表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法が使えない!!  作者: カリン・トウ
第二章 The Speckled Beryl / Get over it
69/111

第二章21 真朱再襲①

 国家魔法士連盟は、二つの難問によって、身動きが封じられていた。

 一つは、厚木基地を壊滅させた『真朱(まそお)の魔女』と思しきもの者の襲撃だ。

 目的は未だ不明だが、新型魔法台の国内第一号が完成間近だったことを踏まえると、これが決して偶然のものとは思われなかった。


 この魔法台とは、魔法・魔力を探知、識別する広域レーダーのようなもので、国家魔法士連盟は、魔法台から得られる情報を元に個人を特定し、国内の魔法犯罪を予防している。


 ただ現行運用中の魔法台は、四半世紀ほど前に世界魔法士統制機関から提供されたものであるため、解析能力も処理能力も、現在求められている運用水準からすると、明らかにスペックが不足しており、加えて魔法台を構成する建材もいわゆる「現物」しか使用されていないので、拡張性はゼロに等しく、メンテナンス性もお世辞にも宜しくはない。

 それゆえ、代替設備としての、新型の魔法台の開発計画が走り出したのは、半ば必然の流れであった。


 この開発計画は当初、完成まで五年ほどを予定して進められていたのだが、しかしある時になり、様相が一変した。

 国魔連が行った魔法台の構造解析の結果、運用中の魔法台その技術中枢に「余計なもの」が組み込まれていたことが判明したのだ。

 異物混入の発見で、世魔関(せいまかん)に不信感を抱いた国魔連は、その頃を境に技術的な独立を目指して大きく舵を切り、同時に世魔関と交わした相互協力協定を一方的に破棄した。(以後、世魔関と国魔連は対立し、魔法犯罪の捜査でかち合う度に、互いに縄張りを主張し、衝突するようになった)


 こうして新型魔法台は国魔連単独のフルスクラッチ開発となり、ようやく本年に入り建設が始まったのだが――――破壊された。

 犯人は真朱(まそお)の魔女と目されているが、真意は定かではない。


 ただこの一件によって、既存魔法台の運用期間を更新せざるを得なくなった事実を踏まえると、魔女の正体が何だったにせよ、厚木基地の襲撃には世魔関の関与があったと見做(みな)すのが自然で、国魔連上層部もその考えを強めた。


 そこで尾藤は、八和六合(シオノクニ)の頭領「専女(とうめ)」に調査協力を求めた。

 話を受けた専女(とうめ)は、「相手が相手ならば」と重い腰を上げた。

 【真朱(まそお)】と同じく、【雪白(せっぱく)】の色号(しきごう)を持つ専女(とうめ)には、世魔関や魔女(クラス)を相手取り、上手く立ち回るだけの潤沢(じゅんたく)な戦力が、国魔連にはないと判っていたからだ。


 こうして厚木襲撃事件が、ようやく解決に動きだそうとしていたところに、二つ目の難問――――

 米国西海岸を壊滅せしめた、()の魔法船団の日本転針だった。


 厚木事件に取りかかっている最中に、政府に呼び出され、結局ポンと肩を叩かれ「処理よろしく」と言われた尾藤は、立て続く難問に連日眠ることが出来ぬまま一人対策案を巡らせ、今やその顔は、ゾンビィよりも血色が悪い、ディープなグリーン・フェイスに成り果てていた。


 そして(きた)る土曜日、尾藤の命令により、国魔連最高戦力の湊暁丞(みなとあきつぐ)と、久瀬まゆりを含む、外洋派遣隊を乗せた三隻のイージス艦が横須賀基地を出港した。



