グッドマン
一つの騒動が終わったがそれは、新たな騒動の始まりでしかなかった
「ありがとうございました」
一人の少女が較達に頭を下げる。
「お礼を言われる事なんてしてないよ」
較がそう返答すると良美が頷く。
「本当にそうだよね」
少女の背後では、離れた位置に男達が固まって叫んでいた。
「この破壊神!」
「鬼、悪魔!」
「二度と来るな!」
少女も作り笑顔で告げる。
「こんどこちらから遊びに行きますから」
「こちらからって言葉を強調してない?」
良美が聞き返すが少女は、答えない。
こうして較達は、前回の騒動のお仕置きで受け取った仕事を終えて帰るのであった。
空港に到着した較と良美が飛行機を待っていた。
その背後では、日本人観光客が騒いでいた。
「どうして、目玉の古代遺跡観光が中止になったんだよ!」
客からのクレームに添乗員が冷や汗を垂らしながら答える。
「えーとその古代遺跡が謎の災害で消失したらしく……」
「謎の災害って何だ!」
「消失ってありえないだろう!」
更に高まるクレームに添乗員が涙目になる。
「謎の遺跡消失、もしかしたらこれもホワイトファングの仕業かもしれない」
一人の日本人男性がそう呟きながら、移動を開始する。
「ねえねえ、今の人、どっかで見なかった?」
良美の言葉に較が少し考えてから言う。
「確か、どっかの空港ですれ違った事があったかも?」
そんな較と良美にとっては、日常茶飯事の一幕であったが、その後も日常茶飯事の別の一幕であろう。
何かを必死に抱えながら駆けて行く少女とその後を追う黒服の男達。
「よく見る光景が目の前を通り過ぎたね」
良美の言葉に較は、視線すら向けずに答える。
「よくありすぎる。大体、関わって感謝されるより、迷惑がられる事の方が多いよ」
それでも良美は、少女が通り過ぎた方向に顔を向けると破砕音が響き、悲鳴があがる。
「化け物よ!」(英語)
「助けて!」(フランス語)
「ここは、地獄か!」(ロシア語)
逃げ出す人々を見ながら良美が一言。
「ヤヤ?」
較は、諦めのため息を吐く。
「運命には、逆らえないって事だね」
較は、逃げ出す人々を避け、案内板の上を飛び渡り、騒動の中心部に向かった。
『大人しくⅤクリスタルを寄越せ』(少し発音がおかしいドイツ語)
筋肉が肥大化し、黒服が内側から引き裂かれ、服の破片しか身に着けていない元黒服の男達が少女を囲んでいた。
「これを渡せば、貴方達は、またあの悪魔の研究を続ける。そんな事は、させません」(ドイツ語)
少女が胸に抱えたそれ、不思議な光を放つクリスタルを必死に護ろうとしていた。
『ならば、殺して奪うまで!』(少し発音がおかしいドイツ語)
元黒服達が少女に襲い掛かる。
「はい。そこまで」(ドイツ語)
較が少女の前に降り立つ。
『ガキが邪魔をするな!』(少し発音がおかしいドイツ語)
較が面倒そうな顔で指摘する。
「この状況で邪魔するなって無茶を言うよ。あちきの名前は、白風較。この名前に聞き覚えがあったら止めておきなよ」(ドイツ語)
元黒服の男達が怯む。
『嘘だろ。あの化け物がどうしてこんな所に』(少し発音がおかしいドイツ語)
「筋肉のお化けに化け物呼ばわりされた」
眉を顰める較の後ろで少女が戸惑いながら尋ねてくる。
「白風較と言うと、ホワイトハンスを半壊にしたあの?」(ドイツ語)
「そんな事件もあったね」(ドイツ語)
較が嫌々答えると少女が続ける。
「月に一度は、衛星軌道上からも解る破壊活動を行っている?」(ドイツ語)
「近頃の人工衛星は、高性能だよね」(ドイツ語)
較が話を逸らすが、因みに衛星軌道上から目視できるって意味である。
