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俺は魔法が使えない!!  作者: カリン・トウ
第一章 A Study in Emerald
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第一章12  舟山部とノロイ ①

**1**


 入学から早二週間が経った。

 今では、ようやく全部の授業が出そろって、戦闘だけでなく、着々と学生らしい側面も出てきた。

 部活説明会や、クラス委員の選出なんかも少し前に終わって、学内ではもう新入生というよりも一年生として見られている感じがしている。


 そういえば、入学して直ぐに開催された、転校云々の例のガイダンスは、入学式並みの大盛況だったらしい。

 しかし結局、その日を跨いでも、舟山が予想していたようなことにはならなかった。

 つまり脱落者は出なかったのだ。


 それどころか、ガイダンスの参加者はみな人生に大きな光を見つけたように、毎日活き活きと登校してきている。

 ただ時折、何かを思い出したように発狂することはあるが、白衣の人たちが「サイチョウセイ」というのを施すと、すっかり大人しくなる。

 そんなわけで東烽(とうほう)での学校生活は概ね順調である。



 今のところは――――――


「――――ハハハハ! と、まあ先生の収入は、授業や監督学級のほかでは部活動が査定対象になっておりましてね、受け持っている生徒数や部員数のほかには、参加している生徒の能力レベルというのが大事になってくるんですよ。そこにきて帰宅部の君たちはうってつけですね! ですので、これから君たちには私が顧問を務める部活動に入ってもらいます!」

 

 と、放課後の教室に清澄な声を響かせる舟山。

 『ですので』もクソなく、放課後に教室に残された意味をようやく知らされ、ポカンとする俺、まゆり、タクラマ。

 しかしそんな空気を無視する男が舟山昇(ふなやまのぼる)という教師である。

 その目的は部活の勧誘ではなく強制加入。


「ではこれが入部届です。どーぞどーぞ。ささっご記入ください!」


 すました顔で上機嫌に語る舟山が、問答無用で入部届を並べてきた。

 見れば記入すべきところの大半が記入済みになっており、手を加える場所といえば「印」の所だけだった。手口がヤクザだ。


「入部すると地味に内申点が上がりますよ! 特に担任だったり担当教科のある教員のなんかは覿面(てきめん)です! おおっと、いま入部すると部室にプリンターを付けちゃいますよ! しかも設置料無料で!」


「必死だな教師」


 俺は舟山に籠手の借りがあるしと、軽い気持ちでサインして出した。

 もちろん入部すると言っても、俺には第二の魔法が大事なので、常にそっちを優先するつもりだ。


「あら、意外とスッパと決めちゃった」

「ンだなァ」


 まゆりとタクラマは顔を見合わせていたが、俺が出したのを見て提出をした。

 俺たち三人から届け出を受け取った舟山は、入部届け(それ)を、現在稼働中のコピー機に転移させたらしく、取ったコピーを控えとして俺たちに手渡した。

 この人の転移はフリーダムというか、何でもアリ過ぎてインチキと言っていい次元だ。


「ハハハハ、これで皆さん、晴れて我が舟山部の部員ですね!」


「なんだよ舟山部って!? なにする部活だよ?!」

「ひでぇネーミングだゼ……」

「あは……は……」


 古今、名は体を表すと言うが、部活動の名が『舟山』以外の何も示していない。

 それどころか、名指されている舟山(もの)がコイツである。その上、名称からして活動内容が不明を極めている。

 どう考えてもダメだろう。


 俺達は即刻部名を改めるように説得を試みたが、しかしやっぱり話が通じないのが舟山昇(ふなやまのぼる)という教師だ。まるで一顧だにしない。


「では舟山部のみなさん! 早速私たちの部室へ転移しますよー! それでは、ドン! はい部室に着きました-!」


「手品かよ!」


 舟山の転移は自覚できないほど早く、そして鮮やかに完了した。

 まゆりが芸術的というのも納得がいくレベルだった。


 そんなわけで舟山部員(おれたち)は転移で強引に部室へと連れ出された。

 到着した部室は、造りこそ教室と同じだったが、中はとんでもなく殺風景だった。

 なんたって窓には支給品のカーテンだって掛かっていない。机も椅子も教卓も、黒板すらもなく、部屋以外の機能がなにもない。

 あるのは中古感丸出しの、卓上型の業務用プリンターが一台だけ。それも部室のど真ん中にでんと鎮座している。

 確かに「プリンターを付ける」とは言っていたが、これを俺たちにどうしろというのだろうか……。


「ンだよ、このプリンターめちゃ黄ばんでんじゃねえかァ、古臭ぇなあ。使えンのかよこれ?」

「よく分からんけどコンセント刺したら動くんだろこういうのって」


「あ、あのぅ……それが、肝心の電源が部室内のどこにもないんですけど……」


「「は?」」


 言われて部室をぐるりと見渡してみたら、本当になかった。


「使えるとか、使えないとか以前の問題じゃね?」

「ンだな。しかもコレ、PCないと使えねーヤツよ」


「マジでゴミだな。よし、片付けるか」

「ン?」


 俺はおもむろにプリンターを持ち上げた。

 舟山は未だ一人で意味不明な弁舌を架空の人に向けて垂れている。

 タクラマに目で合図して、窓を目一杯に開けてもらった。

 さわやかな風が部室の中に流れ込んできた。

 新鮮な空気を胸一杯に味わった俺は、


「ふぅ…………と見せかけて、どっこいしょおおおおお!!」


 笑顔満開で窓からプリンターを投げ捨てた。

 落下の勢いで、面白いくらいの早さでプリンターが小さくなっていく。

 

「ハハハハ、どうです舟山部の皆さん! それいいプリンターでしょうってあああああああああああああ!! なぜ不法投棄してるんですかあーーーーッ!!?」


 一変して慌てた舟山は、窓から身を乗り出した。

 そして瞬時に、自分の手の中へプリンターを転移させ、両手にキャッチ。ふぅと一息ついた。

 それからプリンターを別のところへと転移させて、じとっとした額を拭った。


「ふぅ……間一髪でしたね……」


「「チッ、あと少しだったのに」」


 ほぼ同時に舌打ちしてハモった。

 この二週間でタクラマとのコンビネーションは随分と磨きがかかってきていた。


 しかしこれで部室に本当にモノが無くなった。

 こんな無駄にだだっ広いだけの部屋を与えられても、この人数でなにをすればいいのやら。茣蓙(ござ)でも敷けばいいのか?

