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102 ラウンジ・イン・レンジ

「復活だ」

「おめでとーガルド! これで榎本はまた独り身だねー」

「おいメロ! 一言多いぞ! 居候を迎えてただけで、俺はずっと独り身だっ!」

「ずっと?」

「これからも?」

「……ハワイから帰ったら本領発揮だ!」

「いっそ向こうで捕まえれば?」

「しねぇよ!」

 榎本も御徒町の自宅に戻った夕刻。

 シックでいて柔らかな雰囲気のロンド・ベルベット専用ギルドホームに、久方ぶりに六人全員が集まった。ガルド達はホームのなかで六人が集まる定位置になっている、一段天井の低いラウンジの一角で休憩中だ。

 マグナの趣味であるロボットや戦闘機のフィギュア、写真立ての中でセクシーにポーズを決める元ギルマス、ジャスティンが収集したVR製の酒瓶コレクションなどが飾られている。そのどれもが統一感の無いものばかりだが、落ち着いた色合いの室内と木の質感が優しく包み込んでいて、それほど違和感はない。

 ガルドはというと、隅にレトロ・アメリカンな小さい冷蔵庫を設置していた。

 中には数種類のジンジャーエールや果物、間借りを許可した榎本やジャスティンの冷蔵酒がキンキンに冷えている。上部の冷凍庫にはアイスクリームとロックのウイスキー用にと丸い氷が行儀よく常備されていた。

 データで保管している為もちろん腐らないが、温度については別要因のアイテムによる支援がないと「二十度前後の常温」がデフォルトだ。冷蔵庫は冷たい食べ物を楽しむプレイヤー達の必需品だった。

 大きな身体で冷蔵庫の小さな扉を開き、小ぶりなリンゴを一個取り出す。

「ガルドガルド、俺も~」

 夜叉彦がソファから手を振ってきた。もう一つリンゴを取り出し、下から大きな軌道を描きつつ放り投げてやる。危なげなく夜叉彦が片手でキャッチした。

「ありがと!」

 手にしたリンゴを二人でそのまま皮ごとかぶり付く。歯切れの良い音と、爽やかで甘い果汁が口一杯に広がり喉を潤した。

「そういえば、今日はやたら混んでるな」

「ああ、レイドが来週あるらしい。俺たちには連絡がなかったところを見ると、気を使ったんだろうな」

 自分達の居るサロンから視線をエントランスに向ける。一段天井が高くなり開放的なその場所では、ロンド・ベルベットのレイド班と鈴音舞踏絢爛衆がミーティングを行っていた。


 ラウンジから離れ、高い天井とシャンデリアが印象的なエントランスに視線をやる。

 その中に、つい昼過ぎまで手伝ってもらっていたボートウィグの姿を見つけ、ガルドは少しだけ嬉しくなった。ここ最近忙しくてログインできなかった彼のアバターを見るのは、三週間前の戦闘訓練以来だ。

「親御さんとは仲直りできたの?」

 リンゴを口一杯に頬張っていた夜叉彦が、ごくりと飲み下してそう聞いた。

「……まぁまぁ出来た」

「そっか。GWまで何ヵ月かあるからゆっくりでいいよ、急がずのんびりな」

 ここ最近の彼は、どうも自分を女性のように扱っている。以前の彼なら笑いながら「まぁまぁかよ! 相変わらず頑固だなー、さっさと怒られといで!」と茶化すところだろう。

 ガルドは少し寂しくなった。

「そうだな、コンディションは大事だぞ。困ったらすぐに俺たちを頼れよ。お前らも、オフで問題が起きたらすぐに報告しろ」

「子どもの成績が落ちたんだが!」

「放っておけ、ジャス。お前がとやかく言ってもどうにもならん」

 ジャスティンの子育ては空回り気味であり、マグナはそれを長年見てきている。どっしり構えろというアドバイスは有益であった。

「ねーねー、弟が大台にのっちゃったんだけど」

「百キロ突破したのか……少し食事制限したらどうだ」

 メロの弟の体重管理にもアドバイスを入れるマグナは、「魚と野菜を増やし、米を玄米にしろ」と真面目に対策案を答えた。

「マグナってマメだよな~。リアルの悩みまで網羅してるのか」

「お前は嫁の希望を聞き出せたのか?」

「ぎくり」

「早い方がいいぞ。もう三十二なんだろう」

「……そうね」

 夜叉彦が突っつかれたのは、以前から相談していた「嫁が子ども欲しいのか分かんない」という悩みである。

 榎本はすっと目をそらす。

「お前は元気にフットサルでもしてろ」

「だー! 俺なんも言ってねぇ! それに雑!」

「榎本は走ってれば悩みなんて無いよね」

「単純だな!」

「あとナンパでもしてれば?」

「だからハワイから帰ったら勝負だから! くっそー家庭持ちばっかり集まりやがって!」

「……次の試合、勝てるといいな」

「……優しいなガルド、お前だけだよ俺をいじらないの」

「練習不足だ、肉離れに気を付けろ」

「おおい! そうくるか! 忠告さんきゅーな!」

 母と機体という大きな悩みが解決したガルドは、上機嫌に鼻をフンと鳴らしながらリンゴを一口で完食した。

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