「関わると必ず騒動を大騒動に進化させ、阿鼻叫喚の地獄を生み出す、地上最強の攻撃力を持つ者、ホワイトハンドオブフィニッシュ」(ドイツ語)
更なる少女の問い掛けに流石に較が沈黙するが元黒服たちは、明らかに動揺する。
『ヤバイじゃないか?』(少し発音がおかしいドイツ語)
『あれは、人間じゃないって話じゃないか?』(少し発音がおかしいドイツ語)
『この頃の特殊作戦指示書の特記事項には、出てきたら一時撤退するって書かれているぞ?』(少し発音がおかしいドイツ語)
周りの元黒服達に確認されて先頭に居た元黒服が悩んでいたが、いきなり叫んだ。
『所詮、噂だ! 今回の任務においては、一時撤退の特記事項も明記されていない。やるしかないんだ!』(少し発音がおかしいドイツ語)
そして筋肉を更に肥大化させてその元黒服が言う。
『俺達も人間の限界を超えた超人、グッドマンなのだ』(少し発音がおかしいドイツ語)
拳を振り上げて較に襲い掛かるが避けられ床を粉砕する。
「なるほどパワーだけは、あるね。でも、パワーだけでどうにかなると思うのは、馬鹿だよ」(ドイツ語)
較の挑発に元黒服が不気味な顔で笑みを浮かべる。
『パワーだけでグッドマンとは、呼ばれない』(少し発音がおかしいドイツ語)
較が空中で動きが停止した。
「その人達、グッドマンは、超能力も使えます!」(ドイツ語)
少女の叫びに較は、淡々と状況判断をする。
「するとこれは、念動力ってところだね」(ドイツ語)
『動けなければ、避けられまい!』(少し発音がおかしいドイツ語)
元黒服、グッドマンが勝ち誇り拳を放つ。
『フェニックステール』
グッドマンが拳の先から炎に包まれる。
『貴様、何をした!』(少し発音がおかしいドイツ語)
残ったグッドマンが叫ぶと解放されて着地した較が答える。
「ちょっと、理に干渉して摩擦熱の発火温度を下げただけ。そいつは、自分の大パワーで自爆したって所かな?」(ドイツ語)
ここに来て、更なる非常識にグッドマン達も戦くが暫く中途するなか、少女の方を見て覚悟を決める。
『このまま戻ってもベターマンに殺されるだけ。死ぬ気で行くだけだ!』(少し発音がおかしいドイツ語)
グッドマン達が数人が念動力で攻撃しながらも残ったメンバーが摩擦熱に気をつけながら接近する。
念動力で牽制されている筈の較だったが、前進し、両手を振るう。
『ダブルヘルコンドル』
カマイタチがグッドマンの体を切り裂く。
『馬鹿な奴には、念動力が通じないのか?』(少し発音がおかしいドイツ語)
較が苦笑する。
「あのね、この手の力は、安定性が低いの。あちきの気を放出して、その安定性を壊してやればそれで力を失うんだよ」(ドイツ語)
『……非常識な事を言いやがってこの化け物が!』(少し発音がおかしいドイツ語)
悲愴な思いで特攻するグッドマン。
『シヴァダンス』
較が舞うと特攻してきたグッドマン達が氷に覆われる。
「まだやる?」(ドイツ語)
較の最終勧告に躊躇していると携帯電話の電子音が鳴り、グッドマンは、頷き合って撤退を開始した。
「もう終わっちゃった?」
逃げ惑う人々に邪魔され遅れていた良美がやってきた。
「まあね、こっから事情説明ターン」
較の説明に慣れた様子で良美が言う。
「その子が日本語出来るとリアルタイムで事情が解って良いんだけどな」
少女がおずおずと答える。
「一般会話レベルでしたら可能です」
較が後始末の為の連絡をしようと携帯を取り出した時、最初の焼かれたグッドマンが復活する。
『このまま終われるか!』(少し発音がおかしいドイツ語)
その拳が良美に向けられて居た。
『バハムートブレス』
較の気が篭った掌打がグッドマンを窓から外に吹き飛ばした。
「治癒能力も高いみたいだね」
八刃の関係者による裏工作が行われる中、空港から少し離れた所にある食堂に較達が居た。
