11:勇者? は魔王城でご飯を食べます(2)
気がつくと彼女を抱きかかえていた。無礼な姫をこのように空中散歩させてやったことを思い出すな。あれは傑作だった。クリスを下ろしてナーガへと尋ねる。
「さて、試食は何にするのだ? くねくねパン以外となると……ふむ、客を呼び込むには肉がほしいところだな」
「それが……せっかくクリスちゃんに来てもらったのに、私としたことがモンスター用の食材ばかりを用意してしまったのです」
「うむう、それはまずいな。俺たちの食事――特に肉は人間には奇異に映るであろう。クリス、肉と言って思い浮かぶものは何かあるか?」
「そうですね。豚……とかかなあ」
豚肉。なるほど聞いたことがある。食材としては様々な使い方があり、中にはそのまま一匹焼いて食べる風習もあるという。
「それでは、豚に似た肉であれば違和感なく食えるということ。しかし……豚というと、どうしてもオーク等の俺の部下を連想してしまうのだ。さすがに部下は料理できぬ」
「……魔王様にお頼みするのは大変心苦しいのですが、ベア豚という熊と豚の合いの子というモンスターがおります。ただ……凶暴でして……」
「なるほど、我々でそれを倒せるものは数少ないということだな。悲しいことだが。よくわかった。俺が捕獲してこよう。効率を考えてもそれが一番良い」
「申し訳ございません。食材がきたならば、誠心誠意料理させていただきますので」
俺はクリスを見やって言った。
「そういう事だ。試食はしばし待て。どうしても腹が減ったというのなら、くねくねパンを食べていて構わん」
「そんなに食べません!!」
顔を赤くした彼女を置いて、俺は空中へと移動した。空を飛ぶのも久しぶりだが、感覚は鈍ってはいない。ベア豚の生息地は魔王城からほど近い、山に囲まれた森である。
俺は、少々速度をあげ、滑空するように森上空へと近づいた。あのモンスターは確か赤い実……カリンガのある場所に寄ってくる。カリンガの木の場所はというと……
「ん? あれは……? 行き倒れの人間……であるか?」
「微かに呼吸音が聞えるな……ふむ、客となる可能性のある人間。捨て置けぬな」
俺は人間へと近づいた。ボロ布をまとい、キノコに手を伸ばしたまま力尽きている。あれは毒キノコなのだから、幸運なことだ。
人間を背負うと甲冑の重さを感じる。戦士――か。少々厄介であるが、俺がついていれば問題なかろう。背負ったまま、何匹かのベア豚を黒魔法で作ったホールへと投げ入れていく。10匹もあれば、とりあえずは良いだろう。
少し速度を落とし、城へと向かう。
「……ま、お、う……」
「ふむ、夢にまで魔王城が出ているか。客としては申し分ない」
食堂の前へと下りると、クリスたちが待っていてくれていた。俺の姿……いや、俺の背負っている人間に驚いている。
「外で行き倒れていたのだ。せめて何か食べさせてやろうと思ってな」
「魔王様、やはり優しいんですね」
「ふん。俺は客の可能性があるものを助けただけだ。こいつが恩に感じるのであれば、これから何度も食堂へと足を運ぶだろう」
「でも……やっぱり優しいです」
まったく不思議な娘だ。背負った人間を下ろし、ホールへ入れていたベア豚を倉庫へと放り込む。
「意識はあるか? 怪我であろうか?」
「うーん、これは怪我や病気ではないですわね。……単純に腹減り状態ということです。すぐに意識を取り戻すでしょう」
そう言った瞬間、むくっと人間が起き上がった。目が虚ろなまま、「た、た、食べ物」と呟く。
「すぐに食べ物は無理ですわ。飲み物とおかゆを用意しましょう」
準備した水、おかゆを胃へといれていく。まさにガツガツという表現が正しい。ボロ布の中から見える鎧は中々の一品と見える。……はて、俺はどこかであれを見ているような。
「おかわ……ごほっごほっ!!」
「はいはい、慌てなくてもありますわよ」
ナーガが厨房からおかゆを運ぶ。皿をおいた時だった。人間の動きが止まった。
「モン……スター?」
「いかにも私はモンスターと呼ばれるものですわね。さらに言うとナーガという種です」
「……僕は……僕はモンスターに施しを受けたというのか!!」
飛び上がり、ボロ布を投げる。その中からは、見事な鎧が――待て、待てよ。そんなことがあり得るのか!? あれは――
「勇者!!」
「ま、魔王!? そんな馬鹿な!! あの時確かに滅ぼしたはずなのに」
勇者は剣を引き抜くと、俺と相対した。実力は知っている。
「クリス、ナーガ。下がっておれ!!」
俺は拳に力を込めた。が――、勇者はそのまま気絶するように前のめりに倒れた。




