絶剣術の力
「…………ここどこ?」
何もない。
草しかない。
草しか生えてない。
「……不味い」
食べてみたけど美味しくなかった。
「てか何も持ってないよ。食料もねぇ、金もねぇ、武器もねぇ、そもそも人が居るかどうかも分からねぇ」
いろいろな意味で何もない。
とりあえず辺りを見回してみる。
ドゴォオオン!!!!
辺りに爆発音が響いた。
「……なんかあったな。行ってみるか」
不思議なものだ。
普通なら、あんな物騒な音が聞こえたら怖くて近づかないだろうに。
失う物が無いと、そんな事も気にしなくなるのかな?
もしくは、そもそも俺がおかしいのか……ま、そんな事、俺自身が分かることじゃ無いわな。
現在、爆発音がした場所に近づいているのだが、段々と金属音が聞こえてくるようになった。
その後、爆発は起きていない。
ドゴォォオオオン!!!!
「爆発したわ」
フラグでした。
衝撃が凄いです!土埃が口にッ!ぺっぺっ!!
現場からは以上でーす!!
「ま、そういいながら現場に急行しているわけだけども」
人影がある。
そして、人よりも明らかに大きい影も。
ていうかモロ見えている。
モロが居るわけではない。
結構人が居るな。
デッカイ何かを複数の人が囲んでいる。
人の方は、剣を持っていたり槍を持っていたり。
防具らしきものも身に着けているが、何だかバラバラで統一感がない。
一体どういう集まり何だろうか?
よく見ると負傷者?らしき人や、倒れて動かない人もいる。
生きてるのか死んでるのかよく分からないな。
「あのデッカイの……どう見てもドラゴンだよな」
四本足で背中から二枚の大きな翼が生えている。
だが、そのドラゴンは傷だらけである。
どうやら周りの人たちにやられているようだ。
「ん?おお?」
姿勢を低くしてみていると、急にドラゴンが光を放ち始めた。
そして、その光は小さくなっていき……
「……人、になった?」
光の中から人、それも女性が出てきた。
ここから見ても分かるほどきれいな人だ。
さて、どうしたものか。
「助けてッ!!!!」
その女性は叫んだ。
こちらを見て。
目と目があう。
無意識の内に、俺は走り出していた。
誰のものかも分からない、落ちている剣を拾う。
「こいつッ!どっから出てきやがった!!」
「構わん!!やってしまえ!!」
俺の存在に気付いた男たちが俺に向かって攻撃してくる。
遅い、いや、分かるのか。
どこに攻撃が来るのかが。
俺は完全に攻撃を見切っていた。
敵の数はかなりいる。
しかし、不思議と恐怖は無かった。
「ぐっ!?」
「ガハッ!」
近くに居た二人を瞬時に斬る。
「……凄いな。これが『絶剣術』か」
自分の身体や持っている剣を、どのように動かせばいいのかが分かる。
更に、相手の動きも正確に見切れるのだ。
こういうスキルは、武器の扱いだけでなく、戦闘の運びも分かるようになるのかもしれない。
まぁ、他のスキルを知らないから何とも言えないが。
「…4…5…6」
よくわからない男を倒しながら数を数える。
「シェアッ!!」
「ッ!?」
ガキンッ!!
背中に敵が回らないようにしていたつもりだったのだが、うまく回り込まれてしまったようだ。
いきなり背中から斬られて焦ったが、何とか防ぐ事が出来た。
「どうやら、俺以外は全員やられちまったようだな……全くよぉ、テメェ何者だ?」
「……さぁね」
鍔迫り合いをしながら敵の男を会話する。
「言わねぇつもりかよ。どうだい?俺と一緒に来ないか?あの女を捕まえるのに協力してくれたら、金は約束してやるぞ?」
「……別に、金は要らない」
嘘です。
ぜひとも下さい、無一文なんです。
でも、今はそれよりも……
「じゃあなんだ?何が欲しい?大抵のものは用意できると思うぞ?」
「斬りたいんだ。もっと……お前を斬らせろッ!!」
「ッ!?」
俺は力任せに男を押し、よろめいた所を蹴っ飛ばす。
……おかしい、何で力勝負で押し勝てたんだ?
