106 地鳴り
三人称だった視点が自分の目にすうっと戻る。
見えたのは心地よい青空ではなく、メロのまだらに染まっているブルーの、ボリュームたっぷりなウェーブヘアだった。視界全体、ガルドの顔面が髪の毛に埋まっている。
風に吹かれ彼の髪が四方八方に広がっているせいだ。前が見えない。首を振ってもとれない。
「……メロ」
「うひゃー! 高い! 高い!」
彼は興奮していた。
何でも再現が売りの脳波を利用したVRとはいえ、フロキリには戦闘機ゲームに搭載されているような、重力感のフィードバック機能がない。空を飛ぶ加速感とGを感じることができない分、風を受けながらメロは景色と追尾弾を見た。
一瞬の滞空、自由落下が始まる。
それに合わせ、追尾してくる雷の魔法スキルもカーブしてきた。
「あ、させないよー」
装備の効果でチャージ時間が一秒の二割まで短縮された単詠唱魔法を連射する。氷の小さな塊は、空まで鋭く追尾してくる雷を正確に穿つ。衝突のエフェクトが散るように煌めいた。
ぶつかり合う魔法同士が落下中のガルドとメロの直上でぶつかる。爆風は小さく、彼らには届かない。
「っと!」
ずどんと鈍く重い音を響かせながら、ガルドは地面に着地した。
瞬時に、着地狙いで斬りかかってきていた片手剣プレイヤーを右手の大剣でパリィ。続けて敵のカウンターが来るのを、メロごと身体をひねって回避する。
ついでにメロの腰を抱える腕をそのまま上空にブン投げた。
「そうくる!?」
思わず相手剣士が悲鳴をあげた。
「いえーい! 人間大砲だよ!」
笑いながらメロがふわりとまた空を飛ぶ。人のいない安全エリアに飛ばされながら、メロが一分は掛かる長い召喚魔法のチャージに入った。
させるかとばかりに片手剣士がメロの方角に進もうとし、眼前でガルドの左足が勢いよく地面を揺らした。
地割れのような短い轟音と、両手持ちに切り替えた筋骨隆々大男の剣構えが迎え撃つ。
意識して威圧を当てながら、ガルドは低めに一言呟いた。
「まとめて来い……」
空気がぴんと張る。脇を抜けても良い状況だが、誰もガルドを無視できなかった。
片手に銃を構えたスモールシールドのタンクがじりじりと距離を詰める。ガルドの威圧で足を止めた片手剣士は、ガルドを睨みながらスキルモーションに入った。




