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俺は魔法が使えない!!  作者: カリン・トウ
第一章 A Study in Emerald
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東烽EXTRA  スクールライフ A

 入学から一週間と少しが経過した。

 この学校特有の雰囲気も、ある程度は掴んだつもりだ。


 そして本日。

 昼休みの開始と同時、俺たち三人は教室を飛び出して学生食堂へ向かった。

 急ぐ理由は一つ、席取りだ。学生食堂は戦闘禁止なのである。

 当然、席は先着順になるため、到着するまでが一番戦闘に巻き込まれやすい。


 それを更に加速させる要因が、学生食堂の店構えにある。

 はっきり言ってファミレスだ。それと同じ内装をしている。

 ドコを見渡したところで、高さが微妙に合わない白の長机もなければ、足のキャップが取れた不揃いな丸椅子もない。

 キチッとしたテーブル席はどれも仕切りがあって、喫茶店ほどではないがカウンター席も備えている。こういった内装のため座席数が少ない。


 そんなわけで、学食を目指し我先にと走って行く背中に、魔法の砲火が次々と吸い込まれていき、学食まで続く人間の道を築くのである。


「は~あァ、毎度ご苦労なこったなァ」


 あくび交じりに軽口を叩きながら小走りするタクラマ。

 人間の百倍強いと恐れられる亜人だけあって、こいつを先頭にすると何一つ妨害魔法が飛んで来ない。最も戦闘が激化する学食前(最前線)ですら、ほぼ素通り。そして一番乗り。


「カカカ、今日もご来店一号様だゼ!! 俺様にウルトラ感謝しなッ!!」

「おう、するする。スゲー感謝だ、あと水よろしく。まゆりは席な。俺は注文行ってくるわ」

「んじゃ俺様Aセットな」

「私は(りょう)と同じのがいいです」


 俺は「はいよー」と返事をしながら券売機へ向かった。

 歩きながら「さーて何にするかなー」と口にしつつも、券売機に到着するなり、特になにも考えず、学食一押しのハンバーグが付いてるAセットを三枚購入。

 注文窓口へ持って行き、番号札を貰った。

 そこから辺りを見回すと、席から手を振っているまゆりが見えた。

 場所はいつもの席だった。


「まゆりはあのテーブル席好きだなあ」


 一種の安心感を覚えつつ、手の中で番号札を遊ばせながらテーブルへ戻ると、まゆりが「ねえねえっ」と来たので、注文のことかなと思っていたら、


(りょう)は部活に入るの?」


 可愛い口から飛び出したのは予想とは全く違う話だった。

 面食らって数拍分の間が開いた。


「今日の放課後、体育館で部活動の実演見学会があるの、もしかして忘れてた?」

「あ~っ、あったなそんなの。その辺りは、まだ何ともかなあ~」


 魔法のために進学した手前、入るとすれば第二の魔法に関する部活だが、そんな部活が果たしてあるのかは疑問だった。


「部活の(ナシ)なら、俺様は帰宅部に入るゼ」


 見上げると、人数分のコップをトレーに乗っけたタクラマが戻ってきていた。


「それ部活じゃねーし」

「カカカ、まーな」


 タクラマは慣れた手つきでコップを配ると、乗っけてきたトレーを無作法に宙へ放った。

 トレーは彼の手を離れた途端に、ブワッと粒子状に分解して大気の中に消えた。


「お、例の新製品試したのか」

「面白そーだったからよォ、けどまァ、実用性は今ひとつってトコだなァ」


 今のは魔生構材(ましょうこうざい)の応用品で、ファーストフードやファミレスでの活躍が期待されている使い捨ての魔法技術なんだそうだ。まだ研究段階らしく、企業が稼働データ欲しさに無償提供していったものらしい。