俺は特別力が強いという訳ではないんだが……
思えば、ザコ達を斬っていた時も結構超人的な動きをしていたような気がする。
夢中になって気付かなかった。
「ほら、仕切り直しだ。俺は今、楽しくて仕方がないんだ。続きをやろうぜ」
「クハハ!!そうか、テメェはそういう類の奴か!!いいぜ、どのみちお前を殺さねぇと生きて帰れねぇだろうからなッ!!」
この男、さっきから思っていたのだが、既に殺してしまった他の奴らとは格が違うようだ。
「お前の力の底が見えねぇ。だから本気でやらせてもらうぜ……」
男がそう言うと、男を中心に風が巻き起こり始める。
「気を付けて!!その男は「黙ってろッ!!」ッ!?」
近くにいた傷だらけの綺麗な女性が何かを言おうとした。
おおかた、コイツの力のネタバレをしようとしたのだろう。
「……良かったのか?その女は俺の能力について教えようとしていた見たいだぞ?」
「お前こそ何を言っているんだ?そんな事をされたらつまんないだろーが」
「ハッ、どこまでも舐め腐ってんな。死んで後悔しても知らんぞ」
「うるせぇ。待ってんだからさっさと動けよ。どんな攻撃であろうとも、完璧に見切ってやるからよ」
「ほざけッ!!」
それくらい出来ないと、俺が手に入れた『絶剣術』がいかに強くても、この世界で生きていくのは難しいだろう。
この戦いの中で、俺のやりたい事が見つかった。
何もない俺だけど……いや、何もないからこそ、やりたい事をやって生きていきたい。
戦いの中で……もっと強くなりたい。
もっと戦いたい。
心臓が破裂しそうな程の緊張を味わいたい。
誰よりも先へ進んで、俺だけの世界を見てみたい。
きっと厳しい道だろう。
気を抜いたら、直ぐに死んでしまう様な。
それでいい、それがいい。
俺が求めているものがそれだから。
……来る、ヤツの攻撃が。
俺は集中する。
目だけじゃない。
耳も、鼻も、肌も……周りのもの全てを感じられるように……
周りの動きが、とてもスローに感じる。
男はまず、その場から動かずに一度、空を一閃。
その後、男は大きく前に踏み出し、また一閃。
そして……
「…………」
「…………参った、俺の負けだ」
膝をついたのは、敵の男だ。
どうやらコイツは、斬撃を自在に飛ばしたり出来る様だ。
まず最初の一撃で斬撃を放ち、更にそれを追いかけるように踏み出して二撃目。
この時点で、斬撃が二つ重なった状態になっている。
そしてそれを追いかけるように移動して、自身が放った斬撃と同時に俺を斬る。
とんでもない早業だ。
まさに神速と言えるのではないだろうか?
俺でなきゃ見逃しちゃうね。
実際、とんでもなく早かった。
これだけの動きをしているのに一秒も経っていないのだから。
まぁ、実際は三撃目は放たれていない。
三撃目を撃たれる前に俺が斬ったからだ。
相手が斬るよりも先に飛んでくる斬撃を剣で破壊。
その後、男の懐を抜けるように腹を一文字に斬った。
「クッハハハ……やられちまったなぁ……完膚なきまでにやられちまったよ」
「初手から使ったのが間違いだったな。ある程度距離があったおかげで『見る』余裕が出来た。至近距離で攻撃に織り交ぜながら使われたらヤバかったかもな」
「おいおい、『見てから』動いたのかよ……そりゃあ……どう頑張っても勝てん……わな」
男は地に倒れた。
どうやら力尽きたようだ。
「……う、うわぁ」
な、何やってんだ俺……完全にヤバい奴じゃん。
何か剣を持った瞬間に…こう…楽しくなっちゃって、そのままノリでやっちまった……
途中でなんかもう性格が変わってたよ。
何が斬りたいだよ、発言が殺人鬼のそれだよ……
自分で自分にドン引きだよ。
あッ!そういえばあの女性は!?
お、居た居た。
「あの、大丈夫ですか?」
「……(バタッ)」
「えッ!?あっ、ちょっと!大丈夫ですか!?」
近づいたら倒れてしまった。
どうやら意識を失ってしまったようだ。
……俺が怖くて意識が飛んだとかじゃ無い事を祈っておこう。