第一章6 オリエンテーション③
俺たちはタクラマが倒した生徒を側目にかけながら歩いた。
時に映画やドラマみたいに敵の死んだフリを想像してしまったが、脇を通り過ぎてもピクリともしなかった。
本当に大丈夫なんだろうなと案じていると、まゆりがニコリと笑って「平気よ、学校結界の中では死んだりしないから」と例のパワーワードを唱えた。
なんて不穏な言葉だ。むしろ安心できない。
だが、そういうことにしておこう。
魔法って不思議。
「にしても、さっきっから襲ってきてンのは、どー見ても同じ新一年だなァ。こりゃあ学校見学つーか校舎使ったゲリラ戦じゃねーの」
「ほんとだぁ、タイとリボンのカラーが私たちと同じね。んー……でも、戦闘させたいにしても、目的が全然分からないんですけど」
髪をふわっと揺らして首をかしげるまゆり。
目的か。確かにそうだ。こんな騙し討ちを仕掛ける意図が分からない。しかも同じ一年同士で戦わせて何になるというのだろう。
(――実力を知りたいにしたって、もっと公式なやり方や手順があるだろうに……)
とすると、生徒一人一人の状況への対応能力を見ている、と考えを締めくくりたくなるが、それでは敢えて個別にやらない理由が見つからない。
攻撃のタイミング以外に連携のない敵性勢力。
死角になる場所で待ち構えるだけの幼稚な戦法。
明らかに簡単な取り決めだけで実行されているとしか思えない。しかし、それがなんでなのかがピンと来ない。
「変だな。先生は俺たちに『身を守れ』って言ったんだ。なのに向こうは先制攻撃……。もし攻撃側の配置が終わってから俺たちが出発したとすると、そういう役割、ってことになるな」
「学校見学しながらやる意味がワカンネエ!」
「応戦しながらチェックポイントを回るだけなんじゃないの?」
「脱落者を放っぽってそりゃねーゼ」
二人の考えは理解できる。しかし違う気もする。
俺は足を止めて状況の整理を始めた。
学校見学で戦闘…………脱落者を置き去りにして…………次の場所へ進む…………人数が減る…………減らされていく……残りは……。
「……繋がった、コレだ!」
「「はい?」」
「ようやく見えたんだ答えが。いいか、こ――――――」
「生徒の隣に即参上! 『転移』無縫、神出鬼没の君の担任が、すべてにお答え致しましょう!」
「最後まで言わせろよおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーッ!!」
俺のシリアス思考を木っ端微塵に吹っ飛ばし舟山が推参した。
実に心臓とタイミングに悪い転移に、さしもの二人もぎょっとして、視線の先の舟山を見つめる。
「何をそんなに驚いてるんですか?」
そして、このすまし顔である。
闖入した舟山は、すぅっと大きく息を吸うと、無駄に仰け反って声を大にした。
「お聞きください! なっ、なーんとこの学校見学、生徒の皆さんを半ば強制的に戦わせ、今後も在籍可能かどうか、ふるいに掛けているのです!」
直後「えぇぇー!」と安っぽいSEが木霊したと思ったら、おかしな速度で転移しまくった舟山の声にドップラー効果が効いていただけだった。こいつブン殴りてえ。
「これが事実です。さぞ驚かれたことでしょう」
「「「はい。ドン引きです。先生に」」」
綺麗にハモった。
しかし気にもとめない舟山は次に話を進めていく。
「ところで常陸くんは、お渡ししたレプリカもう使ってくれましたか?」
「いえ、まだ使ってな――――」
「ハハハ、実際なかなかのものでしょう? はあー、そうですねー、素手で魔法に対抗するにはソレしかありませんからね」
「いやだから、まだ使って――――」
「ええ、そうですとも、今後もお役に立つものだと先生がお約束しますよ。それはもう手放せないくらいに!」
「なにと会話してんだ先生は?!」
舟山はこれも見事にスルーした。
相手にされているようで全く相手にされていない。なんか自分のことが、テレビ相手に話しかけているお年寄りに思えてきた……。
しかし喩えそうであっても、大層な籠手を貰ったことの感謝の意は示さなくてはいけない。
言ってもどうせ聞いてないだろうが……。
「先生っ、次の戦いの時は籠手使わせて貰うよありが――――」
しかし舟山、俺の声を遮って話をかぶせる。
「あ、次は体育館ですよー。生き残ってる皆さん、準備はいいですかー?」
そして思い出したように転移して消えた。
「………………」
俺の中で、舟山への感謝も消えた。