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俺は魔法が使えない!!  作者: カリン・トウ
第一章 A Study in Emerald
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第一章7  補助魔導機と展開武装①

 舟山に引っ張られるように校舎を出た頃、クラスメイトは半分まで減っていた。

 しかし人数が減ったことで行軍もスピード感が出てきた。


 それにしても行き先は体育館か……。

 そこは今朝行ってきたばっかりだ。

 なにがあったかは思い出せないが、奇遇というほかない。


 体育館への道中、木陰や茂みに潜んでいた他クラスからの攻撃に遭った。

 攻撃の種類は基本的に『炎の玉』だけで、ほかにバリエーションがない。同様にこちらのクラスメイトの攻撃も、タクラマとまゆりを除けば同様だった。

 記憶が確かなら、もっといろいろな魔法を授業で習っていた気がするのだが……。


「学校での戦闘って、相手と同じ魔法で応戦しなきゃいけないのか?」

「そんなことないですけど。もしかして皆が使ってるファイア・ボールのこと?」


 察しよく答えてくれたまゆりに首肯する。

 まゆりは得意そうに口元を緩めて、お得意の解説を始める。


「あれは、学生用にデザインされた補助魔導機(アンシラリーデバイス)に組み込まれている、オマケの登録型魔法よ。登録済みの魔法は、必要分の魔力さえ足りていれば本人の練度に関係なく使用できるから、とってもお手軽なの」

「しかも、どんだけ基本値が低い野郎でも詠唱抜きで撃てるってのがウリでな。お子ちゃま連中はそういうのに憧れてんだっ」


 二人からのレクチャーはこんな感じだった。

 聞けば登録型の魔法は、威力や効果も、完全に製品仕様(カタログスペック)通りになるそうだ。なんとなく火縄銃伝来からの戦時投入とイメージが重なった。



 補助魔導機(アンシラリーデバイス)――

 特別な修練も要らず、誰にも魔法を可能にさせる知恵の結晶。

 歳月をかけて鍛え上げる魔杖(まじょう)と比べれば、その性能はだいぶ劣ってしまうものの、安定性と取り回しやすさでは格段に上をゆく。


 一般に、魔杖は個体ごとの癖がとても強く、制御しきるには相応の努力が必要になってくる。対して補助魔導機(アンシラリーデバイス)は、ただ所持するだけで全く機能する。魔杖であれば何年、何十年とかかった力の制御を、完全に『ゼロ』にするのだ。これで流行らないはずがない。


 実際、補助魔導機(アンシラリーデバイス)が世に登場して以降、魔法の文化は一段と栄えた。もし開発がなされていなかったら、魔法は、世間の隅っこに追いやられていたかもしれない。

 ゆえに、補助魔導機(アンシラリーデバイス)の誕生は、世紀の大発明と言って過言ではなかろう。人類の叡智と、便利さへの飽くなき欲求に万歳だ!


 しかしこれらはあくまで流行った理由であって、もともとの開発の経緯は、今述べたこととは全く別だ。


 言ってみれば取り回しやすさは付加的なもので、本当の目的は、魔力流路(インテリアチャンネル)の形成にある。

 魔力流路(インテリアチャンネル)とは、いわば魔力の血管(パイプ)のようなもので、体中で生成される魔力を循環させ、必要とあらば取り出し、或いは意図的に放出させる役割を負うものだ。


 魔力流路(インテリアチャンネル)がなければ魔力を取り出すことが出来ず、魔法は使えない。魔法を使うためには絶対不可欠なものなのだ。


 しかし、その不可欠なものを、人間は、極めて一部の例外を除き、生まれつき持っていない。そもそも人類は、魔法を使えるように肉体がデザインされていないのだ。


 そのため人類というのは、いくら体に魔力を内蔵していても、自力で魔力を取り扱うことが出来なかったのである。


 それを解決する目的のもと開発されたのが補助魔導機(アンシラリーデバイス)だ。

 これなくして魔法を扱おうとするならば、かつての魔法使いたちがそうしたように、膨大な時間を費やして、魔力流路(インテリアチャンネル)形成のための適応訓練を自身に強いなければならない。そこに魔杖を修める時間を足すと、一生涯で足りるかどうかも怪しい。