 こういった提供は珍しくないことで、実は校内のいたるところに日本の最先端技術がゴロゴロと転がっていたりする。

 それを自由に体験できるだけでも、東烽(とうほう)に進学する価値はある。

 尤も、戦闘的な学校環境に適応できるのであればだが。


「そーいや、まゆっちは部活()ーんのかァ?」

「考えてはいるんですけど、タクラマは?」

「俺様はパスだゼ。どーせ亜人が入れる部活なンざねーからよォ」


 二人の空気が俺に向けられた。


「先ずは見学してからだなあ。今は考える材料がなにもないわけだし」

「そーけえ、ンじゃ俺様は一人で()ーるわ。おめーさんらはお幸せに」


 釣れないなぁ、と冗談半分で返しながら、部活に興味があるらしいまゆりに話を振った。


「俺は魔法関係の部活があれば見たい程度だけど、まゆりの方は?」

「ん~~、気になってるのはあるんですけど」

「なんだよ、もう探してたのか?」

「うん。先生から見学会のコピーを朝に貰って、授業中に見てたの」


 まゆりは、綺麗に四折りにしたコピーを制服の胸ポケットから取り出して、俺の手に渡した。

 サッと広げて目を落とすと、コピーには既に丸印が付けてあった。

 これが興味を引いた部活かなと思って、どれどれと目を向けた途端『破壊』という文字が踊っているのが見えて、思いっきり目が滑った。

 呼気を整え、改めて目を走らせるも、気づいた時には読み飛ばしていた。

 そんな折り、まゆりが横から覗き込んで、丸印をちょこんと指指した。


「えっと、これなんですけど」


 期待の眼差しを向けてくるまゆり。

 その先に待っていたのは、


 【破壊魔法(デストロイ)研究部】

 活動内容……破壊魔法(デストロイ)を研究しがてらぶっ放します。一緒に破壊魔法使い(デストロイヤー)を目指しませんか。※部内で破壊コンテストもやっています


「ね、とても面白そうなの。燎もいいと思うでしょ?」


「ううん、駄目だと思う」


 俺の即答に、ショックで灰色になるまゆり。

 その様子でどんな部活か気になったらしく、対面のタクラマが、俺の手からコピーを拾い上げた。

 しかし、ものの数秒で返却された。


「おいタクラマ、せめてコメントしてくれよ」

「予想通り過ぎて驚きのノーコメントだゼ」


 その反応に異議ありとばかりに、灰色だったまゆりは急に色彩を取り戻す。


「じゃ、じゃあこの同好会なんてどう?! 絶対面白いと思うんですけど!?」


 まゆりは対抗するように次の候補を指さした。

 俺とタクラマはコピーの上に胡乱(うろん)げな目を向ける。


 【無音歩行(サイレント)同好会】

 活動内容……本物の無音歩行を学ぶべく、忍者の教官の下で本格的な訓練を行っています。先ずは簡単なストーキングから教えます。極めれば密着してもバレません。


 顔を起こすとタクラマと目が合った。そのまま二人でまゆりの方を向く。


「忍者に忍び足を習えるの!」

「習ってどうする……」

「お母さんに知られずに夜に家を抜け出せるかなって」


 思いつくスケールが等身大で可愛い。


「いや……しかし、それだけのために入部は流石に思い切りが良すぎるだろ……」

「まァでもよォ、まゆっち一人で入ンなら、何選ぶのも自由なンじゃねーの」


 至極真っ当かつ無難なコメントだった。


「そうだよな、まゆり一人で入るなら…………ッ!!」

「え……一人……!?」


 俺とまゆりがビシッと石のように固まる。

 タクラマは俺たちを交互に見回す。


「ど、どうしたンでえ?」


「まゆり本当に一人でコレ入るのか!?」

「寧ろ(りょう)は入らないの?!」


「こんな頭のネジが行方不明の団体なんぞ入りたくないわっ!!」

「なんでっ!? 私入りたいもん!! これ入るもん!! 飛んだ頭のネジはセロテープで代用してるんだもん!!」


 これでもかと食い下がるまゆり。

 その決意に瞳が揺れる。

 お互いの意地を張った睨み合いが数秒続く。


「あーいいよ!! そんなに言うなら勝手に入ったらいいさ!! だけどな、まゆりが入るなってなら俺も入る!! 嫌だけど入部する!! 嫌だけど入部するッ!! 嫌だけどッッ!!」

