存在をはたと思い出した。

 そういえば説教中だった。

 ガルド、つまりみずきが持つ年相応の逃げ癖は、母から逃げる際に鍛えたものだった。話を聞かないことで彼女の怒りから逃げる。母の注意を忘れることで問題から逃げる。後回しにすることで目先は逃げる。母を忘れることで逃げる。

 今までそうやって、なるべくストレスにならないようにしてきた。

「……もう逃げない」

 自分に言い聞かせるように、みずきは呟いた。ぴりぴりした空気の二人に、別の声が掛かる。

「ほらほら、今日は父さんがたっぷり煮込んだ豚の角煮だぞ?」

「うん」

 父の優しい声に、みずきは母をさておきダイニングテーブルに向かった。

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