2:魔王城オープンします(2)
手はある。閑古鳥の鳴くままに任せておくこともできない。
カラスも部下も反対するだろうが、現状の問題を打開することが先だ。
飯が食えねば、俺も部下たちも死ぬ。
最初に提出された資料を見る。
……このような資料を置くには机がないと不便であるな。後で小さな物を用意させよう。
「量を集めることにする。料金設定は……そうだな1,200Gまで下げろ。さらに200G引きの割引き券を配布する」
「1,200G!? しかし、それではあまりにも魔王としての威厳が……」
「威厳どうこうと問答している場合ではないのだ。私には勇者を倒す前に、部下たちを食わせてやる義務がある。それに魔王城を気に入れば、同じ人間が再度訪れることもあろう」
もう一度近隣の村民の数を把握しておく必要があるな。資料にペンで書き留めておく。
だが、幸いというか残念であるというか、今の魔王軍は大隊1つにも満たない。おそらく衣・食・住を賄うことは可能であろう。
「近隣の村を滅ぼしてはいかがでしょう?」
「……私は先の戦いで学んだのだ。人間は生かしておいてこそ価値がある。奴隷でも駄目だ。自由に行動させることで、高い収益をあげ、新しいものを作る。我々は、その一部を定期的に取得する仕組みを考えれば良い」
「それに、大規模な破壊活動は帝都の人間の目を引く。ここは、模造の魔王城であり、本物の魔王城ではない、という設定で押し通す」
模造の魔王城、ここが最大の問題だった。代々の魔王ならば、このような目立つことは当然避けるだろう。
ただし、現在『魔王』が死んだということで人間とモンスターとの間の諍いは見られなくなったという。皮肉な話だ。
だが、我々の勝機はここにある。死んだと思われているのであれば、俺の存在さえバレなければ良いのだ。
部下たちには、自分は『魔王』に操られていたモンスターだった、として人間と接するように再度伝えておこう。
俺は仮面を被り応対する。
「わかりました。魔王様の仰せのままに」
カラスはそう言って下がった。
開店初日からこのような状態では先が思いやられるが、実のところ商いには興味があった。多少は魔王が人間の真似事をしても許されるのではないか? いや、きっと許されるはずだ。
部屋から窓の外を眺める。カラスの言ったように人間はまったくいない。だが、太陽が地を照らす様は、魔族である俺にとっても気持ちのよいものだった。
「前の城も、俺の部屋は地下ではなく地上の窓付きにすべきだったな」
さて、仕事の続きをしよう。
魔王城開店についてはカラスに任せてあるが、食堂、宿舎、訓練設備等々については、それぞれ責任者がいる。報告を聞かなければならない。
「ふむ……魔王城の食堂を一般開放するのも悪い案ではないな」
見た目のみ綺羅びやかな部屋の中で、俺は黙々と策を練った。