7.俺っちの出会い!
「ほんっっっとうにすいませんでした!!」
目の前には繰り返し頭を下げる受付嬢の姿。
僕に欲求をぶつけること約十分、やっとこさ正気に戻った彼女はずっとこの調子だ。
「あの、僕は大丈夫ですので……」
悪いのは僕の方ですし、とは言えないよなー。
本当に申し訳ないことをしてしまった。
もし僕が職場で取り乱したりしたら、恥ずかしくて次の日から出勤できないよ。
「うぅ、ぐすん……何であんなことしちゃったんだろう」
茶色い瞳に涙を蓄える姿は申し訳ないけど、少し可愛らしい。
「そこまで気に病まないでください。何かあったらそのー……僕で良ければ相談とかのりますので」
僕にできる罪滅ぼしといえば、これぐらいしかない。
にしてもこの能力辛いな。
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拝啓、イシュタル様。
人の目を見れないってなかなかに大変ですね。
今更ながらに実感してます。
というか、『話は人の目を見て聞け!』って言われたらどうすればいいんでしょうか……
お返事待ってます。
P.S.
イシュタル様の事が気になって夜も眠れません。
責任取ってください。
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「お優しいんですね………そう言えばギルド登録しますか?」
やっと落ち着いたのか、目尻の涙を拭うと思い出したように。
「あーと、じゃあよろしくお願いします」
情報収集のために来たけど、どちらにしろ登録するだろうしちょうどいいか。
「はい。それではこちらに必要事項をご記入ください」
さっきまでの動揺はどこへやら、手際よく資料とペンを差し出す。
資料へと丁寧に目を通し、情報を書き入れていった。
「書き終わりました」
「ありがとうございます。ええと……エスタ・アルバレスさん、国営ギルド登録は初めてで魔法ギルドの登録経験もなし。守護霊は上級土属性魔霊。上級なのに魔法ギルドに入らなかったんですか?」
資料に目を通しながらチラチラとこちらを見てくる。
僕としては目を合わせないように、と気が気ではない。
「は、はい。農業が好きだったもので民営農業ギルドの方で細々と」
「そうなんですか。そういう方もいるんですね。上級守護霊なんて召喚した日には、競うように都に出てきてもいいものですが」
「変わってるってよく言われてました」
この御時世、子供の頃から農家を目指す子なんて滅多にいない。
小さい頃は他の子供に馬鹿にされたものだ。
「そうなんですね……登録完了しましたのでこちらのタグをお受け取りください」
くすりと微笑むと、チェーンに繋がれた丸くて白いタグを渡してきた。
「これって民営ギルドと同じようなものですか?」
民営ギルドでもこのようなタグは配られる。
色はランクを表し、形はギルドの種類を表す。
農業ギルドでは三角形のタグを使っていた。
「はい、そうです。ランクの基準は民営も国営も共通ですので、タグのシステムは同じと思っていただいて構いません」
「分かりました……あの、ひとつ聞きたいことがあるんですが」
「何でしょうか?」
きょとんとした表情で首を傾げる。
何処か小動物っぽい仕草だ。
「変な質問なんですが、今の世界で英雄になれそうな功績って何がありますかね?」
駆け出しの魔道士が聞くことじゃないんだよなぁ。
自分で言ってて恥ずかしい……
「あら、すごい質問ですねっ……そうですねー、ぱっと思いつくのはラビリンスの攻略、魔王の討伐、ラドロンの解体ぐらいですかね」
指を顎に添える上品な仕草と共に、聞きたいことをすんなりと答えてくれた。
「あれ、魔王って随分前に討伐されたんじゃ…あとラドロンって何です??」
「確かに三十年ほど前、魔王が討伐されてから魔族も大人しくなっていました。ですが六年前に新魔王が誕生したんです。魔王誕生を皮切りに魔界も勢いを増し、再び脅威となり始めました……次のラドロンというのは、ここ二、三年で急成長した犯罪組織です。強力な守護霊による犯罪は、強盗から殺人まで多岐にわたっているんですが、その全貌は未だはっきりとはしていません。現在、騎士団も手をこまねいている状態です」
ぺらぺらと流れるような舌運び。
「はあ、そんなに色々とあるんですね」
「エスタさんって結構地方の方なんですか?」
「はい、そこそこ田舎ですね。それに僕ってそういうことに疎い方なんで。あはは」
田舎では土にしか興味がなかったからなぁ。
「そうだったんですね。何か困ったことがあれば気軽に聞きに来てくださいね」
「色々とありがとうございます。あの、お名前をきいてもいいですか?」
「あっ、私としたことが忘れてましたね。スターシャです。よろしくお願いします」
上品な挨拶に微笑みを添えて。
そこら辺の店では味わえないほどの美味。
あ、変な意味とかないです。
「こちらこそよろしくお願いしますね。スターシャさん」
負けじと渾身の微笑みを返す。
もちろん、目は見ないように。
さてと、ギルド登録も済んだし、情報も少しもらえた。
ファゼンダをもう少し見て回ろうかな。
そう思い立ち出口へと向かうと
「あの、少しいいかな?」
後ろから声をかけられた。
「はいっ? 何ですか?」
振り向くと、僕より少し背の高い男がローブを羽織って立っている。
黒髪黒目の男は爽やか風のイケメンだ。
目鼻立ちがはっきりとしていて、髪も眉にかかるほどに整えられていた。
そして目を引くのが黒髪から生える三角の耳。
どうやら獣霊主のようだ。
「ええと、男であってるかな?」
少し自信なさげに笑うと、ひょっこりと笑窪が現れた。
「はい、男ですよ」
やっぱりそこで悩むんだ……正直、声以外女の子っぽいってのは自分でも思うよ。
田舎でも何度となく間違えられてきたけど、都でもその生活は変わらなそう。
虚しさに打ちひしがれて女々しくなる……
「ああ、よかった。ぶっちゃけ声聞くまで悩んでたわ」
「よく言われるので気にしないでください。それで、どうかしました?」
「君って上級魔霊を召喚してるんだよね? さっき受付で話してるのが聞こえちゃってさ」
何処かバツが悪そうに、三角の耳を伏せる。
「ええ、まあそうですね」
本当は魔神霊なんだけどねー
「そこでお願いと言うか提案があるんだけどさ、俺のパーティに参加してくれたりするかな?」