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第一話『前方不注意から始まる出会いもあるらしい』

チートっぽいけどオレつえーにはたぶんならないです。

 それは唐突だった。

 風の強い夜のこと、オレは田舎ゆえ、遠いところにあるコンビニから自宅への帰り道の途中。

 鼻歌交じりに自転車をこぎながらイヤホンから流れる音楽を聴いていて、一瞬そちらに集中した。


 突然、それは現れた。


 縦に五メートル、横に三メートル……オレの一回りも二回りも大きな扉。

 いや、違う。木製の枠組みのみがオレの目の前に現れたのだ。

 ちらりと中に見えるのは……どこかの森だろうか。

 そんな脳の高速処理とは別に現実の自転車は止まらない、思わず情けない声も漏れてしまう。


 当然のようにオレはその木の枠組みに吸い込まれるように入ってしまう。

 自転車が木の枠に引っかかり自転車とオレの体を浮かす。

 枠組みを越えただけ、に思われたがすぐに違うことに気付く。

 そこに広がるのは真っ白な空間。霧でもかかっているようだ。


 すぐに自転車を止め、イヤホンを抜くがイヤホンから漏れ出る音しか響かない。

 後ろを振り向くもオレの入ってきた入り口はなくなっている。


「な、ナニゴトか……」


 理解ができない現象を前に、先ほどぶつけた股間の痛みも忘れ呟く。

 すぐに正面に向き直ると、ニッとまぶしく笑う少女の顔があった。


「「うぇえええ!?」」


 驚きとともにのけぞりオレは自転車にひっかかり、そのまま倒れる。

 重なる声と、オレの真似をしたような少女の動き。


「いっつぅ。だ、誰だよ」


「あっはっは、やっぱ面白いわぁ。人間って」


 本当に面白い、と目を細めて笑う少女。髪も肌も透き通るように白い。

 唯一こちらを見つめる黒目が……何か品定めされているようにも感じる。


「さて、じゃあ契約。始めましょっか」


「け、契約……?」


 透き通るような声。何もかも完璧かと思える容姿の少女から放たれた声に情けなく反応する。

 同時に思考もゆっくりと元に戻ってきた様子で、バカバカしいと思いつつ立ち上がる。


「待て待て、色々確認しよう。オレの名前は佐伯(さえき)(すぐる)。十七歳の男子高校生。手先が器用だねって言われること以外はいたって普通でまじめな人間……のはず」


 確認終了、つまりオレがおかしいわけじゃあないようだ。

 つまり、この少女がおかしい。


『契約』とか言い出した少女に対し、契約からすぐにイメージできた質問をしてみる。


「じゃあ何か。お前は悪魔か、うん?」


「アイアムゴット、オーケー?」


 親指で自分のほうを指す少女。

 いわゆるドヤ顔というヤツで、自信満々になった顔はオレが思考停止しているというのに崩れる様子はない。


「か、神? 状況が呑み込めないんだが」


「大丈夫、今説明してあげるからさ」


 何が大丈夫かわからないまま、次々にファンタジーな設定を羅列していく少女。

 不思議と疑うことのできない雰囲気があり、瞬時に理解する。

 とんでもない面倒ごとに巻き込まれたようだな、と。



 ~



 体感で十数分ほど続いた少女の説明も一区切りついたところで自分の中で整理してみる。

 異世界、ホップランドと呼ばれており、そこには人間以外に天使や悪魔、妖精といった生き物がいる。

 時に争ったり共存関係にあるらしく、それが日常的なことなのだそうだ。

 さらに、魔法なんてものもあって人々の生活に溶け込んでいるらしい。


「君にはそこに行ってやってもらいたいことがあるのよ!」


「元の世界に返してもらうことは?」


「別にいいじゃない。何事も経験よ。で、続きいい?」


 答えになっていない答えを受け取り、眉をひそめる。

 無理か。無理なんか。


 何か言ってやろうかと口を開くが、その前に少女が言葉を放つ。


「――神の使者としてその世界の三人の王に会って取り返してきてほしいものがあるの。それが私の求めるもの」


 それがこれ、と指先を空へ少女が向けると指先から四角く青白い光を放つ水晶のようなものが現れる。

 大きさは小指ほど、不思議な物体だ。


 開いた口を閉じ、少し魅入ってしまう。

 それだけの神々しさがその小さな水晶には詰まっていた。

 目にした瞬間から手にしたい、そんな欲望が湧き上がるのを感じハッとなり、首を勢いよく横に振ることで正気を取り戻す。


「取り返す、ってなんだよ。これ……普通じゃないってのはわかるけど」


「神水晶。神格を持った石よ、これと併せてホップランドには四つ存在しているわ。だから神水晶一つに四分の一、神の力が宿ってるわ」


「はぁ、さいですか」


 つまり、オレは四分の一の神の力を持つ存在と出会い何とかその力の源を奪って来いということか。

 そもそも神の力がどの程度かはわからないが、普通に考えて敵うような相手でないことがわかる。

 それが四分の一になったとしてもそれは変わらない。


「ムリ! 絶対ムリ!」


 目の前で腕をクロスしてバツを作ると拒絶の姿勢を見せる。

 その小さな口でため息を吐くと少女が言う。


「そうね、このままじゃ……ね。これあげるわ」


 宙に浮いていた神水晶は突如支えがなくなったかのように真っ白な床に落ちる。


 青白いそれを拾い上げる。

 それ自体はひんやりと冷たく、本当に力が秘められているとは思えないほど物静か。

 しかし、それ自体が発光する水晶なんて聞いたことはない。

 この水晶になんらかの力があるのは間違えはないだろう。


「もちろん、役目が終わったら返してもらうけどさ、それは自由に使っていいから」


「使うって、どうやって?」


「石に向かって念じるのよ。大抵の願いは中に込められた神の力が叶えてくれるわ。四分の一だけど」


 ――ち、チートアイテムだ……。間違えなく。いや、待てよ?