 魔法とは元来それだけ時間を要とするものだった。補助魔導機(アンシラリーデバイス)が登場するまでは。


「ところで、まゆりとタクラマのデバイスはどうしたんだ?」

「庭で試し撃ちしたら溶けちゃったの。今は台所のゴミ袋に入ってるわ」

「あァ俺様もそんな感じだわァ」


 二人は人類の叡智をさも生ゴミだったかのように(のたま)った。

 まあ、それも頷ける話で、二人は魔力に完全適応した特異体質なのである。よって魔法に補助は不要なのだ。


 しかし、現代は第二の銃社会と揶揄されているような時代に突入している。

 いつ何時、銃の代わりに補助魔導機(アンシラリーデバイス)を持った不届き者が出たっておかしくない。誰にしろ、自衛のために補助魔導機(アンシラリーデバイス)は必携なのだ。


 なので、見せかけとしてでも持ち歩くのが世の常なのだが、それを捨てたというのだから笑えない。

 二人には必要ないと分かっていても、それを思うと却って深い溜息が出た。


「カカカ、考えてるこたあなんとなくは分かんぜ。けどよ、おめーもデバイス持ってねーんだから俺様たちと同類だろぉ、なあ燎祐(りょうすけ)?」

「そーだな。違いない。持ってない理由もお互いぶっ飛んでるしな」

「でも(りょう)には展開武装があるじゃない。展開機能がオミットされてるみたいだけど。んん? あれ、でもそれってただの武装ってことなるの?」


 口にしてようやく言葉の矛盾に気づいたまゆり。唇に人差し指を乗せて視線を斜め上に向けた。なにか考えているときの仕草がとっても分かりやすい。

 それからふんわりと時間を置いて、のんびりとした動きで顔を戻したあとは、唇から指を離して小さくほほえんだ。俺はそれで承知した。なんの考えにも至らなかったと。


 意味が汲み取れないタクラマは、なんだなんだと、俺とまゆりとを交互に見回した。

 俺は両手を胸の前で小さく動かして首を振った。タクラマにはそれで通じた。

 それを目にしたまゆりは、考えるポーズに再突入していた。なるほどこちらは通じてない。




 それから数分後、俺たちは体育館の前まで来ていた。

 クラスメイトは以前より更に減ってたが、舟山は相変わらず気にもとめず、そして小休止も入れず、今度は体育館の外周に沿って歩き始めた。

 首切りダービーはまだまだ継続か。


 俺は思い出したように、装着した籠手に改めて目を落とした。

 適当に指を動かしてみたら、装着感がないほど手に馴染んでいた。


「先生はこれで魔法に対抗できるって言ってたよな。でも魔法って、こっち側からは触れないんだろ?」

「んだぜ。魔力でてめーを覆わなきゃ魔法の輪郭には触れられねえ。ま、触ったところで危ねえのに違いはねーが」

「たぶん魔力的被覆処理(マジックコーティング)とは別に、籠手そのものに魔法排斥(アンチマジック)機能が組み込まれてるのかも」

魔法排斥(アンチマジック)……!!」


 なんだそりゃ。

 なんとなくノリで驚いた素振りをしてみたが、意味はさっぱりだ。

 それを見透かしていたまゆりは、ほんとうは分かってないんでしょ、とジトッとした目をため息交じりに向けてきた。流石よく分かっていらっしゃる。あとジト目が可愛い。


「お察しの通りだよ。なあアンチマジックってなんなんだ?」

「だと思ってました。かみ砕いていうと、魔法に対する抵抗力のことよ。例えば魔法の威力を減衰させたり、弱い魔法を打ち消(キャンセル)したりするものなの」

「じゃあ魔法を弾いたり、たたき落としたりは?」

「おいおい燎祐(りょうすけ)……魔法の射出速度からすりゃあ、そいつあちっとも現実的じゃねえぞ。魔力被覆(コート)されてっから、一応出来なくはねえが……」

「いやいいんだ。出来るかどうか知りたかっただけだ。出来るんならそれでオッケー」


 妙に納得した俺を訝しがるタクラマ。


「まさかやる気じゃねえだろうな?」 

「どうかな、機会があればやってみたいくらいには思ってるが」

「んなの無理だぞ無理。(はた)こうったって擦りもしねえよ」


 友人としての忠告だろう。その後も、いいから止めておけよ、と念を押された。てっきり悪ノリするもんだと思っていたが、案外心配性か。


 が、その数十秒後、タクラマの忠告を無視する結果になった。

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