第五話『一番チートなはずだけど』
村に到着するころにはお月様がでていた。
昨日とは違い、村は明るくお祭りでもあるのかと思ったがどうやら違うようだ。
村の出入り口には松明を持った大人の男たちが集まっており、おそらくチカちゃんを探しに行く直前ってとこだろう。
相手もオレたちの持っている松明の光に気付いたのか、何人かがこちらを向いたまま「チカちゃーん!」とか叫んでいるのが聞こえてくる。
「あ、お父さん!」
オヤジさんの姿を見つけたのか、繋いでいた手を離して村のほうへ駆けていくチカ。
ちょっと前までは疲れ切った様子だったのに、そんな様子を見せないチカに思わず苦笑いしてしまう。
「転ぶなよ!」
「うんっ」
オヤジさんに駆け寄るといきなり抱き着いて転ばせてしまう、周囲の大人たちに笑われ恥ずかしそうにしているオヤジさんとチカのところにオレも無事到着する。
「無事、連れ帰りましたよ」
オヤジさんは立ち上がると、砂埃を払い。チカの手を取って立ち上がらせる。
「……ありがとう! ホントにありがとう!」
頭を下げるオヤジさん。
年上の人間にこんなに感謝された経験がなく、オレがどうしていいのかわからずにいるとポケットに入ったままの指輪のことを思い出す。
「そういえば、これ拾ったんですけど」
泣き崩れていた顔のオヤジさんの顔がさらにひどいものになる。
オレもつられて泣いてしまいそうだ。
「こ、これ……アイツの指輪じゃないか。見つけてきたのか!」
「ブラハの木の根元に落ちてました」
指輪をオレから受け取ると、懐かしいものを見るように手の中で大事にするオヤジさん。
チカちゃんが見せて、とせがみ指輪を渡してやる。そんな場面があったりして、オヤジさんがこちらに向き直る。
「もちろん、今日も宿に泊まっていくんだろ? この村にいる限りはタダでいいから泊まってってくれよ!」
「ありがとうございます。昼から何も食べてないからメッチャ腹減ってるんですよね」
「そういえばそうだったな、よし」
ついてきてくれ、とオヤジさんが宿に向かって先導してくれる。
周囲の大人たちの称賛の声に見送られながらオレたちは宿に向かった。
~
食事も終え、村人全員が寝静まった深夜のこと。
オレはオヤジとチカを村のはずれまで呼び出していた。
「こんな時間にどうしたんですか?」
宿のオヤジが言う。
眠そうにしているチカも一緒の手を握ってこちらを同じく眠そうな顔で見ている。
「いや、ちょっと見せたいものがあってな」
思念体のなりそこない、とでも言うのだろうか。
オレにだけ見えているそれに手を向けると、ゆっくりと『霊魂操作』で霊力を与える。
薄っすらとオレの周囲から溢れるように湧き出る光がぼんやりと透けている一人の女性を作り出した。
「光ってる……あ!」
「この人が、オヤジさんとチカちゃんのお母さんってことだけどあってるかな?」
先ほどまでの眠気などなかったことのように食い入るように女性を見つめる二人。
呼び出した女性自身も何が起きたのかわかっていないといった様子である。
オレはしばらく三人に成り行きを任せることにした。
「な、どうして……」
「お母さんっ!」
オヤジさんの言葉を遮る勢いでチカが飛び出し、霊体となった女性の前に立つ。
そのまま触れようと手を伸ばす。
「生きてた……やっぱり生きてたんだ……!」
伸ばしたその手は、霊体である女性に触れることなくすり抜けていく。
「チカ、私はもう死んでいるわ」
目を伏せ、やっと状況が呑み込めたのか女性が言う。
どうやら彼女が母親で間違えないようだ。
「森で魔物に襲われたの、あの日」
目を伏せ、一言ひとことを大事そうにつぶやくと、オヤジさんのほうへ視線を送る。
それに反応するようにオヤジさんは優しい声で言う。
「ニニア、お前……ごめんな」
「謝ることないわ。私のほうこそ……あなたに辛い思いをさせてしまった」
彼女、ニニアというのか。ニニアとオヤジさんがお互いに申し訳なさそうな顔で俯いている。
そろそろいいだろうと思い、チカに話しかける。
「あー、感動の再開の最中にすまんけどチカちゃん」
チカちゃんがこちらを振り向く。
オレも彼女の期待に応えるべく、自信満々に言う。
「お母さん、生き返らせられるとしたらどうする?」
「生き返らせて! お願い!」
ハッ、とした表情になり、オレのほうへ駆けよると服の裾を掴んで懇願する。
予想していたことだが、やはり人に頼られるってのはいつまで経っても慣れないものだ。
霊気を込めた手をニニアへと向ける。
「ダメよ。私は死んだんだもの」
オレの動きを見てニニアは避けるように動くと、オレの瞳をまっすぐ見て言う。
真剣なその目に思わず構えを解いてしまう。
フクロウだろうか……オレは鳥の鳴き声のようなものを聞いた気がした。