 そんなチートアイテムを目の前にして疑問が沸く。そして、そのまま疑問を抱えたままにしておくオレではない。


「こんなものあるなら自分で取り返せばいいじゃないか!」


「相手は三つこれ持ってんのよ? ワタシが一だとするとこっちは一と四分の一、相手は四分の三。誤差二つしか差がなくて押し切るにも押し切れなくてさ」


「二つも差がありゃ余裕そうだけどな」


「……相手は小賢しいのよ」


 人ってそういうもんよね、とつぶやくと下唇を噛み恨めしそうに虚空を見つめる少女。

 そこに何か含むものを感じ、オレは身を強張らせる。相手というと、人間のことだろう。人間が小賢しい。

 何をされたのかを察することができないが、オレにその敵意が向けられていないことに安堵している自分がいることは否定できない。

 少女は「そこで――」と口にする。


「本当はこんな手段取りたくないんだけど、別の世界から助っ人を呼ぼうと思ってね。神水晶をうまく扱えそうな人間」


「ん? お前、うまく使えないのか?」


「使いこなせないわけじゃないのよ! 元々人間用に作ったから使い勝手が違うだけだし!」


「神って言っても完璧じゃないだな」


「うるさい!」


 そんな神水晶をこの神様少女が使いこなせないことが判明したところで手の中にいる神水晶に視線を移す。

 青白く光る小指サイズの四角い水晶。その姿かたちは変わらず手の中に鎮座するそれはなんでも願い事を叶えてくれるらしい。


 流石にこのままポケットに入れておくのは落としてしまう気がしたので指輪に変形しろと、念じてみる。

 わずかに発光するとすぐに形は変わり、持っていた右手の人差し指に完璧にフィットする形の指輪になる。


「なるほど、面白いなこれ」


「いろいろ試してみることね。じゃ、さっそく行ってもらいましょうか」


 急かすように言う少女の顔は先ほどのやり取りでイラついている様子。

 そんな少女の言葉に反応するようにオレたちを囲むように存在し続けていた霧が消え、どこまでも続く真っ白い部屋の全貌が現れる。

 部屋はどこまでも続いていて、地平線のようなものが見える気がするがきっと気のせいだろう。


「いや、待ってくれ。相手もこれ持ってんだろ?」


「何か問題あった?」


 ――あるに決まってんだろ。

 何考えてんだ、と言いたいところだが言葉を飲み込む。

 このイラついている少女に今、口答えの一つでもしたらこの少女と会話できるチャンスはなくなる。

 異世界に飛ばされてからいつでも会話できるとは思えない。


「お前から見て小賢しい人間のオレも、こいつだけじゃさすがに無理だぞ!」


 キラリと光る指輪を見せる。

 少女の顔がムッと歪む、理解できないといった顔だ。


「これでもね、学習するのよ。人に神格を与えすぎてはいけない……ってね」


 ――人は簡単に裏切る。

 そう続ける少女。瞳に鈍い光を見て、心臓が跳ね上がるのを感じる。


「お、おう……でも三対一でも二個差だぞ?」


 異世界には神水晶を持つ奴が三人いて、オレが一つ持って行ったところでカモにされるだけに決まっている。

 相手は人間に裏切られ傷心中の神様だとしても出来ることと無理なことの分別はつく……はず。


 顎に手を当て、難しく考える様子の少女。

 そこまでチート能力を与えたくないか……追い打ちをかけることにする。


「お前、確か言ってたよな。"二個差"あるから勝てないって」


 ハッ、確かにという表情に変わる少女。

 可愛いヤツめ。


「しょうがない。じゃあ、そうだな……ワタシから与えるものは神水晶だけだが……」


 オレの自転車と、そこら辺に落ちていたコンビニの袋を指差す。


「合計……四つね。自転車、ペットボトル、財布、携帯……と。服は勘弁してあげるわ」


「なんの話だ?」


「君の持ち物と引き換えに、君が死ぬまでワタシの祝福をかけてあげるわ。これは契約とは別の取引」


 種類は四つね、と四本指を立てる。

 携帯に刺さったままのイヤホンはカウントされなかったらしい。

 せっかくならイヤホン分もほしいところだったが、何か文句を言える雰囲気でもない。


「でも、ホントに指輪があれば劣化とはいえ何でもできるのよ? ちょっとワタシのが強力ってだけで」


「ないよりはある方がいいさ」


 さて、とどんな能力がいいだろうか。

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