いいんじゃないか? 1
城菱高校は創立3年の新設校だ。2つの高校が合併して出来た高校であり、校舎は合併前の片方のものを使っているため、新設校の割には少し年季を感じる。新設とはいっても学力はそこそこ高いし、部活動にも力が入っている。体操部、美術部あたりは全国常連の強豪校らしい。
しかし、目当ての部活は一つだけ。部活動にかなり力を入れていると聞いたからこそ、かなり無理をしてでもこの高校を選んだのだ。
LHRが終わると同時に教室を出た。今後の勉強なんてどうでもいい。俺がこの高校に入学した理由は一つ。部活動にしかないのだ。
1年普通科は昇降口からはかなり遠い。半ば小走りで昇降口まで駆け込み、靴を履き替え外に出る。もう練習をするつもり満々で、新調した体操服も持っているし、ポーチの中にはグローブもある。仮入部期間が始まるのも待っているのが億劫なのだ。
グラウンドに向かう道では、数多の運動部が新入生勧誘の準備をしていた。袴姿の弓道部や楽器を携えた吹奏楽部、ボールをくるくる弄んでいるバスケ部。1枚1枚に違った唄を載せたチラシを配る百人一首部など、かかった手間が思いやられる。
校舎と体育館の間のその道を抜けた先には、広大とはお世辞にも言い難いグラウンドが広がっていた。既に幾つかの運動部が、思い思いに練習を始めていた。手前ではサッカー部がパスを回し、奥ではテニス部がラリーを展開している。テニスコートの隣ではハンド部が準備運動に精を出し、バレー部はグラウンド内周を走り込んでいる。
お目当ての部活は、そのグラウンドの隅にいた。
野球部だ。各自がストレッチや素振り、キャッチボールをしている。見るからにこれから練習、といった雰囲気だ。
そそくさと近付くと、すぐにキャッチボールをしていた1人が新入生と気付いたのか、ウォーミングアップを中断して近づいてきた。実はこの3年生は、よく知っている人物だ。
「なんだ一暢。お前、ここに入学したのか」
「ええ、まあ。お久しぶりです、初又さん」
「いつ以来だ? 確か俊希が鶴見大附属に行ってから会ってないから…もう1年か。相変わらずだな」
「相変わらずは初又さんの方でしょ」
初又 茂晴。身長190センチの大柄を見せつける彼は、小・中学時代からの先輩だ。始めたての頃は俺だけでなく俊希の指導もしていたものだ。中学の大会では俊希とバッテリーを組み、チームを陰ながら準優勝に導いた立役者の1人である。当然、かなり上手い。
「入部希望か?」
「そうじゃなきゃ、こんな所まで来ませんよ」
「そうだな、そう言われるとその通りだ。今から練習する気満々、って顔だな」
「当然っすよ」
「よし、それじゃ更衣室案内するから、着替えて来いよ。流石に入学式の日に制服で野球して汚しちゃマズイしな」