2.俺っちの誘い!
2話目は、大半が会話文となっております。
読みづらいかも知れませんが、ご了承ください。
「シンレイってあの神霊?!!」
あまりに突飛な話に、口をあんぐりと開ける。
「どのシンレイのことか分からないけど、俺っちは神霊だぞ! てか、のどちんこ丸見えなんだけど」
「おっと、これは失礼……ってそんなこと言ってる場合じゃないって! 神霊が何で僕なんかのところに? それに今までの十数年間何してたのさ! 今更何であらわれたの!?」
このスライムが本物の神霊だって言うのなら、聞きたいことは山ほどある。
そもそも守護霊に関する情報というのは、召喚された際に守護霊自身から召喚主に伝えるのが普通だ。
神父さまが言うことには、泥団子みたいに口をきけないものが召喚される事など今までなかったらしい。
「質問が多いな〜、嫌われるぞ」
「そんな事どうでもいいいから!」
「分かったよ、せっかちな奴。まずはそうだな、お前のところに召喚されたのは俺っちが豊穣の神だからさ」
たぶん胸を張っている。スライムの体が少し伸びた。
「豊穣の神って農業とかの?」
「そう! その豊穣の神。んでもって、お前の土好きが要因なわけ。お前ほど土が好きな奴なんていねえからな」
「な、なるほど……」
「えーと、次の質問が今まで何してたか、だっけか。それは簡単な話さ。俺っちがこの世界に顕現するには条件があるんだ」
「条件……?」
「そう。俺っちがこの世界で実体をもつためには、召喚主の土に対する愛が必要なんだよ」
「土に対する愛、ね」
「そうなんだよ。この条件のせいで、今までの召喚主の奴らったら、いつまで経っても俺っちのことを顕現できないし。人によっては、泥団子だからって子供の頃に捨てやがる奴までいるんだよ!!」
「守護霊もなんか大変なんだね」
せっかく召喚されたのにそんな扱いでは確かに可哀想。
「大変なんてもんじゃすまねえぜ! 俺っちたち守護霊は、召喚主が死ぬまで霊界に戻れねえからな。召喚されるたびに、倉庫の中で数十年。川の中で数十年。馬小屋の中で数十年……何度召喚主を呪い殺そうとしたことかっ」
その可愛い外見とは反して、恐ろしい形相を浮かべる。
「神霊に呪われるとか怖すぎない?! ま、まあ今回は無事に顕現できたんだし! 呪ったりしないよね?」
守護霊に呪われるなんてシャレにもならないっての。
「する訳ねえだろ! 俺っち、こう見えても感謝してるんだぜ? なんて言ったって、人類始まって以来、初の顕現だからな!!」
「え!? それじゃあ、ずっと泥団子のまま……」
「神霊を憐れみの目で見るな! まあ、何はともあれお前の1000体目の作品の完成によって、やっとこさ土への愛が認められた訳よ!」
「ああ! これで1000体目だったのか」
「そゆことー」
満足気に、にんまりと笑う。
笑顔は可愛いんだけどな……
「なるほどね。それじゃあ、これからよろしく!……僕は次の作品を――」
「――おいおい! 神霊だぞ?! 神霊が出てきたのになんでそんな他人事なんだ!」
「他人事って……守護霊が付いたからって別に今までと変わらないだろ?」
「……いや、あのな! 何度も言うけど俺っちは神霊なんだぞ?! それも俺っちの場合は魔神の類だ」
「魔神だったら何かあるの?」
「魔神霊を召喚したんだから、お前は今日から魔法が使えるんだよ! それもすんごいヤツを!」
体を目一杯広げる。すんごいヤツを表現しているつもりだろう。
「魔法を!? それは確かに魅力的な話かも」
魔法が使えると聞いて気分が踊らない者がいるだろうか。いや、いない!!