 彼らの出航を見送って丸一日経ってからも、尾藤は国魔連の本部には戻らず、横須賀基地内に設置した、海上自衛隊との合同対策本部を離れていなかった。

 それは別に、尾藤が海自を信用していないからではなく、単純に魔法関連の技術に疎すぎる彼らからの、何とも言えない質疑と対応に追われていたからだ。

 その為に自分の仕事を、已む無く停滞させざるを得なかった尾藤の焦りは、とても尋常ではなかったが……。

 しかし先のとおり、彼の前に広がる惨状は、それ以上に尋常ではなかった。


「尾藤くん、この超防郭(ぼうかく)魔法というのは、なぜ砲撃を通さないのかね!! 直接の物理攻撃が駄目ならば、ミサイルの空中爆発(エアバースト)ではどうなのかね!!」


「何度もご説明しました通り、敵勢艦隊の防郭は、あらゆるベクトルの衝突・干渉を相殺、または無効化します。そして恐らく、敵艦には強力な魔力炉が搭載されており、防郭を維持しているものと考えられます。兵器による通常手段の攻撃は無意味です」


「では、君らがやろうとしている、実体弾の魔力被覆攻撃も無意味ではないのかね!!」


「米国提供の戦闘記録では、対応に当たった米艦隊は、敵勢艦隊に対し、魔法攻撃は一切行っていません。そのため敵の超防郭(ぼうかく)魔法に対し、魔力被覆攻撃が有効である可能性が、十分に残っています。仮に有効性が認められれば、第二次大戦時のような戦闘艦同士の肉弾戦は避けられます。どの道イージス艦の装甲では、砲戦にはとても耐えられませんから、魔力被覆攻撃が有効であることを願いたいですが――」


「しかし君らは、防郭魔法とやらが物理攻撃を通さないといったではないか!! どうなっているんだ、はやく説明しないか!!」


「それを突破するための、実体弾の魔力被覆なのです。いかに防郭が強力で物理干渉を無効化しようと、防郭に対応した精密な魔力調律を行った被覆であれば、あの防御を擦り抜けられるかもしれませんし、そうでなくとも防郭の耐久度を大きく削ることが期待出来ます」


「耐久度というものがあるのならば、小細工など用いず、物量にものを言わせた飽和攻撃を仕掛ければ良かろう!! それで削りきれるはずだ!!」


「その決断の結果、米国は敗走しています。既に何度かご説明しましたが、あの船団は自前の魔力炉で防郭魔法を形成・維持し、物理干渉に対して絶対的とも言える遮断能力を有しているのです」


「それでも何かしら有効な攻撃手段があるはずだ!! ここは試製電磁投射砲(EML)を持たせるべきだったか……!!」


(いらんだろそれ!! そのEMLで自分の頭を吹っ飛ばせ!! まったくこいらときたら、敵勢艦隊の情報に魔法のワードが踊る度に、飢えたドクターフィッシュみたいに群がってきて!! 国防のお株を奪われたっていうのにこのザマか、情けない!!)


 まるで軟禁されているかの如く、本部と隣接する会議室から、この数時間足を踏み出すことが出来ていない尾藤の苛立ちは、太いミミズのような青筋となって表面化しつつあった。

 しかしそれでも海自のお歴々は、魔法と注釈のある単語を目にするや、まるでアレルギーかヒステリックでも起こしたように、尾藤を捕まえて離さなかった。

 その光景は禅問答というよりは、もはや時代に乗り遅れた哀れな年寄りが、家電屋の店員を捕獲して延々と意味不明な質問を浴びせ続ける、営業妨害に等しかった。


(くそ……、こっちは厚木の件も気にしてるっていうのに、脳みそがスポンジ化した官僚(お飾り)と遊んでる場合じゃないのに……)


