とある記憶の回想
純愛をテーマにして書いてみた短編です
最後の私が誰なのかを当ててみてください
「なあ、俺恋しちゃったみたいなんだけど……っておい汚ねえな」
いきなり俺の前に座っていた親友が口に含んでいた昼飯を吹き出した。
「……何言ってんだお前?」
ポケットティッシュで口を拭きつつ親友、田中は呆然として俺に聞き返した。
「だから言ってるだろ?恋だよ恋。プルんプルんの初恋だよ!」
……いちいち恥ずかしいこと言わせるなよ。
「お前が恋ねえ……俺は嬉しいよ」
田中は咽び泣きつつ、俺に答える。
いちいち表情が変わって面白いやつだな。
「で、誰なんだよ」
「誰とは?」
「お前の初恋の相手だよ!」
「俺がそう簡単に言うと思ってるのか?」
「……ラーメン1杯」
よし話してやろうしょうがないなあ。
「白石純子だよ」
「お前それは無理だ」
田中が首を振る。
「でもまだ分からないだろ?」
「いや、お前白石が何人を振ってきたか知ってるだろ?」
そう、俺が狙っている白石はクラス一の美少女。この田鹿高校でも有名人の1人である。
成績優秀、容姿端麗、雲心月性の完璧人間。
容姿を具体的に言うと、サラサラのロングヘアーにスラッとした足、美しい曲線を描く胸……。
何人がその毒牙(?)に犯されたのか。
考えるのも恐ろしい。
その鉄壁の鬼城に一目惚れし、あまつさえ挑む俺は馬鹿としか思われないだろう。
だけど。
「この恋する気持ちは誰にも止められないんだよ!!」
「……キモ」
「なんか言ったかオラァ?」
とにかく、俺はこの気持ちを彼女に伝えたい。
どうやって告白しようかと考えて、ふと周りを見渡すとクラスの一角に目が止まった。
彼女である。
たくさんの女子を引き連れた白石は、まさに1輪の美しい花であった。彼女の美しさの前には、周りの女子は雑草にしか満たないのである。
と、その時。いきなり白石がこっちを見た。
俺と彼女の間で、目線が交錯する。
その一瞬の時間は俺には無限の時間にも感じられた。
気の遠くなるような時間は唐突に終わりを告げる。
白石がそっぽを向いたからだ。
やっぱり脈はないのかなあ……。
いや、俺は諦めないぞ!絶対に告白を成功させるんだ!
意気込む俺をよそに、田中は1人寂しく飯を食っていた。
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「最近何か気になる人でも出来た?」
放課後、急な幼なじみの友達の問いかけに私は思わず吹き出してしまった。
「な、何を言っているのか分からないわ?」
「私には分かるのよ。女の勘ってやつ?」
図星である。
私、白石純子は只今絶賛恋する乙女なのだ。
相手はクラスの冴えない男子、濱田俊輔。
きっかけは、たまたまクラスが一緒になってたまに話すような仲になったこと。気がついたらいつも濱田くんのことを考えてしまってる。お陰で勉強にも部活にも身が入らず、毎日悶々とした日々が過ぎていることが私には耐えられない。
さっきだって気になって濱田くんの方を向いたら目が合っちゃった!
何?あの可愛い目、男らしい髪型、私より少し大きい背丈!
もう気が狂いそう。
と、そろそろ現実に戻ってこないと友達に怪しまれちゃう。
さあいつもの顔を作って。
「そんなことないよ〜。好きな人が出来たら言ってあげるじゃん」
「そう?ならいいけど……あ、いけない。私、彼との約束があるんだった!じゃあまたね、純ちゃん」
「うん、また明日ね」
友達は走って行ってしまった。その横顔は私にはとても輝いて見える。
「いいなあ……」
思わず声に出てしまった本音。
私はただ彼氏を作って遊びたいだけなんだろうか?
そんなはずはない、と自分で自分の言葉を否定する。
私は濱田くんが好きだ。
だけど、告白する勇気が足りない。
「どうしたらいいの?私、恋することがこんなに苦しいなんて知らなかった……」
呟きながら放課後独特の空気が残る廊下を歩く。
すると、
「あの……」
と声をかけられた。
私は俯いたままだった顔を上げる。
そこに立っていたのは。
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やべえやべえやべえ緊張する。
なんか白石が一人で歩いてたからつい声掛けちまったよ。
どうしようなんて話したらいいんだろう?
すると、迷ってる俺に白石が口火を切ってくれた。
「どうしたの?濱田くん」
と言われても、頭が真っ白になって何も考えられない!おい働けよ俺の灰色の脳細胞。いや、ちょっと違うか。
「い、いや、今日はいい天気ですねーだなんて……あはは……」
……ダメだ、これじゃダメだ。
ハッキリとこの気持ちを伝えないと!
「あの、白石」
伏せ気味だった彼女の目が今度こそ俺の目を見た。
「……何?」
いけ、行くんだ濱田!
「……好きです!付き合ってくださいっ!」
沈黙の天使が舞い降りる。
………………………………………………………
やばいやばいやばいどうしよう。
いきなり告られちゃったよ。
私どう答えたらいいの?
固まっちゃって口が開かないよ!
と思ったら濱田くんが口を開いた。あまりにもひどい表情をしているであろう私を心配してくれたのかな?
「……だ、大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
またもや、沈黙。
だめだよ、このままじゃ、絶対に後悔する!
私はゆっくりと口を開いた。
「……私も」
硬くなった濱田くんの顔が少しずつ溶けていった。
そして、彼自身のほっぺを抓り。
「夢じゃない……じゃあ本当に?」
「……うん、付き合ってあげる」
またもや沈黙の天使が舞い降りた。しかしそれはさっきとは違う祝福のラッパを持った天使。
私は声を上げて喜ぶ彼を見て、これから忙しくなりそうだなと思った。
だけど、今なら皆に胸を張って私は幸せですって言える!
私の心はさっきまでのもやもやが消えて、晴れ渡り、スッキリしている。
この高揚感はしばらく消えそうにないだろうな……。
あ、ひとつ言い忘れてた。
喜んでる彼に1つ。
「この事は誰にも言っちゃダメなんだからね?」
濱田くんはニヤけた顔で頷いた。
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これは、ある1組の男女の恋の物語。
この物語を知っているのは、校舎の横に立っている木々と私だけである。
世界の片隅で起こったたった一度きりの小さな奇跡。
ほかの誰もが忘れ去ったとしても、その2人だけは必ず覚えている。
だから、2人だけの時間を大切にするべきだ。
後から思い返した時に傷つかないように。
少なくとも今は大丈夫だろう。
帰り道を歩きながら喋る、2人の笑顔を見る限りでは。
私も見守っていこう。
このカップルがどんな結末を迎えるにしても。
ああ、最近は少し肌寒くなってきた。
建てられてから数十年経っている私には、ちと厳しい冬になりそうだ。
それでは私はもう寝るとするよ。
おやすみ。そして、
あの新米カップルに祝福を!
読んでいただきありがとうございました
分かったことは愛とは難しいものだということです
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