プロローグ
初作品ということで至らない点などあると思いますが、これからよろしくお願いします。
「次は、エスタくんだね。さあこっちに」
そこは、とある村の教会。
今日は五歳の子供達の『守護霊召喚』の日である。
町中から集まった五歳児たちが、これからの人生に大なり小なり関わってくるであろう守護霊の召喚を行う。
呼ばれた僕は、てくてくと歩み寄った。
十字の形をした台座に上がると、神父が小さなナイフを持って近づいてくる。
「少しだけチクっとするけど、大丈夫だからね」
「はい、神父さま」
礼儀正しく応える僕の心は大盛り上がりだ。
ついにこの時がきたんだ! ついに僕にも守護霊がつくときが!
さっきの女の子はオオカミさんが守護霊だったな。
それにしてもすごかった! オオカミさんが出てきたと思ったら、女の子に獣耳と尻尾が生えるなんて!
守護霊召喚を行うと、人には変化が訪れる。
獣霊を召喚すれば、驚異的な身体能力を手に入れる。
魔霊を召喚すれば、魔法が使えるようになる。
人霊の中でも、鍛冶屋の人霊を召喚すれば鍛冶の能力が身につくし、騎士の人霊を召喚すれば剣術をたしなめる。
中には、英霊や神霊と呼ばれる守護霊もいる。
彼らが召喚されるのは滅多にないことだが、召喚されれば歴史に残るほどの力を持っているとか。
どの守護霊も魅力的だけど、僕の狙いはやっぱりアレだ!
「それじゃあ、指をかして……はい」
僕の指先をナイフで軽く引っ掻くと、じわじわと血が溢れる。
それは一滴の雫となって静かに垂れた。
その雫が台座にぶつかったと思えば、金属を擦り合わせたような音が響く。
『キィィーーン』
耳を劈つんざく音とともに、台座は眩い光を放った。
教会が明かりで満たされる。
「うぅッ」
あまりの眩しさに目を細めた。直視していては、目がやられてしまう。
「おお! これ程の光を放つとは! これはもしかしたら!」
近くで神父の感嘆の声。
もしかして、なにか凄い守護霊が??
僕としてはただの農家の守護霊でいいんだけどな……
生まれてこの方、土を触るのが大好きなんだ。
辺りの光は次第に弱まる。
視界にはまだ強烈な閃光の名残があるが、台座の上を注視。
さあ! 僕の守護霊は何なんだ?!
期待に胸を膨らませていざ、対面の時。
「……あれ??」
そこには何もいない。
人もいなければ、獣もいない。
神もいなければ、英雄もいない。
「し、神父さま。これはどういう??」
訳の分からない事態に助けを求める。
「エスタくん! した! 下!」
「へっ? した?………な、なにこれ?」
そこには小さな球体。
綺麗なまん丸い形をしたそれは、泥で出来ているようだ。
「これが、僕の守護霊さん?」
恐る恐る触れてみるが、特に変化はない。
今度は手に取ってみる。
もちろん何もなし。
「泥団子……?」
唖然とした表情で、そう呟いた。
「そ、そうみたいだね。でもほら! きっとなにか凄い守護霊だよ!」
思わぬ結果に、目の前の少年を励まそうとする。
「そっか……そうなんだね」
「いや、その、こんなの私も初めて見るから凄いに違いない! だから、そんな気落ちしなくても――」
「――やっった! 泥団子だなんて、僕にぴったりじゃないか!」
「……へ?」
「神父さんありがとう! 僕、凄い農家になるね!」
僕は全速力で走り出した。
今まで毎日、土で遊んできたんだ。
僕にとってこんなに素晴らしい守護霊さんはいないよ!
きっと神様も応援してくれてるんだね! 僕がすごい農家になるの。
走って向かう先は、もちろん沼だ。