「んん~~~!!! そんなに嫌なら入部しなくていいですっ!! 燎が嫌なら私も入らないですっ!! 入れって言われても絶対に入らないです!!」


「よぉーし分かった!! じゃあ入部しない!! 部活見学もしない!! もうこんなコピー要るかぁぁ!! デストロォォォィ!!!」


 ビリビリィィィ――――


 癇癪を起こしたように部活説明会のコピーを真っ二つに引き裂き、両の手でこれでもかとくしゃくしゃに圧縮して、雪玉のように放り投げた。

 そして俺は、隣のまゆりと視線を重ね、肩に優しく手を回す。


「今日は手を繋いで帰ろうな!」

「うん!」


「何なのおめーら……」


 呆れた声が真正面から向けられた。

 そこへ割って入るように、二つの声が重なった。



『番号札一番、Aセット三つ、受け取り口までどうぞ』


「一体どいつだっ!! 俺にゴミ投げつけて来やがったのは!! この辺のテーブルなのは分かってんだぞ!!」


 ふと後者に目を向けると、金色モヒカン頭の絵に描いたような不良が一人、怒り肩でこっちの方へズンズンと向かってきていた。

 その手にはさっき投げたゴミ玉が、さもキャッチしたホームランボールの如く握りしめられている。

 モヒカンは近くのテーブルの前に立ち止まって、周囲を睨み散らす。目を向けられた生徒はみな余所余所しく顔を背けて、居づらそうにしている。


「おい誰だ俺にコレ投げたヤツは!!」

「俺だっ!!」


「お、お前かっ!?」

「そうだ俺だ!!」


「お、おぅそうか……」


 バンと名乗り出たら逆に引かれた。

 その最中、番号札を持ったタクラマが「放っといて取り行こうゼ」と、まゆりを連れて席を離れた。


「あいつらもお前の仲間だな!! 俺は亜人だろうが何だろうが容赦しねえぞ!!」

「よし、表に出ろ」

「そいつは俺のセリフだこの野郎!! けど丁度良いぜ、てめをノしてこの席をかっ(さら)ってやるよ!!」


 威勢を強めたモヒカンが、クワッと眉頭(びとう)をおっ立てて、シワを寄せた顔を獅子舞のようにフリフリしながら近づけてくる。

 その鬱陶しさに思わず半身を引くと、俺の胸元に真っ白な塊が山なりに放り込まれた。キャッチしてひっくり返すと、タクラマの頭だった。


「よォ、おめえ勝手に場所空けようとしてンじゃねーよ。席取られちまうだろーがァ」


 そう言うからには、席を抑えていてくれるつもりらしい。

 俺はテーブルのど真ん中にタクラマの頭部を設置。見事な防犯装置が出来上がった。


「そんじゃあ、ちょっくら行ってくるわ。メシは先食ってていいぞ」

「おう、おめえの分はスープのクルトンだけ残しておいてやるゼ。とっととボコされて来な」


 タクラマの声に見送られ、モヒカンと学食の扉を出た。





 学食を出ると、昼のモワッとした空気が顔を叩いたと同時、俺の手の中に金色の籠手が落ちてきた。

 学食内は徹底して戦闘禁止を貫くため、武装や補助魔導機を持ち込ませない特殊な結界、通称『学食結界』が張られている。学食に入ると一時没収され、出るとこのように返却される。

 俺たちは入り口付近を通り過ぎ、道が広くなっている辺りで向かい合った。


「よし、この辺で良いだろう。おいアンタ、覚悟は出来てんだろうな」

「それも俺のセリフだろーがコラアアアアアッッ!! もう許せねえ!! とっちめてやるぜええええ!!」


 モヒカンは、上から背中に手を突っ込み、勢いよく金属バットを引き抜いた。

 中段に構えられたバットには有刺鉄線が巻き付いており、攻撃力を増させるばかりか、安易な防御は命取りであると伝えてくる。そして何より、今どうやってそれ引き抜いたの?、という疑問を俺の奥深くに植え付けた。


