第一章
プロローグ
「私…。あなたと同じ世界で生きたかった。」
美夜の大きな緑色の瞳から涙が零れる。
「貴方が育った世界に生きたかった。そして、貴方と普通に恋がしたかった。」
もう話すのも困難だと思われるほど彼女は衰弱していた。
暗い土の上、オレの腕の中で彼女は静かに目を閉じた。
第一章 迷い込んでいた道
その日はとても暑かったのを覚えてる。
異常気象?地球温暖化?
そんな難しいことはどうでもいい。
ただ、暑かった。
肌を焦がす太陽の日差し、滝のように流れ落ちる汗。
聞こえる音と言ったら、耳障りなセミの鳴き声ぐらいだった。
ぶっ倒れそうになるぐらいに暑かった。
「つーか、オレはいつまでここにいればいいんだよ。祐介。」
神社の境内の中、オレは目の前で途方にくれた顔をして突っ立っている、親友に切れかかった。
「だって、一人で待ってるのはつまんねーじゃん。」
いやいや、それにしても…。
こいつは、オレの小学生の頃からの親友、秋山祐介。
見た目も細くて弱々しい感じのする祐介は見た目通り、中身までも女々しく、いつもゲームばかりしている。
このクソ暑い中でもさっきから、携帯ゲームを握りしめていた。
「てか、神社の境内で待ち合わせとかなんだよ。」
つーか、待ち合わせにオレまで付き合わせんなよ。
こいつ、祐介が待っているのは、来月この街で行われる二次元ライブのチケットを譲ってくれると言う相手を待っているのだ。
「そんなに怒るなよ、洋一。お前なんて普段学校にも来ないで、家でゴロゴロしてるだけだろう。たまには外に出た方がいいよ。」
「…。」
「しかし、いいよなー、お前、どんなに学校行かなくても退学にならないんだから。」
「イヤミかよ。」
オレは、軽く祐介を睨んだ。祐介はそんなこと全く気にしないようで、『早く来ないかなー。』と言っていた。
まぁ、確かに、こいつの言うことも一理ある。
たまには外に出るのも悪くないかもしるない。だが、この暑さには耐えられない。
「なぁ、神社の中って少しは涼しいのかな?」
待ちくたびれたオレは、神社の中に入ろうとした。
「やめとけよ。たたられてもしらないぜ。」
「大丈夫大丈夫。」
オレは祐介の言葉を無視して、神社の中に入った。
「バチがあたっても本当に知らないからな。」
「とりあえず、来たら呼んでくれ。」
振り返りざまにそう言って中に入る。
ひんやりとした空気がオレを包んだ。
やったけど中は涼しいや。
静まり返った人事中でオレは腰を降ろした。
あー、だりぃ。
生きるって何でこんなにだるいんだろう?
大の字で寝転がり目を閉じる。
『誰か助けて。』
直接頭に響いてくる、震えてる女の子の声。
誰だ?
誰かいるのか?
だけど、そこには人が隠れられるスペースはない。
「祐介か?」
明らかに男の声じゃなかったが、オレは入ってきた戸を開けようとした。
が、開かない。
何でだよ。さっきはこんなに簡単に開いたのに。
「おい。祐介。そこにいるんだろう?戸が開かないんだよ、開けてくれよ。」
声を限りに叫んでみたけど、何の返答もない。
「祐介、お前が戸を押さえてるんだろう?くだらないことすんなよ。早く開けろよ。」
ふざけんなよ。
『誰か助けて…。』
再び女の子の声がして、頭が割れるように痛くなる。
瞬間、辺りが真っ暗になる。
何も見えない!
一筋の光が天井から零れる。
頭が…。割れる。
意識が遠退いて行くのを感じた。