101 噂をすればなんとやら
「あれ、ロンベルの大剣使いじゃない?」
「んだ。アタッカーコンビの剣の方」
「いつ見ても怖えー……アメコミの筋肉キャラみたいだ。重心にブレが無さすぎてヤバイ」
「ねぇねぇ、絶壁氷山エリアのマギ=マラッカの攻撃、全部パリィして無傷だったって話、マジ?」
「まじまじ。今年の世界大会が初出場だな。要チェックだ。世界チャンプとのパリィ対決、すっげぇ楽しみだぜ!」
「でも応援するにはちょっと渋すぎるんだよね。なんかヒーローみに欠けるっていうかさぁ、もっと他のゲームみたいにかっこいい神プレイヤーならいいのにぃ」
「確かにアバターチョイス悪いよな。おっさんとか普通選ばないだろ?」
「ウケ狙い?」
「自爆してる」
「あはは、マジそれな~」
ログインするだけで周囲の話題と目線を集めるガルドだったが、話の内容までは声の届かない位置にいるため聞こえなかった。
しかし視線だけは感じとる。
プレイヤー達の興味深そうな視線がこちらに注がれているのを、ガルドは警戒されているのだと受け取っていた。
リアルでも同様に遠巻きに見られるため、ガルドは「自身が人に好かれず、ひどく怖がられている」ことを知っていた。すっかり慣れているため気にも留めず、左手人差し指のダブルノックでマップを呼び出す。現れたファストトラベル可能ポイント一覧からロンド・ベルベットのギルドホームをタッチし転移移動した。
ガルドが立ち去った氷結晶城では、噂好きのプレイヤー達が話を続けている。
「舎弟希望のやつには、ガルド・ファンチーム直々に査定があるらしいぜ」
「ふぁんちーむ?」
「鈴音舞踏絢爛衆。知らないか? そのなかで派閥があって、それぞれ尊敬するプレイヤーごとにチームつくってんだよ」
「なにそのファンクラブみたいな痛いギルド……」
「ロンベル公認」
「公式なんだ! じゃあさ、ギルドネームの鈴音がベルで、舞踏がロンド?」
「多分な」
「ベル……ベルベットじゃないんだね。漢字にしにくいからかな~」
「語呂だろ。それに、織物の名前つけても箔が無いし」
そう噂話を続ける男女は、それぞれのチームについて噂話を続けた。
ガルドを慕うチームは圧倒的に男所帯だ。関係性も、兄貴と弟分といった形で落ち着いた。そのことを「まるで組合の舎弟」と茶化しながら、話題の矛先は新人に向けられる。
「夜叉彦くんはまだ入って一年目だっけ。チームなんてあるの?」
「……やつのチーム、ほぼ全員女子だぞ」
「あー確かに。私もロンド・ベルベットだと夜叉彦くんがいい」
「なんであれがいいんだよ、イケメンって感じじゃないだろ?」
「母性くすぐられるからかなぁ」
「大型犬みたい、の間違いだろ。ヒューマンなのにコボルトみたいだよな」
「わざとかな。アバタークリエイトのときに頑張ったのかも」
「顔だけじゃないんだろ?」
「そうそう。動きとか、喋り方とか。癒し系だよねー」
「わかんねーよ……おっさんに癒されるなよ……」
そう噂しながらプレイヤー達は移動してゆく。こうして彼らに話のネタにされる程度には、ガルド達は名の知れた戦闘系ギルドであった。