 そんな折り、会議室のドアがノックされた。

 尾藤は目線だけを扉に送った。他の面々は、取り込み中だ!、とでも言いたげにそっちを睨み見た。

 注目を集め、会議室に入ってきたのは、若々しい海自の士官だった。

 士官は、訝しい目を一身に浴びても何ら臆することなく、毅然として告げた。


「尾藤さん、国魔連の方からお呼び出しです。至急とのことでしたので、電話は繋いであります」


「分かりました。今すぐ伺います――――というわけです、一旦離席させていただきます。後のことは、私よりも有能なこちらの上級幹部三名にお任せください、それではっ」


 尾藤は折り目正しく周囲に会釈すると、仲間の上級幹部には腹黒い笑顔を見せた。

 将校が「どうぞこちらへ」と退室を促すと、尾藤はくるりとテーブルに背を向け、有無を言わさず退室した。

 見送った国魔連の面々は、頭をボリボリとかきながら項垂れていた。

 そして、会議室の扉が閉まると同時に、老骨ならぬポンコツからの、手に負えない無間の問答が始まった。



 一方、会議室を抜け出せた尾藤は、それが一時の至福とはいえど、やっと得られた開放感から大きな溜め息を吐いた。

 肺の中に溜め込んだ重苦しいなにかが、一気に絞り出されて、不思議と身が軽くなった気がした。

 今度は歩きながら胸を軽く張って背を伸ばした。同じ姿勢でいたため、硬直していた背筋がぎゅーっと縮み上がり、血が抜けて行くみたいな感覚がした。その緊張をほぐすと、今度は反対に血が一気に巡って、頭がクラッとした。


「尾藤さん、お疲れでしょう。上に限らず、ここの連中は例外なく魔法に疎いですから」


 先導して歩く士官は、数歩後ろを歩く尾藤に柔らかな視線を送った。

 尾藤は、苦笑いを浮かべながら、人差し指でこめかみを掻いた。


「ここまでとは、正直思ってませんでした……。もう少し魔法に明るいかと……」


「ははは、そうですよね。完全に時代に逆行してますからね、自分たちは。いくら日本が魔法大国と言っても、我々自衛隊は、魔法後進国の米国とまるっきり同じですよ。それを改めようともしない。おっと、失言でした。尾藤さんは話しやすい雰囲気があるから、つい口が滑ってしまいましたね」