 と思っていたら、まゆりが生成魔法を使って、あれやこれやとレトロ風味の家具の生産をしていた。

 舟山に限らず、この子も割と何でもアリだった。


「テーブルよし、ソファーよし、インテリアよしっ。あとはアレを探すだけね。えっと、(りょう)たちは、これ設置しててくれる?」


「いいけど、どの辺に?」

「配置に合わせるから適当でいいです」


「りょーかい、お任せあれっ」


 ご用命あって、殺風景な室内には明らかにミスマッチを引き起こしているそれらを、男手で順次配置。

 その間、まゆりは一人、壁にペタペタと手を付きながら何かを探していた。


「ん~ふ~ふ~ふ~ん、あっ、ありましたぁ!」


 まゆりは部室の隅っこで、隠し扉ならぬ隠しパネルを見つけた。

 開くと、中にはクリスタル製のドアノブのようなものが一つ突っ込まれていた。

 それに気がついたタクラマが、作業の手を止めて駆け寄った。


「おおっ、それ『(うち)のスゴいやつ』じゃねえかまゆっち! 実物見ンの初めてだぜ」


「ハハハハハ流石は久瀬さん。ヒントなしに『家のスゴいやつ』を見つけましたか」


 舟山も隣に転移して『家のスゴいやつ』の発見を褒め称えた。


 俺も正式名称は知らないが、まゆりが見つけたのは通称『家のスゴいやつ』と呼ばれているノブ状の何か。

 これは建築物を構成する魔生構材の管理を司っており、本来は魔法建築士にしかわからない場所に隠されている。

 今回部室で見つかったのは子機に当たるものだそうで、この部屋の内装を変更する権限を持っていた。


 使い方は超簡単。イメージしながら魔力を流すだけ。

 イメージが雑でも『家のスゴいやつ』が完璧なくらい補完してくれるので、ド素人でも割とどうにでもなってしまう。流石は『スゴいやつ』正式名称は知らないがスゴい。


「んふふ、では今から部室をリノベーションしちゃいます。期待しててね」


 まゆりは『家のスゴいやつ』を握って魔力を流し始めた。

 すると一分ほどで、殺風景だった部室が昭和レトロなカフェにチェンジした。床も壁も天井も、果てはカーテンから照明まで挙ってだ。

 先ほど設置した家具が打って変わってよく映えた。


「はぁ~~、久瀬さんすごいですよ~。これで舟山部も安泰ですねえー、アッハハハハ」


 感心したように拍手を打った舟山は、近場にあった魔法製の革張りのソファに腰掛けて足を組んだ。

 しかしそれが気に入ったらしく、手触りや座り心地を愉しみだした。

 タクラマもそれに乗じる。


「ほほぅ、すげーのは破壊魔法だけじゃねえのなァ」


「あの、回復魔法も得意なんですけど……」


 まゆりのこうした魔法生成物の質感は、腕輪に付けた白い花弁と同じく本物と遜色ない。

 とにかく物質の再現度がとんでもなく高く、しかも耐久度まで高いので、非常に重宝する。

 ある意味完璧な複製品(デッドコピー)をも凌駕している。


 しかし何でもオリジナル通りに作り出せるわけではないらしい。

 例えば機械仕掛けのものは、動力が自分の魔力に限定され、他人の魔力を補給したところで動きもしないそうだ。


 それと関連するところで、以前「生き物は作れるのか?」と、まゆりに聞いたことがあった。

 答えはノーだった。

 試すとどうなるのかは結局教えてくれなかったが、できない理由は説明してくれた。


 曰わく、命に関する知識や技術は、到達可能な限界があらかじめ用意されていて、理論上その先があると考えられていても、世界の禁忌(ルール)によって辿り着けないようになっているらしい。


 例えるなら、あるのは分かっているのに中を覗き見ることは決してできない、もどかしさでいっぱいの『青年誌の袋とじ』のようなものか。

 この破れぬボーダーラインは、越境不能であることに因んで到達限界境界線(リミット・ホライゾン)と呼ばれているそうだ。


 仮にこのボーダーが破綻してしまうと、宇宙規模で大変なことが起きるから、そうならないように検閲している不貞不貞しいのがいるとかいないとか、それでも回避できる可能性が云々………………。

 そういう感じの補足があった気がする。たぶん……。


 と、俺がそんなことを回想していたら、隣に来たまゆりに、ついついと袖を引かれた。


「いま紅茶を淹れたんですけどっ、黄昏れちゃってどうしたの(りょう)?」


「前に聞いた話を思い出してたんだ。ほらあれだよ、隠蔽好きの貪官汚吏(たんかんおり)が全部無かったことにするって話さ、そいつをやり過ごす全裸だか露出狂だかの特異点がいるだのいないだのっていう」


「してないですけどそんな話……」


 ふんわりした雰囲気が今だけはちょっと冷たい……。

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