「私の名前は、アドル=ヒットルーと言います。ドイツで生物学を研究する施設で研究を行っていました」
少女、アドルの言葉に良美が驚く。
「研究をしていたって、アドルって何歳?」
アドルが苦笑する。
「飛び級で大学を卒業して、今は、十八歳です」
「ふーん、それでさっきのは、そこの研究成果として、どうしてそんな研究の大切な物を持って逃げてるの?」
較が、アドルが膝の上に置いた問題のクリスタルが入ったバックを指差す。
「これが人を化け物に変える悪魔の研究だからです」
俯くアドルに良美が頷く。
「あんな筋肉お化けを作る研究なら確かに反対したくなるわな」
「違います。グッドマンは、確かに人を超える力を持ちますが、あの程度の事ならこのⅤクリスタルを使わなくても可能です。あの研究、ベストマン計画は、あんな物では、ないのです」
アドルの熱弁に較が不思議そうな顔をする。
「さっきから気になってたんだけど。どうしてグッドマンとかベストマンな訳? 普通ならドイツ語を使うと思うけど?」
アドルが苦々しそうに語る。
「元々の研究がアメリカで行われていたからです。アメリカで、研究の続行が難しいと思った研究の責任者、ドイツ系アメリカ人のシュバイツ博士が亡命してベストマン計画の立ち上げたからです」
「ベストマン計画か。なにか聞いた事がある名前だね」
良美が思考していると較が苦笑する。
「アニメ。ガオガイガーってロボット物の同一世界の話のベターマンって作品で最高の人類を生み出そうって計画があったの。実際にそういった試みは、多種多様な組織で行われているけど、今回のもその一つでしょ」
アドルが頷く。
「私もそう考えていました。人間の可能性を引き出し、更なる高みに至る為の人類にとって有意義な研究だと」
「それが、軍部の介入で変質して行ったって所?」
較の指摘にアドルが弱々しく頷く。
「強化する能力を戦闘力に特化させたあらたな戦力にしようとしているのです」
「よくある話だね」
良美の言葉にアドルが苦笑する。
「フィクションでは、本当によくある話ですね」
「えーと実際によく遭遇するけど」
意外そうな顔をする良美にアドルが呆れた顔をする。
「あの噂ってやっぱりかなり合っているのかも」
「その話は、おいておいてベストマン計画って言うのがとにかく危険だって事は、解った。それでそのⅤクリスタルって研究の要を持ってこんな古代遺跡観光しかない国に逃亡して来たって訳だよね?」
話を誤魔化す様に元に戻す較にアドルが頷く。
「事が国家レベルの事なので警察も信用出来ず。とにかく追っ手が掛からない所まで逃げてから留学していた時の伝手を使ってアメリカに亡命、事実の公表を行おうと思っていました」
「この前のマッキーに比べて現実的な手だね」
良美の呟きに較が苦笑する。
「五十歩百歩だよ。実際に追っ手が掛かって来て、捕まりそうだったんだからね」
アドルが暗くなる。
「そうです。このままでは、とてもアメリカに亡命するなんて時間は、ありません」
「あたし達が手伝おうか?」
良美の提案にアドルが慌てる。
「いえ、そんな怖い、じゃなくてご迷惑をかける事は、出来ません」
「本音が漏れてるよ」
較がジト眼で睨むとアドルが怯みながらも主張する。
「しかし、本当に関係ない人を巻き込むわけには、いきません」
「良いんだよ。これも運命なんだから」
良美の言葉に較が遠い目をする。
「関わる前に避けようとも思ったけど無理だったからね。そういう訳だから、今後の対策を考えるよ」
「ですが……」
遠慮するというか全力で嫌がるアドルを他所に較達は、一つの騒動を終えたばっかりだと言うのに新たな騒動に巻き込まれていくのであった。