ゲーム始動
「一体ここはどこなんだよ?」
老婆の訳の分からない話を聞いて、少し苛立ってきた。
「てか、おめーも誰だよ。」
フォフォフォとまた不気味な高笑いを浮かべて、
「これは、これは紹介が遅れて申し訳ありませんでした。ここは夜の国ユラチナでございます。そして、私には名前はございません。ただ、この国に住む老婆、それ以外何の名前もございません。私がここを去ったあとすぐに、もう一台馬車が通ります。その馬車の中に、この国の二人の王女が乗っています。あなたが救うのは、その二人のうちの一人の王女を救うのが今回のゲームです。」
一方的にまくし立てると、老婆はもう話すことは無いと言うように、自分の馬車に乗って去ろうとした。
「おいおい。何だよ、それ。ちょっと待てよ。」
「少年よ。目上の人間にはそれ相応の話し方をするべきぞ。私の言うことはそれだけだ。でわ、後は頼んだぞ。もし、王女を救えなかったら、その時は約束通りお前の命をもらうとするからな。フォフォフォ。」
そう言うと、オレの腕を振り切り、馬車に乗り込んで行ってしまった。
まじ、何なんだよ。
オレはこのままここでどうすればいいんだよ。
しかし、その考えは、こちらに向かってくる馬車が走る音にかき消された。
あのババァの言った通りだな。
馬車は、またまたオレの前で止まった。
馬車の扉が開き、ブロンドの長い髪、丸い顔をした大きな紫色の瞳をした女の子が出てきた。
「そんな変な格好でここで何をしている?」
思ったより低い声だった。
変な格好って?
お前の方がよっぽど変な格好だろ?
フリフリの城のドレスに全く似合わない装飾品ばかりつけて…。
と、言いたいのをぐっとこらえた。
「私の問いに答えないのか?生意気な奴だ。」
その女の子はオレの顔に自分の顔をギリギリまで近付けてじっと見た。
「打ち首にするぞ。」
はぁ?
まじで何行ってんの?こいつ…。
「ロウ、このおかしな奴を捕らえよ。」
彼女がそう言うと馬車の中から、これまたブロンドの肩までのサラサラの髪、青い目をした一人の男性が出てきた。
中世?を思わせる、絵本とか挿し絵で見るような騎士のような背の高い男が出てきた。
ん?
一見。普通の人間だと思ったのだが、普通の人間には無いものがあった。
その男のお尻近くに、モサモサとしたグレーの長い尻尾が生えていた。
え?これなんなん?
しかも。
「痛い、何すんの?」
紫色の目をした女の子が涙目でオレを見上げた。
これも、装飾品の一部かと思ったら、まさか…。
「本物の耳…。」
そう、その王女の頭には、尖ったピンク色の耳が生えていた。
現実を飲み込めないでいると、馬車の中からもう一人別の女性の声がした。
「ジュリア、もう止めなさい。」
穏やかだったが、人を抑えるような強い意思のこもった声だった。
その人物が馬車から降りてきた。
オレは、その瞬間を永遠に忘れないと思う。