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 結局ささくれた気持ちをどうにも解決出来なかったガルドは、午後六時にアラームをセットし昼寝をして時間を潰した。

 久しぶりの自分のベッドはとても落ち着く。予想よりするりと睡魔にまどろみ、記憶がぷつりと飛んだ。

 スマホから響くフロキリの開国祭を祝う歌詞付きの曲に、うっかり熟睡していたガルドが跳ね起きる。アラーム無しで起きたかったが、これが聞こえるということは出遅れたということだった。

 慌てて脇にそびえる機械に駆け寄り、二ヶ月ぶりのテテロに触れる。ひんやりとした機体は、グリーン系統の肌色というマニアックな色をしていた。質感はざらりとし、印象としては少しチープだ。ガルドが一番気に入っているポイントでもある。

 ボートウィグによって自分一人で行うよりも精巧に排熱空間を計算したセッティングに、テテロも喜んでいるようだった。動作音が以前より透き通って聞こえてくる。ガルドは勝手にそうアフレコを付けながら、その本体から、自分の腕より太いコードを何本も生やしたヘッドセットを拾い上げた。

 おまたせ、と心の中で呟く。

 上手く延びないそれを、少しだけ強引に引っ張り枕の辺りまで引く。横になったときにつっかからない程度の余裕を持たせ、いつも通りベッドに横になった。

 分厚いヘッドセットを頭に当てると、勝手にひたりと磁力でこめかみにくっつく。頭蓋骨の一部になっている脳波感受型コントローラと引き合う、ヒタリとした不思議な磁力。榎本宅で使っていたヤジコーのものに比べ、少し強いように思う。冷たいこめかみを伝い、テテロへ体の感覚が奪われていく。

 電子音が鳴り、ログイン画面が目ではない場所に染み込んできた。

 冷たいヘッドセットの内側に視界が埋まると、まるで宇宙のような暗闇が広がってくる。目を凝らすと星が見えそうだ。実際、接続した瞬間まぶたの裏が一瞬光る。

 電気信号が走っているのだろう。だが単なる一般プレイヤーのガルドには、それがどんな信号なのかわからなかった。

 視界は闇夜のように黒い。その手前に白くフロキリのUIユーザーインターフェイスが広がり、数種類のコマンドボタンとプレイヤーデータの選択ボタンが現れている。配線作業の折に外付け情報保存装置から移動を済ませていた、唯一無二の最新版データを選択した。

 いつもの身体が膨れ上がる感覚がし、座り慣れた椅子に腰かけているところで目が覚める。

 ログインしてまずやってくることになるのは、例外なくゲームの舞台ミドガルドの中心部、氷結晶城だ。

 透き通った美しい水晶の城、その玉座の間で王の座る椅子に腰かけた状態でプレイヤーはログインしてくる。玉座といっても六席ほどあり、同じタイミングでログインしてきたプレイヤー達が白い粒子から形成される様子も見ることができた。

 フロキリの代名詞である氷の描写の真髄が、この城には惜しげもなく凝縮されている。

 玉座の背後には螺旋状に続く半透明の階段が発光していて、城の高く尊大な天井を突き破り、油画のような美しい空の雲上まで続いている。もちろん実際に登ることはできない。だまし絵だ。

 プレイヤー達は「この階段を降りてフロキリ世界ミドガルドにやってきている」という設定になっている。天上人設定は特段大きく存在感を示すことはないが、町の住人達に【墜落(ついらく)した戦士様】と呼ばれるクエストがある程度にはゲーム内の常識として知られている。

 中吹き抜けのようになっている城の、階段の向こうをぼんやりと見つめた。

 リアルの下にこんな世界が広がっているのであれば、喜んで落下したいものだ。そう笑いながらガルドは膝に手を当て、下を見ながらゆっくり立ち上がった。視界の半分は自分の胸で埋まる。

 今日もアバターガルドの胸板は、ぶ厚い。胸を張った。

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