9:魔王城で『魔王と手をつなごう』キャンペーンを実施しました
本日は閉城期間である。割引き券の効果はあったのだが、その後客足が途絶えてしまった。城門が悲しげに軋んでいる。
はて、俺の客への歓迎の意志が上手く伝わらなかったのであろうか? 巨躯をいかして上から見下ろし、魔神の子を愛でるがごとく微笑む。立派な爪の付いた手で頭をなでてやり、モンスターが友好的であることを相手に伝える。客はこれで落ち着いてくれたように見えた。
さらには、「魔王と手をつなごうキャンペーン」で、10人に1人は自らが手をつなぎ城内へと導いた。身長差があるために若干人間を釣り上げる形となってしまっていたが、子どもは喜んでいた。大人も皆同じような笑みを浮かべ、俺を褒め称えていた。
「ふむ……何が悪いのだろうな?」
「そりゃあ、魔王様が怖いんじゃないかしら。もっとキュートな仮面をつけるべきですわ」
「そうか……仮面が悪かったのだな。納得した。……と、ナーガいたのか。邪魔をして悪かった」
厨房の中で下半身の蛇の部分が、前に進む度に左右に揺れる。上半身は他人を魅了するために胸を少しはだけさせている。妖艶な雰囲気が漂う。だが、魔王たるもの配下に魅惑されるわけはない。子どもをどうやって生むのだったか、と考えただけである。
俺が大きな夢を目標として先のことを検討する時は、無駄に大きな食堂に来る場合が多い。魔王部屋は、どうしても過去の戦いが思い出されてしまう。
「そう言えばナーガ。以前より検討していた食堂の一般開放の件、計画は固まったか?」
「ええ。城門からのルートを結界魔法を応用して二つに分け、右側は食堂直通となるようにする予定ですわ」
「結界魔法を維持し続けるのか? 今残る部下にそんな魔力を持つものは……図書館にいるか」
「ご名答ですー! 暗黒魔道士のお爺さんは戦闘はからっきしですけど、魔力だけは並々と注がれたビールのように豊富。これを利用しない手はありませんわ」
勇者との総力戦で、戦闘能力を持ったものたちは大方いなくなってしまった。今や、我が城は非戦闘員と老兵で占められている。老兵で小軍団を編成してはいるが、金がかかるばかりである。未来のこと、客のことを考慮しなければ今すぐにでも訓練場を撤去したいと思っている。