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第三話『社交性って大事』

二日目だ。

伸びと欠伸を同時にしながらオレはいつもの服装に神水晶を使って着替える。

便利だなこれ。


「さて、とこれからどうすっかなぁ」


とりあえず朝飯食うか、とオレは一階まで降りると夜に見なかった人物を見つける。

オレの半分くらいの年だろうか、栗色の髪の少女だ。宿屋のオヤジさんと何やら話している。


「ダメだったらダメだ! サナギの森は危ないところなんだぞ」

「なんで、お父さんも他の人も私にダメって言って何もさせてくれないの!」

「わかってくれ……あ、お客さん」


宿屋のオヤジがこちらを向く、とその隙に少女は宿屋から出ていってしまった。

オヤジは情けないところを見られた、という感じで恥ずかしそうに隅にあるテーブルへと案内してくれる。


「いや、情けないところを見られてしまいましたなぁ」

「親子喧嘩ですか?」

「まあ……そうですね。あの子、もう十歳くらいになるんですけども母親を幼い時に亡くしまして私にも懐かないもので困っているんですよ」


乾いた笑いとともに、話を終わらせオヤジは厨房のほうへ引っ込んでしまう。

料理もすぐ運ばれてくるだろう。


「ふむ、オレにはあまり関係のない話だが……そうだな」


少し考えてみる。オレは両親共に健在で、片親で育つという環境はあまり理解できていないのだがあの少女にとって母親がいないのは耐えられないことなのだろう。

父親も子育てが特別うまい、というわけでもなしにここまで来たというわけだ。


「お待たせしました」


店主が料理を運んできてくれる。パンとスープ、サラダと紅茶のようなもの。

見た目もいい、うまそうだ。


「あの子、追いかけなくていいんですか?」


料理を一瞥するとオヤジに聞いてみる。

もしかしてあの少女はさっき言っていたサナギの森というところに一人で向かったのではないだろうか。

ちょっと心配になる。


「いや、いいんですよ。いつものことですから。それに、あの子一人じゃあ村の外には出られませんから」


お昼にはお腹がすいて帰ってきますよ、とオヤジは言う。

魔物がいないとはいえ、しっかりしているもんだな。

ちゃっかり気配察知しておき、少女の場所も確認しておく。どうやら宿屋の裏手にいるようだ。


「それならいいんですけど……、いただきます」


スープも冷めてしまうし、オレは食事に手を付けることにした。





宿屋のオヤジさんの好意で明日の朝まで部屋を使っていいことになった。

なので今日一日はこの村を探索しよう、そう思い村を見てまわる。


木製の家ばかり立ち並んでいて、現代日本でいう田舎っぽいところ……というか集落的な場所に思えてくる。まあ、気のいい人たちばかりだから居心地はいい。


村長さんに出会い、この国の王都の方角を聞いたりと午前中は有意義に使うことができた。


お昼になってオレは宿屋へ戻ると、宿屋のオヤジと午前中に見かけた数人の男女が宿屋の入り口に集まっていた。

何があったんだろう。


「どうかしたんですか?」


声をかけてみると、宿屋のオヤジがこちらを向く。

青ざめた顔をしている。イヤな予感がした。


「娘が……チカが……いなくなったんです!」

「え、村から出られないはずじゃないんですか?」

「どうやら無理やり柵を超えて外へ出たらしいんだ」


背の高い男性が教えてくれる。

いや、いくら貧弱そうとはいえ人が超えられる高さじゃないと思うんだが……。

そんなことを思っていると、宿屋のオヤジが呟くように言う。


「私が宿の裏に食材や家具の入った木箱を宿の裏に置いておいたんだ……たぶん、それに乗って出たんだと思う」

「ライモンドさん、あんまり自分を責めなさんな。私たちも外を探してみるからさ」


大人たちは口々にそう言うと、村の外へと向かっていく。

オレは気配察知で少女、チカちゃんの行方を捜してみる、十キロ圏内にはいないらしい。

更に範囲を広げるとすぐに反応があった。


「オヤジさん、一回休みましょう。体持ちませんよ」

「あ、ああ」


オレの案内で朝オレの座っていた長椅子に座らせる。


「チカちゃん、たぶんサナギの森へ行ったんですよね?」

「……サナギの森は私の妻、あの子の母親が死んだ場所なんです」


ぽつりとオヤジは言う。

湿っぽい声に、座ったと同時に涙しているのがわかった。こんな大の大人が。

オレは心が締め付けられるようなものを感じ、オヤジを見つめながら耳を傾ける。


「数年前、魔王が倒される前の話なのですが……あそこは魔物の住処でした。とても危険な場所なのはわかっていたのですが、同時に良い薬草のとれる場所でもあったため、ここの村人は病人が出ると危険を承知でそこへ向かうのです。ある日、私の父親が病気になりました、年のせいもあってすぐに治らず……それを見て彼女はサナギの森へ向かったのです。思えば今日と似ています、私は一人でサナギの森に行くのを止め、彼女はそれを振り切りサナギの森へ向かった、結果は……」


随分ぐったりした様子のオヤジにかける声は見つからなかった。

唯一の家族を失う気持ちってどんなに悲しいのだろう。


「私の父も、妻もその日に死にました。残されたのは私と娘だけ……今度は娘まで居なくなろうとしている。私は父親、いや……人間失格です」

「そんなこと、ないですよ。簡単な話です、そのチカちゃんを連れ戻せばいいんでしょ?」

「……他の人にはサナギの森にチカが向かったことは話していません。今も魔物はいますから……危険ですからね」


死んでほしくないってわけか。

丁度いい、オレには力がある。助けに行こう。


「オレ、行ってきます。そんで、チカちゃん連れ帰ってきますよ!」

「な、危険だ! あ、いや……君は見たところ剣士か」

「そういうことです」

「いや、でもサナギの森へは一時間以上かかる。チカは……」


言うのをためらう様子のオヤジ。

先ほどより元気を取り戻している様子だが、不安は拭えないのだろう。

一宿一飯の恩というものもある、オレは宿屋のオヤジの言葉を尻目に宿屋から出てチカちゃんの反応がある方へと向かった。


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