「そうだろう?? そこでだ。俺っちからお前に一つ頼みがあるんだよ」
「僕に頼みが? 一体どんな?」
珍しく言いずらそうにすると、体を捻じらせながら答えた。
「……俺っちを有名な守護霊にしてくれ」
「有名な守護霊……?」
「例えばそうだな。英霊で言うところのアーサーとかヘラクレスみたいな感じさ。神霊だと、ハデスとかアマテラスとか」
「そ、それって伝説の守護霊たちじゃないか! 今までに召喚されたのは一度だけ! 人類を救うほどの功績を残したっていう!」
「そうそう、そう言う感じ。そんな感じにして欲しいんだよ」
「そ、そんなこと僕にできる訳ないだろ! それに何で有名になりたいのさ!」
「俺っちたち守護霊の地位っていうのは、人間界での功績によるんだ。つまりは、神霊の俺っちでも、何も結果を残せてないから地位は低いわけよ」
「そ、そうなんだ。だからって、僕には力になれないよ」
「いや、なれる! この俺っちが力を貸してやるからよ! これでやっと、あのクソガキたちを見返せるぞおおお!!」
「クソガキたち、って誰……?」
「ポセイドンとアテナの野郎だ。あいつら、俺っちよりも弱いくせに結果がどうたらって俺っちのことを馬鹿にしやがるんだ!!」
頭のトンガリから湯気がたった。
「ポセイドンとアテナって、伝説の守護霊じゃないか!! それよりも強いっていうの?」
「ああ、勿論だ!! 俺っちをなめるなよ、大地と豊穣の神――クロノス様とは俺っちのことよ!!」
銀色の体を艶々とさせ渾身のドヤ顔。
鼻の穴が全開だ。いや、鼻の穴などないのだが。
「っへ? クロノスって時の神じゃないの??」
「っけ!! 人間はこれだから困るんだよな。人間界で活躍した神霊にしか興味ねえんだもんなあ。クロノス違いだっての」
「なんかごめん」
神霊の中でもそこまで差があるとなると気の毒になってきちゃうよ。
「分かればいいんだ。それに、あのクロノスは霊界でニート生活中だしな」
「何でニート生活!?」
「言ったろ、霊界の地位は人間界での功績による。一度どデカイ功績をあげたら、もう十分な地位を獲得出来るんだよ」
「な、なるほど。というかさっきから驚きっぱなしで疲れてきちゃったよ」
ついさっき泥団子から神霊が現れたと思えば、立て続けに信じられない話ばかり。
流石に驚き疲れる。
「そんなお前に霊界プチ情報を一つ。伝説の守護霊たちが一度しか召喚されないのは、一回の功績だけで一生遊んで暮らせるからだ」
「ええ"っ。なんか幻滅……信仰も何もあったもんじゃないな……」
「そう思うだろ? でもその信仰も功績の一つなんだ。つまりは、人間から信仰されるほどに功績を残せばいいって訳よ!」
「簡単に言うけどさ、信仰されるほどなんて無理に決まってるよ」
「なにだらしないこと言ってんだ! 俺も力を貸してやるって言ったろ」
「そっか……でも力を貸してくれるって言ったって、僕は今の生活で満足してるしなー」
肩を竦めて、両手のひらを上に向ける。
「ほほーん、満足してるねえ……本当に?」
ニヤつきながらにじり寄ってくる神霊。
「あ、ああ」
流石の圧に負けて後ずされば、後ろの棚に背中が当たった。
「でも、俺っちは知ってるんだよなー。なにせ十何年もお前を見てきたんだからな」
目を細めた姿は、大悪党のそれだ。
「知ってるって何をだよっ」
「……お前、美へのこだわりが強いだろ。この像がすべてを物語ってるさ」
にゅるりと素早く退き、像のそばへ。
「憧れの女性ぐらいこだわったっていいだろ!」
憧れの女性、その言葉を口にすることで自分の思いを再確認し頬を赤く染めた。
「俺っちが言いたいのはそういう事じゃねえんだ。この像を作るのにどれだけ費やした? あと一体で俺っちが顕現できるってのに、その一体にどれだけ費やした?」
すべてを見透かす目は、エスタの瞳をしっかりと捉えている。
「……3年」
僕はこの理想像を作るのに3年の月日を費やした。
この2年と少しの間、何度作っても満足のいく仕上がりにならなかったからだ。
「そうだよ! 3年間だよ! この首から上の像を作るだけだってのにな!」
そう言うと、ケラケラと嘲笑った。
「べ、別にいいだろ! 僕の勝手じゃないか!」
「ああ、別に構わねえぜ。3年間費やしたのを攻める気はさらさらねえよ」
「じゃあ何だっていうんだ」
「……これは一種の取引さ」
神霊は像の周りをぐるぐると回り始めると、低い声で誘い始める。
「と、取引?」
「ああ……エスタくんや、これ程に美しい女に会ってみたくないか?」