 戦いの気配を察知して、まわりで(くつろ)いでいた生徒たちは渋々と場所を空け始め、やるなら勝手にどうぞといった具合に俺たちから距離を取った。


「行くぜええ!!! おっしゃああっ!!」


 モヒカンが、スイングの要領でバットを力一杯に溜め、一直線に突っ込んできた。

 俺も同時に前へ出て、一気に互いの間合いを閉じる。


「よっと、失礼」

「おおお!!?」


 攻撃の起こりである肩、そして首を同時に押さえ、モヒカンの挙動を強制停止に追い込む。

 モヒカンは身動きを封じられ、その場に立ったまま固まった。


「ぐ…………っ!! てめえ体術やってるのか!?」

「他に鍛えられるものが無かったんでな」


「けど……、これは体術にゃあねえだろう!!!」


 モヒカンがグググっと頭を強引に近づけてきた瞬間、なんと頭のモヒカンから火炎が放射された。

 咄嗟にモヒカン(本体)を突き飛ばし、バク転で後方に距離を取る。


「モヒカンから魔法だと……?!」


 俺の一驚に気をよくしたモヒカンは、得意げに鼻先を親指で弾いた。


「へへっ、驚いたか。俺は頭髪から魔法が出せる特異体質なんだぜ」


 それの何が凄いのか分からず、聞かされても、そうか、としか言い様がなかった。


「普通、魔法は体表からは出せねえ。補助魔導機がそうさせねえ。人体への影響ってヤツでなあ。けど俺は頭髪から出せる!! つまり威力が一段違うのさ!!」

「威力と関係あんのかそれ……」


「しかし強力過ぎるがゆえに、一日に三発しか使えない!! 俺の脳がフットーしちまうのさ!! ちなみに今もグツグツ茹だってやがるぜ!!」

「だいぶ影響出てるじゃねーか。いいのかそんな重大なネタバレをして……」


 俺の冷め切った言葉に、モヒカンはくっくっくと不敵に(わら)う。 


「なぜそれを教えたか分からないのか?」


「分からん」


 間髪入れず即答。

 モヒカンの(わら)いが凍った。


「えっ、あ、そ、そう? なんかこう、感じ的に、分かったりしない?」


「分からん」


 即行の全否定に、モヒカンのモヒカンがへにゃりと曲がった。

 その顔も、強烈な梅干しを食べた時みたいに苦悶に歪んでいる。


「あー……、もしかして、補助魔導機とモヒカン魔法とで、どっちから魔法が出るか惑わせちゃう的なこと?」


「――――!!」


 なんとか理解して口にしてみると、モヒカンのモヒカンがピンと立ち上がって、犬の尻尾みたいに左右に揺れた。

 これが俗に言うアホ毛というやつか。噂以上に可愛くないな。


「へへっ、そうそう、それよ!! そのとーりよ!! なんだ分かってるじゃねーか!!」

「でもお前、得物を振り回しながらそれが出来ると思うか? どっちか邪魔だろ? 片方捨てた方が良いぞ」


「――――!?」


 ハッとして目を丸くするモヒカン。頭上のモヒカンもピクンと仰け反った。

 どうやら自分の長所ばかりに目が行って、弱点に気づいてなかったらしい。


「だ、だったらお望み通り使い切ってやらあ!! くらえ、秘技【火炎頭髪波(モ・ヒート)】!!」


 直後、頭のモヒカンから勢いよく火炎が放射された。


 ボオオオオオオオッ――――


 しかし俺の立っているところまで届かない。

 二メートル程手前から俺の顔をチリチリと炙るだけで、だんだんと火勢を弱めていった。


「はぁはぁ…………どうだビビったか……」

「俺をビビらせてどうすんだ!? せめて当たる距離で撃てよ?!」


「今のはブラフだぜ……次は当たるのが出るぜ……っ!!」

「バラしてどうする!?」


 すると矢庭にモヒカンを構えた。


「今度こそくらえっ、超秘技【火炎頭髪撃遠波(モ・ヒート・ホッパー)】ァァァァ――――」


 モヒカンが発する力強い熱の波動に促され、俺は瞬時に身構えた。


――来る!!