「大丈夫ですよ。会議室で耳をだいぶやられていたみたいで、今のは何も聞こえていませんでした」


「なら良かったです。けど、尾藤さんが話しやすいのは本当です。海自(うち)上層部(年寄り)が、挙って群がるのも分かります」


「それも聞こえなかったことにしていいですか」


「構いませんが、話は聞いてあげてくださいね。あれでも尾藤さんを気に入っているんですよ、国魔連はともかくですが」


「私よりも国魔連の方を気に入って貰えませんかね……」


 そうこう話している内に、士官と尾藤は、別館の事務所にやってきていた。

 彼らの姿を目に入れた事務員が、受話器を肩に抱きながら、スクッと椅子から立ち上がり、空いている方の手を振った。


「尾藤さん、あそこです。秘匿回線ではないので、会話には注意してください。米国に傍受されている恐れがありますから」


「魔法で言語を暗号変換するので大丈夫です。ちなみに今話している私の言葉も、あなた以外には、理解出来る言葉として聞こえていません」


「はあ……そんなことも出来るんですね……。自衛隊(うち)にも欲しいなあ……」


 士官は簡単の吐息を漏らした。

 尾藤は、こういう興味関心を表に出す人間が上に立ってくれていれたらなあ、と心底思った。


「では尾藤さん、私はこれで失礼します。また今度お話を聞かせてください」


「あの場から抜け出す口実を頂ければ、いつでもお相手しますよ」


 そう言って尾藤は、自分の名刺を略式ながら手渡した。

 士官は大事な証拠物件のように、丁寧に胸ポケットの中にそれを仕舞った。


「ああ。そうだ尾藤さん、お戻りの際は一旦屋上に行くといいですよ」


「屋上に何かあるんですか?」


「何もありませんし、誰も居ません――――」


「――――いいことを聞きました。是非立ち寄らせて頂きたいと思います」


 それを聞いた士官は、会釈し事務室から去って行った。

 見送った尾藤は、電話を担いで「まだですか?」と睨んでいる事務員のところまで、小足で駆け寄った。

 受け取った受話器に向かって「もしもし」と応答すると、直ぐに野太い声で返事がきた。


『■■■』


 発せられた言葉は魔法で暗号化されていた。

 変換すると、その意味は「尾藤か」だった。

 それに合わせ、尾藤も言語を暗号化した。


国魔連(ウチ)への定時連絡先は、基地の固定電話(こっち)じゃあないだろ(みなと)。海上から魔法で回線に割り込むなんて、いったい何があった」


『少し状況が変わった。それをお前に、先に伝えておこうと思ってな』


「いつも振り回すお前が、こっちの気遣いとはね……。いや、それよりも久瀬の娘さんは本当に大丈夫なのか」


『ああ。能力制限術式(オー・フィフティ)の解除後も魔力漏出は起こしてはいない。様態は安定している』


「そういう意味じゃないんだが、まあいい……。けど、くれぐれもあの子にだけは危険が及ばないようにしてくれよ。でないと、今度こそあの少年にどうされるかわからん」


『燎祐くんか。確かに、まゆりちゃんに何かあったら、今度こそ息の根を止められるだろうな、俺もお前も』


「経費でAEDと呼吸器買っとくか……。で、状況が変わったっていうのは、どういうことだ?」


『護衛艦にタクティカル・トマホークが積み込まれていた。運用も可能だ。どうやら米軍からの無料供給(サーブ)らしい。よって第一次作戦では、九○式ではなくこれを使う』


「それなら有効射程が三千キロ程度に伸びるな。じゃあ作戦の決行を早めるんだな?」


『理解が早いな。早ければ明日、遅くとも明後日中には第一次作戦を始められる。正式な連絡は、後ほど艦長から合同対策本部(そっち)に飛ぶだろう』


「マジか……。というか(みなと)、あの子には本当に無理をさせるなよ。規格外の世界最高位って言ったって、まだ子供なんだからな」


『だから私が同行している、それでは不満か?』


「不満だね。今すぐお前にこっちの仕事を手伝わせてやりたいよ。ポストならいつでも作ってやるからな」


『生憎私は非現業に向く気質ではない、大人しく現場に置いておけ。では、またな』


「あ、こらっ――――」


 尾藤が文句を言い返そうとしたとき、電話は一方的に終話した。

 そのやるせなさを溜め息として吐き出そうとしたとき、言語の魔法暗号化で、いったい何を喋っているのか理解出来なかった事務員が、不思議そうな目で尾藤を見ていたので、これはどうにも……と思った尾藤は、士官からのアドバイスに従って、建屋の屋上に向かうことにした。



 屋上に通じる階段を上がり、重い鉄扉を開くと、風に乗った潮の匂いが鼻の奥を叩いた。

 肌に感じる風は、塩っ気のせいか、粘質があるように感じたが、それでも窮屈で退屈な部屋に閉じ込められているより、ずっとマシだった。

 尾藤は、今頃上級幹部の三人は、会議室で質問の滅多刺しに遭っているのかなー、などと暢気(のんき)な考えを浮かべながら、胸いっぱいに屋上から見える景色を愉しんだ。

 していると、胸ポケットに閉まっていた携帯が鳴った。

 ディスプレイの通知を見ると、連絡を寄越してきたのは、国魔連の本部だった。

 尾藤は、訝しく思いながら電話に出ると、向こうは名乗るよりも先に用件を伝えてきた。


『魔女です!! 真朱(まそお)の魔女が、また現れました!!』


「!?」


 尾藤は目眩がしそうな程の動揺に、一瞬、手の中の携帯を取り落としそうになった。

 そして尾藤が口を開くよりも先に、二の句が告げられた。


『襲撃を受けたのは厚木基地です!!』


 瞬間、尾藤は風よりも早く、屋上を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