 直感と同時、斜線を外し、側面からモヒカンに飛び込む。

 その時、突然モヒカンの膝がガクンと落ち、体が前にのめった。

 何事かと目を見張っている隙に、モヒカンはそのままズシャリと顔面から落ちた。

 俺は足の勢いを急速に緩めながら近づく。


「なにしてんだお前……」

「ァ……ァァ…………」


 モヒカンはビクンビクンと二度三度体を跳ねさせると、一転して動かなくなった。


「おーい、大丈夫かー?」

「………………」


 話しかけても応答がない。

 倒れたモヒカンはブクブクと泡を吹き始め、いよいよどうしたことかと思っていると、モヒカンと同類っぽい二人組の不良が、どこからともなく走ってきた。


「「もっさああああんっ!!」」


 見るとハンバーグみたいなリーゼント頭と、大仏みたいなパンチパーマ野郎だった。


「もっさぁぁぁん!! どうしてこんな姿にぃぃ!!!」

「パンチ、水だ、水もってこい!! もっさんのヤツ、脳がオーバーヒートしてやがる!!」

「リーゼントの兄貴ィィ!! もっさんの仇取って下さいよぉぉぉ!!」

「今は水だあッ! さっさとしねえかパンチィィッ!!」


 兄貴分にどやされて自販機の方へ走っていくパンチ。

 そのどさくさに紛れ、モヒカン達にくるりと背を向けた途端、待ちな、と声が掛かった。

 顔だけを向けると、モヒカンを介抱しているリーゼントが渋い顔でこっちを見ていた。


「まさか、もっさんを倒す一年坊がいるなんてな」

「いえ、その人、頭から火を吹いて勝手に倒れただけです」


 しかしリーゼントは聞く耳を持たず、『俺には分かってる』的な雰囲気を出しながら「謙遜しなくていいぜ」と、漢の笑いを浮かべた。


「その腕っ節を買って言うんだが、俺たちの部活にに入らないか?」

「ツッパリ頭髪部とか?」

「ははは、そういう特徴もあるけど違うぜ。俺たちはもっとイカした部やってんだ。破壊魔法(デストロイ)研究部って言うんだけどな。お前もどうだ?」


「すいません、俺部活アレルギーなんで」


 笑顔全開でお断りした。

 リーゼントからは、アレルギーが治ったら考えてみてくれとは言われたが、その名を聞いた以上、完治する見込みはないと思う。

 そして小うるさそうなパンチが戻る前に、俺は「じゃっ!」と小さく手を振って、足早に立ち去った。





 テーブルへ戻ると、爪楊枝で遊んでいるタクラマと、小さく切ったハンバーグを口に運んでいるまゆりがいた。


「あっ、(りょう)おかえり」

「たっだいまー。さっきのモヒカン頭、破壊魔法(デストロイ)研究部のヤツだってよ」

「そりゃまたスゲー偶然だったなァ」


「あれ、ところで俺の昼飯は?」


 その言葉が出ると、二人は不自然にそっぽを向いた。


「あの……メシは?」


「「………………」」


 二人を見回すが、全く目を合わせようとしない。


「おいおい、悪ふざけは良いから出してくれって、ほんと腹減ってんだよ~」

「さっきまでは、あったんですけど……」

「と言うと?」

「舟山だよ、おめえのメシ、転移で持って行っちまったンだ」


 予想外すぎる結末に俺は電撃に打たれたように固まった。

 嘘だろ、と二人の顔を見ると、伏し目がちに頷くばかり。


「まじかよ…………」


「まあ、つーわけでおめえのクルトンは取って置いたゼ、ほれ」


 と、タクラマが、テーブルの何もないところからスープを取り出した。

 思わず目を向けると、皿の中ではスープが揺れていて口を付けた形跡がない。

 今度はまゆりが指をパチンと鳴らした。

 すると俺のテーブルに手つかずのAセットが出現した。

 

「んふふ~、どっきりAセットおまちどおさまでした~っ」

「――――んなっ!?」


 二人は俺のAセットに幻術をかけて目を欺いていたのだ。

 そう思ったのもつかの間、ともすると、これさえも幻術なのではないかと疑いだしてしまった。何が本当か分からず、目の前のものに手が出ない。


「カカカ、今の燎祐(りょうすけ)の顔見たかまゆっち!! こいつ偽モンだって疑ってるゼ!!」


 顎を目一杯に開いて笑い転げるタクラマ。


「ね、(りょう)って幻術にすっごい弱いでしょ。ほんとすぐ騙されるんだから。でも安心して、それは本物よ」


 悪戯っぽくウインクするまゆり。

 カーッと顔が熱くなって、体の芯からぷるぷると震えが伝ってきた。


「こ、この嘘つきどもめーーーー!!」


「んふふ~、冷めないうちにどーぞっ」

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